天高く誇り気高く



第1話 接触


---------国崎往人----------


ったく!次から次へと……おぉ!すまんな。待ってたぞ


ここは天空城。

今より8年前。

20年以上続いた世界大戦を経て、このキー大陸を平定した神聖王国『エアー』その王城だ。そしてここはその城の王の間。

玉座に座ってる俺は…まぁこの国の王ってことになってる。

俺自身、国王なんてモノには興味も無いし、取り立てて成りたいってシロモノでも無かったんだが……この国の姫だった美鈴に出会っちまったのが運の尽きだ。


大体が……
何の関係も無い俺をいきなり争乱に巻き込むわ。
やっとこ戦争を終わらせたかと思えば美鈴と一緒にこの国まで面倒みろだ。
美鈴は美鈴で次から次へと厄介事に首を突っ込む!
その度に俺に話を振ってきやがる!
3年前に他所の大陸に出た魔獣を「討伐する!!」とか言って城を飛び出した時にはホトホト参ったさ。
なんとかケリが付いたから良い様なものの、その地の国々がエアーの領土に成っちまって、俺はまた面倒事が増えていく……

コイツわざとやってねぇか?

ま!それでも俺はなんとかするさ。

美鈴は俺の大事な女。だからな。

10年前に誓ったのさ!俺、国崎往人は何があっても美鈴を護るってな!!


と……誓ったんだが…今回はどうにも厳しい事になっちまってる。

困った時の神頼みじゃねぇが、コイツ等に頼る以外に道がない。




「広瀬 琢磨。お召しにより参上仕り(さんじょうつかまつり)参上仕りました」

ったくコイツは おい琢磨!

「はっ!」

はっ!じゃねぇよ!俺と話す時は普通で良いっていつも言ってんじゃねぇか!毎回毎回仰々しい。
俺はお前をダチとしか思ってねぇよ!それを他人行儀に!
これはアレか?新種の虐めか何かか?

「そ!そんな事は」

だったら普通に話せよ、琢磨。

「……ふぅ。分かりましたよ。ほんとに往人さんは変わりませんねぇ」

たりめぇだ!こちとら20年以上国崎往人をやってんだ!そうそう変わってたまるかよ

「ははは…まぁそこが往人さんらしいけど……で?」

あん?

「往人さんが僕を呼んだんです。何か厄介事ですね?」

あぁ

「何がありました?」

まだ何も

「ではこれから?」

………

「………」

………

「………あのぉ、往人さ」

鬼珠が雷光を放ってるらしい

「!!!」

それに伴ってかどうかは分からんが、各地で魔物が活発化の兆しを見せてる

「かのモノが復活する……と?」

それは分からん。が、その兆しが出てきたってトコだ

「しかしなんで急に…僕達がアレを鬼珠に封じ込めてからまだ5年。鬼珠の力が弱まるには早すぎるんだけど……」

……美鈴だ

「はい?」

鬼珠の力が弱まったのは美鈴が原因だ

「……あの〜〜〜それって3年前の?」

あぁ

「でもあの魔獣退治は他の大陸でしたし、特に美鈴様が何かしたとは思えませんが」

俺もそう思ってたんだがな。鬼珠の件を聞いてからどうにも挙動不審だったんでな。昨夜問い詰めたらゲロしやがった。今は罰ゲームの真っ最中だ

「ははは、罰ゲームって…で、美鈴様は何をしたんですか?」

それがな……どうやら3年前、美鈴の奴は封剣を持ち出していたらしい

「なっ!!!」




琢磨の奴でも驚くか…まぁそうだろうなぁ

大体普通なら封剣を抜いちまったら、その段階で封印が解けちまうだろうからな。

「そんなバカな。封剣を抜いても封印が解けないなんて………!!そうか!」

そうだ。美鈴は翼人としての力で封印を補っていたのさ。ばれない様にニセの封剣まで用意して、わざわざそれを触媒にしてな

「それでですか。もし封印が解かれる事にでもなれば僕達に分からない筈が無い。でも僕達にも気付かれる事無くそんな事が出来るなんて……さすがは翼人の末裔ですね」

間違ってもアイツには言うなよ?褒められたと勘違いするからな

「はは…それは…なんとも……」


一瞬、琢磨に凄いと言われて満面の笑みで自慢げに剣を抜いた話をする美鈴の姿が頭をよぎりやがる。

え〜い忌々しい!

どうにもアイツはネガティブシンキングタイムを持続する能力に欠けるからな。少しは堪えてくれんとコッチの身がもたん。

まぁ、そんな封印も弱りかけてる。どうやら魔獣の件が終わった時には封剣は元に戻したらしいが、それでもその僅かな時間は、封印に致命的な綻び(ほころび)を生むに充分だったようだ。まったく…つくづくお前達は恐ろしいな。美鈴の翼人としての力を持ってしても、僅かな時間ですら肩代わり出来んとはな。

「まぁ僕達の封印は4人がかりのモノですからね。片時とは云え封印を持続出来たのは、やはり流石と言えるでしょう」

しかし解けてしまえば元も子も無い。このままでは5年前の降魔戦争の再来だ

「させはしませんよ」

琢磨?

「…人同士の争いを収めて8年。闇の軍勢を祓って5年。3年前の様なイレギュラーは有るにせよ、このキー大陸に平和が訪れて、まだたった数年…往人さんが創ったこの平和な時代が再び闇に覆われるのを黙って見ている程、僕の心は広くありませんよ」

俺が創ったんじゃ無い。俺達が創ったのさ!創って、護る!なにがあってもな

「はい!」

すまんが力を貸してくれ



「陛下。令を…貴方の意に、持てる総てを尽くし応えます」




戦争を収める為に…魔を退ける為に…悲劇を食い止める為に…幾度となく俺を救い、国を守り、人の世を守護して来たお前達に再び俺は縋らねばならんのか…



いいだろう



全ての者達の為にお前達を犠牲にしよう。

その罪、我が背負い許されざる咎人と俺はなる。

そして咎人が告げよう……


四天よ!鬼珠より出でる(わざわい)を防ぎ、世界を闇より護れ!



「四天が一つ『神威(カムイ)』の琢磨。御命、成し遂げて御覧に入れましょう」













----------相沢祐一----------


俺はなんで毎朝走らされにゃならんのじゃ!

「大丈夫だよ祐一ぃ。100mを7秒で走れば充分間に合うよぉ」


ちぃ!


朝っぱらから無理難題を吹っ掛けられて激走を強いられている俺は相沢祐一。

最近、この街に来たばかりだ。

で、このノホホンと俺に無茶を言い放つのは、俺の従兄妹(いとこ)の水瀬名雪だ。

そして、どうして俺達が朝っぱらから2人並んで人も跳ね飛ばしそうな勢いで走っているかというと……

どういう計算で出したデータだそりゃ?だいたい名雪は起きなさ過ぎだ!どういう神経ならアノ状況下で眠り続けられるんだ!

「え〜〜。普通だよぉぉ」

やかましい!異常だ!不思議だ!問題外だ!!真琴もあゆもとっとと行っちまうし!明日起きなかったら寝てる口に秋子さんのジャムでも突っ込んでやる!!

「えーーーーー!ぅぅぅ…祐一極悪だよぉ」

嫌なら起きろ!



と、云う様に、この名雪の異常とも言える寝起きの悪さが、俺達がしている早朝マラソンの理由である。

ま、本来。俺が起こさなきゃならん理由も無いのだが、そこは居候の身。少しは役に立たねば居心地が悪い。

俺と同じ居候のくせに、とっとと見捨てたあの2人の神経が俺にも欲しいところだ。

この街に来て、俺は名雪の家、水瀬家で名雪と名雪の母・秋子さんと一緒に暮らしている。

俺がこの街に来た理由はひとつ。


この剣と魔法を学ぶ名門校、ソーサリアン・アカデミーに通うためだ。


もともと歴史有るこの学園。8年前にエアーが大陸を統一してからは、その門戸を大陸全土、ひいては他の大陸へも開く事になり、その規模はキー大陸最大の学園となっている。

そんな学園に俺も通う事となり、母の妹である秋子叔母さんの家に居候することになった。

っと!どうやらもう間に合う所まで来たようだな。見知った顔を見る事も出来る。

「あっ!おはよぉ香里ぃ」

「!?あら?今日は早いのね?名雪。それに相沢君も」

簡単に言ってくれるな。なんなら替わってやろうか?この時間に此処に居るのが奇跡に思えるぞ?

「遠慮するわ。昔、散々同じ目に合った事有るから」

「うぅぅ…二人とも酷い事言ってない?」

「「そんな事無い(わ)」」

「うぅ、極悪だぉぉ」


うん。朝の一時を飾るにふさわしい穏やかな会話だ。「おい」

名雪はまぁ、とんでもない寝呆スケではあるが、外見は母である秋子さん同様、可愛いと言って問題無い「…おい!」

香里はまぁ美人の部類に十分入る。ウェーブ掛った髪が印象的だ「おいってば!!」

こんな2人の美人と一緒に3人で登校出来るのは、普通の健康な男子である俺にとっては、まぁ喜ばしい事であ」「おいったらおい!!おーーーーーい!!!!」ちっ!

「おい相沢」

なんだ北川よ

「せっかく登校時に会った親友に無視をくれた挙句、舌打ちのオマケまで付けるのは何処の国の習わしだ?」

!!知らんのか?知識が不足してるな

「何!」

このカノン領ではいざ知らず、そんな事では王都エアーでは生きては行けないぞ

「そうなのか?」

うむ。そうなのだ

「そうか…知らなかった」

感謝はいいぞ。

「あぁ、すまんな……って!んな訳あるかーー!」

ちっ!って、ん?どうした?名雪?香里も


2人とも顔を赤らめて立ち止まってしまっている。このままだと遅れるんだがなぁ

「あ…あんたねぇ…朝っぱらから恥ずかしい事言わないでよ!」

「そうだよ祐一ぃ。わたしは……その、嬉しいけど…」


ってちょっとまて!

声…出てたのか?

「はっきりとな!お前もその癖治さなきゃ、思ってる事筒抜けだぞ?で、ちなみに香里は俺のハニーなんだから変な色目で見ないでくバキィッ!ぐはっ!」


うん。飛んだな。

「朝から変な言い掛かりは辞めてよね!」

ふぅ。やれやれだ。

まぁ、いつもの光景ではあるが……



なぁ香里

「なに?」

何かあったのか?

「………何かって……何よ」

いや。なにって事は無いんだがな。北川の妄言は毎度の事だが、今日は幾分突っ込みが激しいと思ったんでな。何かイラついてんのかと思ってさ

「えっ?そうなの香里」

「…………」

「香里…」


う〜ん。朝っぱらから暗くなっちまったな。

香里は俯いちまったし、名雪も不安気だ。

ほんと。どうかしたのか?香里

「そうだぞ香里。なにか心配事ならいつでも俺に言ってくれよぉ!」

北川!どっから湧いて出た!

「ふっ!愛の成せる業さ」


なぜだ?今日はコイツを無性に殴りたいぞ?っていいか?殴っても!」

「云い訳無いだろ!」

ぬ!またか

「まただ!っとに。今はそれどころじゃないだろう」


ちっ!北川に諭されるとは屈辱だ


「……栞が………」

!栞が?

「ここ暫く体調も良くって安定してたんだけど……昨日、1日部屋に閉じこもって何かしていたと思ったら急に体調が悪化して………今朝は若干良くなったんだけど、衰弱が激しくて………」

「香里ぃ…」

「香里」

………くそっ!



香里の妹、美坂栞は病に臥してる。

4年前まで、栞は父親と一緒に他所の地に住んで居た。

昔、一緒に住んでいた時には普通の体だったのが、4年前に再会した時には既に今の様な状態だった。

この地を離れていた間に、栞に何があったかは知らない。でも、その数年の間に確実に何かが栞に起こり、アイツは未来への時間を失った。

原因となったのはおそらくあの降魔戦争だ。

この地でも被害は甚大だったが、当時、栞達が居た地方はまさに激戦地だったそうだ。

現に香里の父親は魔物との戦いで命を落としてる。

戦争が終わり魔が退いたあと、衰弱しきった栞を見つけ出した時には、香里は気が触れるくらい取り乱していたそうだ。

まぁ、アイツの妹への溺愛振りは昔から変わらないそうだからな。

香里と母親は、それこそ世界中の魔法医や魔道士を訪ね、栞を見て貰ったそうだが、彼女の病が治る見込みは無い。

ある有名な魔道士は「魔力の枯渇」が原因だと言っていたそうだが、それも可笑しな話だ。

なにせ栞は魔法使いじゃない。癒しの奇跡を起こす神官なんだからな。

自らの魔力を高める魔術と違い、神の力を借りる神官に魔力の枯渇なんて本来無縁の筈だ

もう俺達にはただ弱っていく栞を見続けるしか手は無いのか。

「たしか先週も栞ちゃんの事、診て貰いに行ったんでしょ?」

「うん…前に絶望的な患者を何人も治した人だって聞いて……でもダメだった…」

くそっ!


駄目なのか…やっぱり栞はもう……

「……ここで香里と一緒に俯いて栞ちゃんが良くなるなら幾らでも落ち込んでやるさ!でも違うだろ?だったらせめて顔を上げようぜ!俺達が諦めなきゃ何も終わりじゃないさ!」

北川…

「北川君」

「潤……」


まったく…コイツにはつくづく救われる。

そうだな!諦めないさ!諦めれる訳なんか無いさ!!

珍しく北川が良い事言ってるんだ!行こうぜ香里!まだまだこれからさ!俺達も栞も!

「相沢君…うん!そうよね!それにね、全くの無駄てわけじゃなかったの」

「ほんと?」

「ええ。その法師様って『法皇(ほうおう)』と顔見知りらしくて、今度、栞の事も伝えてくれるって」

「ほんと?香里!!すごいじゃない!!」

「うん!『法皇』なら何か良い方法を知ってると思うし、それに『聖姫(せいき)』にだって手が届くかも知れない」

「そいつはかなりの希望だな!っつうかそれ以上の希望って無いじゃん!」

「うん!」

『法皇』と『聖姫』……四天滅殺の2つ…か






【四天滅殺】…それは5年前の降魔戦争を終わらせた4人の英雄の総称だ。

それぞれ字名(あざな)のみ伝わり、その実態、実像を知る者は少ない。



一人は剣士………『剣帝(けんてい)』と呼ばれる地上最強の剣士
真紅の刀を持つ、すべての剣士の頂点に立つ者。

一人は拳士(けんし)………『神威』と呼ばれる無手の者
神の意を借る者であり、神の威を狩る者でも在ると云う

一人は魔術師………『法皇』の字名を持ち、全ての魔法をその手に修める魔法()()
その知識はこの世の理を修めているとも噂される程のもの。

一人は神官戦士………『聖姫』と崇められる神の奇跡の代行者
全てを愛す者。そして全てを癒す者。



四天滅殺争うを禁ず

その強大過ぎる力故、四天が争う事を固く禁じたのはエアー王国そのモノだ。

大陸を制した王国が最後に恐れるモノが同じ人類。それも自分達を魔王から救った者達と云うのは皮肉な話だ。

だが、それでも、そうせざるを得ない程の力が四天には在ると云う事になる。


そうだな。『法皇』なら何か知ってるだろうし、なにより『聖姫』の力を借りる事が出来れば、栞だって治るに決まってる!

「うん!私もお母さんもそう信じてる!だから希望は消えて無い!」

「よかったねぇ香里」


きっと上手く行く。行くと信じるさ!すべては信じる事から始るんだからな!」

「かなり臭いけど相沢に言う通りだな!」

!!またか?

「あはははぁ。祐一ったらカッコイィ」

「ふふふ。ホント、あんた達って暑苦しいわね。さっ!行きましょっ。そろそろ遅刻しちゃうわよ!!」

「まじ!?」

なんと!

「あははぁ」


元気に走りだす美坂を追いかけて、俺達は学園へ駈け出した。

その為に気が付かなかった……俺達を見つめて居た者の視線に……その声に……




《そうだよ……希望は消えて無い……でも絶望もすぐ其処に在る……

多くの希望と多くの絶望、君達が何を手にして何を失うのか…それはまだ判らない……》










----------岡崎朋也----------



「おっす!朋也!」

おう。春原


教室へ入るなり陽平に声を掛けられるとは、なんか今日1日が思いやられる気がする。

「……なんかすっごく失礼な事考えて無いか?」

そんな事はないぞ。

「なら良いが…っつかそんな事より聞いたかよ?」

ん?なにが?

「例の辻斬りさ!昨日もまた出たってさ」

あん?またかよ…いい加減カノンの騎士団は何やってんだか。クラナドじゃそんな奴、秒殺だぜ!


俺達が話しているのは、最近領内に出没している辻斬りだ。

なんでもかなりの凄腕らしく、今月に入ってもう10人以上は殺され(やられ)てる。

俺のすんでたクラナドと違い、ここカノン領の騎士団はよっぽど無能らしいな。そんな無頼漢一人片付けられないとはな

「いや。それがそうでも無いらしいぞ」

あん?なにがだ?

「騎士団の云々さ。昨日の晩、たまたま近くに居合わせた剣士が駆けつけて、辻斬りと()り合ったんだけど、結局返り討ちらしいぜ」

だからそれがどうしたんだよ?所詮カノンの剣士なんてそんな

「その剣士ってのが出ア 統らしいぜ?」

!!マジかよ!!

「大マジさ」


出崎っていやぁクラナド領でも名が知れ渡ってる男だぞ。それを返り討ちとは……

騎士団が弱いんじゃ無い、そいつが強いのか……さすがは月牙退魔剣か…。ん?!!

気が付けば俺の横に人が立っていた。

おい!どこまで気配を消せるんだよ!

「………」

……なんだよ

「………」

…あのなぁ川澄。なにか用があるなら

「違う……」

?あん?

「月牙の剣士じゃない」

違うって…でも辻斬りの奴は()合う前には必ず流派を名乗るらしいしな。第一、俺も見た事有るが、あの太刀筋は月牙の剣のソレだぜ?

「でも違う……」

………ふぅ。分かったよ。悪かった。もう言わねぇよ

「………」


無言で帰って行きやがった。

ほんとに気配の薄い奴だ。流石は川澄舞か。

まっ。川澄の気持ちも分からんじゃないけどな

「どんな風に?」

!!なんだ杏か

「なんだとは何よ!朝から失礼ね!」

分かった!分かったから朝からがなるなよ

「なんですってぇ!!…まぁいいわ。それより舞と何話してたの?」

あぁ。例の辻斬りさ。それを月牙の剣士と一緒にしたのが気に喰わなかったらしい。無言のプレッシャーを受けたぜ

「あぁ。昨日もまた出たんでしょ?そりゃ舞も怒るわよ。大体、月牙退魔剣は代々川澄の家で受け継いでる流派でしょう。それを汚されて、一番悔しいのは舞だもの。実際、毎晩領内を徘徊して回ってるって話よ」

おいおい、マジかよ。あの出崎も()っちまった奴だぜ?いくら川澄でも無茶だろぅ

「理屈じゃないんでしょ。聖国十剣の誇りを汚されたんだもん…舞にとって、それは絶対に許せないんだと思う」

……だから…気持ちも分からんじゃないって言ってんのさ






聖国十剣。

3年前に隣の大陸に現れた魔獣ザナファー。

それはキー大陸、このエアーまでを巻き込んだ一大事件だった。

その最中で魔獣を討ち取る為に奮迅の働きを見せた十の流派を人々は称え、聖王国エアーは国王の名の元に聖国十剣として敬われる事になった。

川澄の父もその戦いで英雄的な戦いを見せ、聖国十剣の一剣に数えられる事になった。

だがそんな英雄も、その時の戦いの傷が原因ですぐに息を引き取ったらしい

その後、川澄舞は師範として流派を護ってきたが、今回の辻斬り騒動でその名も地に落ちた。

今では門下の者は一人も居ないらしい。

かつては十剣最強と云われて居た事もあったんだがな。

なにしろ川澄の父親はあの『剣帝』をして自分に次ぐ者と認めていた程だからな

まったく…どいつもこいつも……なんだって俺の周りの奴は思い詰める奴が多いんだかな

「あんた。また変な事考えてんじゃ無いでしょうね?」

なんだよ変な事って

「どうせ辻斬り探しでも手伝おうかと思ってんでしょ?」

ほう。なぜそう思う

「分かるわよ。誰にでも」

そうか?春原

「まあね。朋也は分かりやすいからな」

そうか。気を付けないとな

「気を付けるのはアンタ!騎士団でも敵わないんだもん、辞めときなさいよ」

それにしても川澄一人じゃ危ないだろ?

「危ないけどさ、アンタが行っても足手まといじゃん!舞の実力、知ってんでしょ?アンタも確かに強いけど、舞には敵わないでしょ?」

う〜〜ん。それを言われると辛いな

「はは。情けないな朋也」

だまれ春原。お前などこの前の立ち合いで舞に秒殺だったじゃねぇか

「うっ!!そ…そういう朋也だって」

俺は3分持ったぞ!

「威張って言う事じゃないでしょうに。まったく情けない」

そうは言うがな杏。川澄とまともに立ち合えるのは、智代位だろ?教師も含めてさ。次いで秋夫さんや祐介さんだろ。その次位には俺は居れると思うがな

「はいはい。たいしたもんね。最近2年に活きの良い()が入ったって言うし、上ばかり見てないで足元も見なさいよね。じゃね」

余計なお世話だ…



2年ねぇ。そういえば智代が言ってたな。なかなか強いって。

たしか……

相沢祐一…だったか


その時、教室の中に居た一人の存在に、誰一人気が付く者は居なかった。

窓の外を眺める俺も、学園最強を誇る川澄でさえ気配を感じる事も、その声を聞く事も出来ずに……



《そう…相沢祐一君だよ。この流れの中で、君と二人で中心と成るべき存在……

君達は何も出来ない。何を出来る力も無い。それでも君達の周りを運命が廻る……

抗って見せてよ。君達の全部で…この運命に……》










----------相沢祐一----------



ふぅ。なんとか間に合ったか。まったく名雪の奴め

「おはよう相沢」

ん?あぁ智代か。おっす!

「今日もギリギリなのだな。こう毎日時間ギリギリの登校が続くのはあまり感心しないぞ?」


まったくだ。俺も諸手を挙げてお前に賛成だ

出来たらその言葉をそっくりそのまま名雪に言ってやってくれ。必要なら強制連行でもして始業2時間前にでも回収してくれると有り難い

「ははは。まぁ、考えておこう。それより今日は別件だ」

なんだ?

「あまり無茶をするなよ」

???

「取り返しの付かない事になる前に止めておこうと思ってな」

おい。一体なんの話だ?


朝っぱらから訳の分からん事を。

「ん?例の辻斬りさ」

あぁ。あの舞の流派を騙ってる奴か。まぁその内、舞にでも成敗されるのがオチだな

「うむ。川澄先輩は確かに強いからな。彼女なら奴と相対しても遅れを取る事は無いだろう」

そういうお前だって、辻斬り如きには遅れは取らんと思うがな


剣士の川澄舞と拳士の坂上智代、2人の仕合いを見た時には驚いたもんさ。

それとなく自分の腕には自信が在ったからな。つくづく世界の広さを実感したよ。

「私がどうかはわからんがな。まぁ川澄先輩も夜は街に出て奴を探してるようだし、無用な手出しをするつもりは無いのだが、どうやら学園にはそうもしていられない者達も居るようでな」

なんの話ださっきから


いい加減、こいつの話は回りくどいから苦手なんだが

「自警団を創って街を見回り、辻斬りを討とうとする者達が居るんだ」

なんともモノ好きな

「街の治安を守ろうとする精神は結構なのだが、事が事だ。惨事にならんとも限らん」

まぁ、そうだな

「だから相沢。無茶はするなよ」



……………… おい。智代

「なんだ?」

なぜその忠告を俺に言う?

「いや。だから私はお前の心配をだな」

いらん!つか必要無い!!なぜこの俺が、そんなけったいな自警団なるモノに加わらねばならんのだ!!

「?そうなのか?」

訳の分からん事を。そうなのだ!第一、忠告するんならその自警団に直接言えばいいだろうが

「ふむ………まぁ、相沢の言う事も尤もだ。すまんな。てっきりお前もこの件に絡んでいると思ったものでな」

誰が。俺は自分の身を犠牲にしてまで、この街の平和を勝ち取ろうとは思わんよ。第一が、その為の騎士団であり領主や国なんだろう。精々、戦う義務を負った者達が必死で戦ってくれればいいのさ。いつか俺の番が来た時には俺も戦う。今はまだ俺の戦う時間では無いってだけだ


俺は俺の大事な奴らの為に命を張る。

俺の護りたい者達の為にな。

「そうだな。わかった。では月宮、沢渡、伊吹の3名には直接注意するとしよう」

そうそう。そういう熱〜い志を持った若者達には、お前が直々にキツ〜イお仕置きをだな…………誰だって?




さて、どの神に祈ろうか。俺の聞き間違いであってくれ



「ん?だから自警団を創ろうを呼び掛けてる3人だ。月宮あゆと沢渡真琴、それに伊吹風子だ。今もグランドで呼び掛けてるぞ?3人ともまだ1年だしな。このまま見過ごす訳にもって…相沢?」


1・・・2・・・3!

うん。きっかり3秒は心臓が止まったな。って!



あんのバカたれ共がぁぁぁぁ!!!



俺は、それはもう一目散と云う言葉の如く、教室を飛び出していた。

背中に「授業が始まるぞ!」と言う坂上の声が聞こえた気がしたが、今は先を急ぐので聞かない事にしておこう!

一刻も早くあの、肉まん星人とタイ焼き星人とヒトデ星人を回収せねばならんのでな!!



え〜〜い!次から次へとよくも飽きずに!!

大体、出会って間もない俺が、なんであいつ等に振り回されにゃならんのだ!

つくづく俺も付き合いが良い奴だ!!ちくしょう!


月宮あゆは、この街に来たばかりの俺にまとわりついて来た、まぁ奇妙な奴だ。

沢渡真琴はなぜか記憶を無くしてるのに、どうも俺に因縁を付けて来て離れない。

聞けば二人とも行くあても無いらしいようで、秋子さんが0.1秒も考えたかどうかの「了承」の一言で、俺と一緒に水瀬家の居候になってる2人だ。

伊吹風子は教師である伊吹公子の妹だ。

俺には星にしか見えないが、自称ヒトデらしい物体をこよなく愛している変な奴だ。

なんでか、あゆや真琴と意気投合したようで、最近ではしょっちゅう一緒に行動しているようだ。


で、不思議な事に、あいつ等が何かやらかす度に俺にお鉢が回ってくるのはどうした冗談なんだろうな!!




俺がグランドに辿り着いた時には、既に人影も失せていた。みんな教室へ向かったのだろう。

俺は辺りを見渡すと……!居やがった!

ん?影が4つ?なんだよ。自警団とやらに引っかかった奴が居たのか?かわいそうに…お〜い。その自警団は沈没が確定している泥船の様なモノだ。悪い事は言わないから早目の非難を推奨するぞぉ

なんてセリフを考えながら近づいていくと、俺にも奴らの会話が聞こえてきた



「へぇ〜〜〜。じゃあ琢磨はエアーから来たんだ」

「君は元々ココに?」

「うん!真琴はずっとココだよ。でも昔の事は覚えていないんだぁ」

「記憶が無いのかい?」

「うん。でも平気だよ!真琴は独りじゃないから」

「そう…」

「でもどうして琢磨君ってば、あゆ達の名前知ってたの?」

「そうです!風子はあなたに会った事なんて無かったです」

「ははは。不思議かい?」


コクコクコク

「はは。それはね。あゆちゃんや風子ちゃんが運命の子だからだよ」

「運命?」

「風子やあゆちゃんが?」

「そうだよ」

「あうぅ〜〜。真琴は!?」

「もちろん真琴ちゃんもだよ。君達はとても大事な運命の子達なんだよ。君達は誰よりも幸せに為らなければイケない。誰よりもね」

「風子はお姉ちゃんが幸せになってくれればそれで良いです」

「そう…大丈夫だよ。風子ちゃんの幸せはお姉さんの幸せでもあるんだから。そして真琴ちゃんやあゆちゃんもね……!!ふふ、ほら?彼の為にも、君達は幸せに為らなきゃね」

「「??!!祐一(君)」」



なんだ?こいつ?

聞いた限りじゃ、会いもしないのに3人の名前を知ってたり、なにか意味有りげな雰囲気を出してる。

「祐一ぃ!!あんたこんなトコに何しに来たのよぉ!!」

「相沢さんも一緒に自警団に参加するです!!」

「祐一君も一緒にやろぉよぉ」


え〜〜い!せっかくのシリアスを…

やかましぃ!自警団なんて素っ頓狂ななマネは辞めてとっとと教室に戻れぇ!!

「うぐぅ〜〜〜」

「あうぅ〜〜〜」

「あっ!待ってくださいですぅ〜〜」



ふ〜ふ〜ふ〜

まったく……さてと。

見ない顔…だな?

「はは。そうでしょうね。なんせ今日、この学園に来たばかりなんで」

学園に?

「はい。2年の広瀬琢磨と申します」


剣も帯びずに、拳士か?もしくは魔術……それにしても…

あいつ等の事、知ってるのか?

風子の話だと会った事はないらしいが。

「はは。名前位ですよ。あなたの名前もね。相沢祐一さん?」

コイツ!

俺が幾分の警戒を見せると、そいつ、琢磨と名乗った男は両手を挙げておどけて見せた

「いやだなぁ。怖い顔しないで下さいよ。僕は別にあなたの敵じゃありませんよぉ」

なんで目を瞑ってる?盲目だとでも言うのか?


そう。こいつは真琴達と居る時からずっと目を閉じてる。

まるで目をあける事が出来ない盲目の様に。

「あぁ。これは修行の一環ですよ。別に目が見えない訳ではありません。でも修行のお陰で目を開けなくても、より多くのモノが見えるようになりましたよ。貴方も試してみてはどうですか?」

おれは結構だ。今でも十分見えてるんでな

「そうですか。それは残念」

まぁいい……とりあえず、敵…じゃないんだな?

「誓って」

なら問題無い。俺も教室へ戻る。同じ2年だ、クラス、一緒になるといいな

「え?……うん。その時はよろしく」



なんだよ、一瞬驚きやがったな?別に喧嘩売ろうってんでも無かったんだぜ?ちょっと注意をはらっただけさ。

俺が気をつけなきゃ、あいつ等それこそ、肉まん一つ、たい焼き一つ、挙句の果てにはヒトデ一つで、どこにでもさらわれそうだからな。


俺はその見慣れない男に背を向け、校舎へと歩みを進ませた。

だから見えなかった。


俺の背中を見つめる、アイツの真紅と深蒼のオッドアイを……





「月宮あゆ……伊吹風子………か」


《そう……彼女達は運命の子……哀しい星の運命の子》


「音羽ちゃんかい?久しぶりだね」

《ふふふ。そうだね琢磨君。君にとっては久し振りだね。(ぼく)にとっては違うけど》

「ははは。そうだね」

《ねぇ琢磨君。この学園は鍵になる。時の流れの重要な鍵に……でも扉を開けるのは君達じゃない。新しい希望達》

「そうだね。感じるよ。新しい風を…哀しい風も……ココには哀しい話が多すぎる……」

《導いてあげて、新しい希望達を……琢磨君なら出来るから。君は(ぼく)の運命の人だから………》



「そうだね。僕は僕の出来る事を………」



第1話 完

Shadow Moonより

諸事情により、すみませんが感想は後日……


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