これは相沢祐一が北の街へ行く前の話。
 昏い昏い闇と手を結びながらも貫き通した、一人の少女の一途な思いが、世界の常識を壊し、一人の少年を取り戻す
――

 そんなちょっとした御伽噺。



???:???

 午前零時。
 わたしは誰もいない空っぽの家に一人、友人に教えられた秘術を試している。
 魔法陣の式は完璧。
 後は手に入れたこの呪文書「サロウォンの小さな鍵」の術式を唱えれば……
 その筈だった。
 わたしの予想外の現象が起こったのはこの直後だった。

『汝、我が力を求めるか』
「!?」

 聞き覚えのない声が、私以外誰もいないはずの部屋から響き渡った。
 そして次の瞬間、わたしの描いた魔法陣が光り輝き、まばゆい光が、部屋中を満たしていく。
 わたしはその眩しさに耐えられず、目を閉じる。そして、何も見えなくなった闇の中、誰かの気配が現れるのを、確かに感じる。そして、光が収まり、暗い闇と静寂が戻る。そして、わたしはゆっくりと目を開くと……

「ひ……」

 捕らえた人影の正体に気がつき、へたり込む。人影は床の上に、わずかに浮かんでいた。短く切りそろえた銀の髪が風もないのに揺らめき、愉快そうに恐怖で腰が抜けてしまったわたしのことを見つめる金の瞳。そして、特徴的なポンチョ……
 わたしはその姿をよく知っている。だからこそ恐怖した。だって彼女は……

「何驚いてるのよ? あんたがあたしを呼んだんでしょう?」
「は……“蝿の女王”ベール=ゼファー……こんな高位の魔王が……?」
「勘違いしないでよ?」

 わたしが召喚に成功したのだと言うことに、彼女はかぶりを振り、少しだけ不愉快そうな顔をする。

「あんな不完全な術式で、しかもあんた程度の腕で、このあたしが召喚できるとでも、本気で思ったわけ?」
「え……?」
「あたしは面白いことが起こってるみたいだから、ちょっとそれに乗じてみただけ」
「そ、そんな……」

 それではわたしの召喚は失敗と言うことなのか……? ここまで準備してきたことも、今まで培ってきた知識や努力も、すべて水泡に帰すだろうか……? この圧倒的なまでの力を持つ魔王に殺されて……
 恐怖にゆがむわたしの顔を、愉快そうに見下ろしてから、彼女は言う。

「そんな顔しないでよ。あんたの望みはかなえてあげようじゃない。あたしたちの力が欲しいって言うんなら、手を貸してあげてもいいわよ?」
「嘘……」
「もちろんただじゃない。あんたはいずれ、あたしにそのプラーナのすべてを譲り渡す。それが嫌なら……」
「……いいよ」

 魔王の契約の要求に、わたしは迷いなく答えた。
 その様子に、魔王は少しだけ目を丸くしたけど、すぐにすいっ、と目を細める。

「へえ……それが何を意味するのか知っていながらあたしとの契約を承諾するのね……面白いわ。いいわよ、あんたが何をしたいのかなんて、あたしにはどうでもいいけど、契約成立でいいわね?」

 最後の問いかけに対して、わたしはうなずきを返して答えた。

「いいわ。それじゃ、あたしの手に口付けをなさい。そして、あんたの名を教えて……それであんたに、あたしたちの力を貸してあげるわ……」
「瑞佳……わたしの名前は……長森瑞佳だよ」



輝明学園秋葉原分校:長森瑞佳

 話は少しだけさかのぼる。
 わたしはその日の学校の昼休み、ある友人を呼びとめた。

「神宮寺さん、ちょっといいかな?」
「あら、長森さん、ごきげんよう?」
「おー、瑞佳。どったの?」

 わたしは剣道着姿の友人、十文字冴絵さんとお嬢様然とした神宮寺百合子さんを、後ろから呼び止める。

「あ、ごめん、十文字さん。ちょっと、神宮寺さんとお話がしたいんだけど、いいかな?」
「わたくしと、ですか?」
「んー、あたしはいいけど、百合子は?」
「別にかまいませんわよ?」
「ありがとう、じゃ、ちょっと着いて来て欲しいんだよ」

 わたしは神宮寺さんを誘導し、校舎を出て、人気のない場所まで行く。さすがに神宮寺さんも、様子がただ事ではないと分かってきたのか、少しだけいぶかしげな顔をする。

「……ここならいいかな」
「こんなところまで連れてきて、お話だなんて、なんですの?」

 少しだけ警戒の色を交えて、神宮寺さんが問いかける。
 わたしは少しだけ迷いながらも、意を決して、彼女に話し始めた。

「神宮寺さん……わたしに、魔王召喚の方法を教えて欲しいんだよ!」
「……!?」

 ようやくわたしの話の内容を理解したのか、まともに顔色を変える神宮寺さん。

「……正直に言えば、お奨めしませんわ。魔王との契約は、確かに強力には違いありませんが、それ相応に対価も重い。安易に力を求めるだけなら、手を出すのはお止めになったほうがよろしくてよ?」

 苦い顔をしてわたしの顔を見つめる。が、わたしは彼女の苦言に対して、頭を振って答える。

「……そんなんじゃないよ」
「……それならば、何故ですの?」
「……成し遂げたいことがあるからだよ」
「…………」
「わたしもウィザードだよ。それの危険性なんて、十分知ってる。でも、それを成し遂げるには、もう普通の方法ではできないとわかってしまった。だったら、残された方法は、もう魔王の力を借りるしか手がないんだよ!」
「…………」
「だからお願い……神宮寺さん……わたしに魔王の契約の方法を……教えて……」

 わたしの真摯なお願いに、神宮寺さんはじっとわたしを見つめ、一瞬だけすっと目をそらすと、すぐに向き直り、真剣なまなざしで言った。

「……何が起こったとしても、自己責任でよろしいですわね?」
「神宮寺さん……!」
「ただし。ただでは教えられませんわ」
「え……?」
「わたくし、こう見えてもお金がありませんの。お昼代だって、毎日の生活費を切り詰めて切り詰めて、ようやく……」
「うー……わかったよ! 明日からわたしがお弁当を作ってきてあげるから!」
「十文字さんの分もお願いしますわね?」
「……負けたよ」
「契約成立ですわ」

 にっこりと微笑む神宮寺さんに、わたしはこの人には敵わないと思った。



月匣内部:里村茜

 ガンナーズブルームの一撃が、エミュレイターの眉間に突き刺さり、その身体を消滅させる。
 おそらく今のが親玉だったのだろう。敵に明らかな動揺が走る。その機を逃さず、私はすばやく次弾を装填し、射撃。それは敵陣の中央にて炸裂、残存戦力を跡形なく消滅させる。

「ふっ」

 背後では短い呼気と共に何かを切り裂く音。そしてその直後に響き渡る断末魔。どうやら後ろも終わったようだ。

「これでラスト!」
「こちらも終了です。七瀬さん」
「うっしゃ、これでミッション終了ね!」

 私の報告を聞き、七瀬さんは刀を〈月衣〉に納め、大きく伸びをする。私も得物を〈月衣〉にしまい、深呼吸をする。もちろん周囲の警戒は怠らない。

「七瀬さん、無警戒にも程がありませんか?」
「いいじゃない。この辺のエミュレイターで生き残っている奴はもういないし」
「増援の可能性を否定しないんですか?」
「その時はその時で、叩き伏せてやればいいのよ」
「その血の気の多さ、どうにかなりませんか……?」
「なんないっ」

 迷いなく言い放つ七瀬さんに、ため息を一つこぼす。月匣のルーラーが消滅したのか、紅い月は消え、空は元の夜空の色になる。すべてを飲み込んでしまいそうな漆黒の夜に、点々とこぼれる星の一つ一つ。それは街の僻地から望んだにしては、ひどくきれいに輝いている。吐く息が白い。そろそろ冬が近い証拠だ。

「では、報告を済ませて撤収しましょう」
「そうね……かーっ、今日も疲れたわねー……」

 七瀬さんは、軽くストレッチをして身体をほぐすと、軽く跳躍し、民家の屋根に飛び乗る。そして、振り返って私に手を振る。

「じゃね、茜。また明日、学校でね」
「はい、また明日」

 そっけない返事ではあったが、七瀬さんは満足したのか、そのまま振り返ることなく、屋根伝いに家路に帰っていった。
 私は一人取り残されると、0-PHONEを取り出し、絶滅社の本部へと連絡する。

「里村です。目標消滅、帰還の許可を願います……了解です。では、私の調整は予定通り明日、支部に出頭して執行でお願いします、オーバー」

 短い連絡を終え、私は白い息を吐き出す。
 もはや慣れてしまった作業の繰り返し。
 世界の敵を狩って、狩って、狩り続ける。
 その先に何が待っているかなど、私にはどうでもいい。
 ただ私には、こうしていれば、いつか必ず、奴にまた会えることを信じている。

「“えいえんのしと”……」

 長らく忘れ去っていた心のざわめきが蘇る。その名を口にするたび、私はある種の高揚感を隠せないでいた。そう、この黒い高揚感、またの名を
――殺意。

「必ず見つけましょう……そして……」

 くすり、と。気がつかずに頬が緩んだ。



アンゼロット宮殿:川名みさき

「お代わり!!」

 私のお腹の欲求が、もう一皿のカレーを欲していた。
 だだっ広い宮殿の食卓は私一人。だから、気軽にカレーのお代わりを頼めると言うものだ。
 仮面をつけたシェフの人が、なぜか(顔は見えないが)泣きながら厨房に引っ込み、ぽつんと私だけが取り残される。
 と、それと入れ替わるかのように、別の人が、食卓に入ってきた。流れるような長い銀の髪に瀟洒な黒いドレスに小柄な背丈とくれば、彼女しかいない。

「あ、相変わらずの健啖振りですね、みさきさん」
「はい、カレーなら、何杯でもいけますよ!」
「そ、そうですか……」

 どこか引きつったような表情をしたアンゼロットさん。どうしたと言うのだろう?

「…………げつのエンゲル係数が…………おそらく来月も…………」

 何かこちらから目をそらし、ぶつぶつとつぶやくアンゼロットさん。本当にどうしたのかな?

「ところで、みさきさん? 食後の紅茶はいかがですか?」
「うーんと、後三杯食べてからでもいいですか?」
「まだ食べる気ですか貴方!?」
「まだまだいけますよ〜」

 わたしの返事と同時に、カレーのお代わりがやって来る。スプーンを伸ばし、じっくりと風味を味わってから、ゆっくりと胃に流し込む。もっとこの至福の時を堪能したかったが、お代わりのカレーを食べ終わると同時に、アンゼロットさんから、紅茶が差し出される。カレーのスパイスの匂いも好きだけど、この匂いも嫌いではない。

「おいしそうな紅茶ですね〜」
「特別に取り寄せた葉を使っています。遠慮はいりません」
「は〜い、あ、カレーのお代わり!」

 わたしが紅茶に口をつけた瞬間、アンゼロットさんはすかさず口を開いた。

「飲みましたね? では、一息ついたところで、みさきさんに新しい任務です」
「ほえ?」
「みさきさんは“えいえんのしと”と言うエミュレイターをご存知ですか?」
「はひ?」
「ここしばらくの間、消息を絶っていた“えいえんのしと”が、活動を再開したとの情報が、ある筋から入手しました」
「は、はあ……」

 矢継ぎ早に繰り出される、任務の説明に、わたしは相槌しか打てずにいた。

「みさきさんには、“えいえんのしと”を追いかけていただきます。場合によっては、他のウィザードたちとの協力は不可欠になるでしょう。引き受けてくださいますね?」
「えーと、カレーのお代わりがまだ……」
「ひ・き・う・け・て・く・だ・さ・い・ま・す・ね?」
「はい……」
「よろしい。では、みさきさんには、早速現地に向かっていただきましょう」
「え、カレーのお代わりが……!?」
「時間は待っていただけません。さ、ハリーハリー!」

 アンゼロットさんがいつの間にかぶら下がってた紐をぐいっと引っ張るのと同時に、
 わたしの足元がすっぽりと抜け落ちた。

「カレーのお代わりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 わたしの絶叫を飲み込みながら、
 わたしは暗い闇の中へとダイブしていった。



市内郊外:七瀬留美

 茜と別れて。
 ビルのフェンスを飛び越え、足を蹴りだして跳躍する。まだ夜は長い。あたしの戦いは、まだ終わっていない。火照る身体を押さえることなく、あたしは新たな戦いの場を求める。今頃、あいつはエミュレイターと切り結んでいるころだろう。急げばきっとまだ間に合うはず。あたしは全速力であいつのところに向かう。
 と、空が紅く染まっていき、紅い月が煌々と世界を照らす。誰かが月匣を展開している。戦いの場は近い。自然と顔がほころんでくる。あたしは歩を早め、〈月衣〉から愛用の刀を抜き、駆け出す。

(待ってなさいよ)

 たんっ、と跳躍し、心地よい浮遊感に酔いしれながら、あたしは何か複数の気配を感じ取る。気配は少しずつ数を減らしていく。もう誰かがエミュレイターと戦っているようだ。

(こっちね)

 あたしは、気配を感じた方向へと転換し、走り、跳びながら戦場へと向かう。あたしが駆けつけている間にも、着々と気配は数を減らしていく。かなり多くの気配を感じ取っていたはずだが、今やもうその半分すらも感じ取れない。どうやら今戦っている奴は、かなりの使い手のようだ。

(となると……やっぱりあいつかしら?)

 あたしはある一人の人物を思い浮かべる。あたしのクラスメイトであり、マジカルウィーフェアでも、多くの実績を残したウィザード。そしてあたしが男の中で、唯一ライバルとして認めてる奴。口元がほころんだそのとき、剣戟の音があたしの耳朶を叩く。
 近い! あたしは限界を超えて駆け出し、戦場へ乱入しようと一際大きな跳躍をする。と、視界が開けた空の下から、異形のものと、誰かが戦っている姿が、確かに見えた。しかし、その数は大きく数を減らし、今や異形に取り囲まれ、逃げ場を失った誰かと、取り囲んだ異形せいぜい
10数体といったところか。

(間に合って!)

 しかしあたしの願いもむなしく、自由落下と同時に、その人影が、異形を剣で薙ぎ払い、異形を一瞬にして吹き飛ばす。それでおしまいである。人影ががっくりと座り込むと同時に、赤い世界は壊れ、空は濃紺の夜空へと戻った。

「あー!」

 あたしの絶叫と同時に、足は大地を踏みしめた。人影は、疲れた表情であたしを振り向くと、ため息をついた。

「なんだ、留美か……」
「なんだじゃないわよ! あたしの獲物はどこ!?」
「知らん」

 呆れたように言い捨てるあたしのクラスメイト。

「つーか、お前、また乱入する気だったのか? つくづくバトルジャンキーと言うかなんと言うか……」
「うっさい! あー、もう! このやり場のない思いはどこへぶつければいいの……はっ、そうよ、祐一! あんたにぶつければいいのよ! 祐一、今すぐあたしと勝負しなさい!」
「冗談じゃない! 今日はもう疲れたんだ! 帰って寝る! ぐっすり寝る! たとえお前であろうと邪魔はさせん!」
「それじゃあたしのこの気持ちはどこにぶつければいいのよ!?」
「知るかぁぁぁぁぁ!?」

 クラスメイト、相沢祐一はあたしの提案を怒りの叫びと共に立ち上がった。

「大体、お前そんなに戦って、何の意味があるんだよ? なんか得るものでもあるのか? 前から聞きたかったが、そもそも、何でお前ってそんなに無意味に戦いたがるんだ?」
「さあ?」
「おい……」
「そんな難しいこと、あたしには分かんないし。それより、勝負勝負!」
「いーやーだ! もう今日は疲れたの! 帰って寝たいの! おとなしく休ませろ!」
「うー……」
「睨んでも駄目!」

 そう言うと、祐一はあたしに背を向けて、疲れた身体を引きずりながら、あたしから遠ざかっていく。
 と、突然足を止め、ちょっと警戒した顔をこっちに向ける。

「……まさか、後ろから斬りかかるなんてしないよな?」
「しないわよ! あたしだって、そこまでの常識はあるわよ!」
「そっか、じゃあ、明日な。留美、勝負のことは今度考えといてやるよ」
「……明日学校に来れるの?」
「……言うなよ、それを」

 泣きそうな表情で、あたしの問いかけに祐一が返した。
 実際、祐一が平穏無事に学校に来れる保証なんてどこにもない。いつどこで突然の任務が彼に降りかかるか分からないからだ。特に主な依頼主がアンゼロットとなれば、なおさらである。そんな一抹の不安を残しながら、祐一の姿はだんだんと遠ざかり、やがて見えなくなった。

「ちぇっ」

 あたしはやり場のない気持ちを、地面にぶつけ、地を蹴り飛ばす。あたしの蹴りで削り取られた土ぼこりが舞う。

「なんで、かあ……」

 祐一が去り際に言った台詞が少しだけ引っかかった。そういえば、あたしはもともと、何かを目標にして戦っていたような気がする。そのはずなのだが、それが何なのか、よく思い出せない。思い出そうとすると、なんだか胸が苦しい。

「あー、駄目だ! むしゃくしゃするー!」

 胸の苦しみをごまかそうと、あたしは大声で叫んだ。

 近所の人がすっ飛んできて、あたしは派手に怒られた。



 秋葉原路地裏:長森瑞佳

 紅い月の下。
 疾駆する影に向かい、わたしの魔装が光り輝き、打ち据える。
 それだけで影は蒸発する。
 ため息をついて、つまらなそうにそれを見下ろす。影が完全に消滅すると同時に月匣は完全に崩壊した。

「辛気臭い表情してるわね」
「ベル……」

 どこからともなく現れたベルに、わたしは一瞥もくれることなく、名を呼んだ。

「何の用かな?」
「あら、つれないのね。せっかくあんたが追ってる奴の情報、持ってきてあげたのに」
「!? 本当?」
「信じるか信じないかはあんたの自由」

 振り向いて問いかけるわたしの言葉に、からかうような視線を向けるベル。それをまっすぐと見据え、わたしは決心したように言う。

「聞かせて……」
OK。ぶっちゃけて言っちゃうと、そいつはこの街のどこかにいる。そしてすでに適当なターゲットも見つけてもいるようよ。ふふ、どうかしら? 世界を守るウィザード様としては、ほうっておけないでしょ?」
「…………」
「何か聞きたそうな表情ね?」
「……どうしてそんなことを教えてくれるの? 今の情報はあなた達にとって、不利な情報じゃないの?」
「そうね、簡単に言えば、そいつは最早、あたしたちにとっても、厄介な奴になり始めているって事よ」
「意味がよく分からないよ……」
「狩場を荒らす害虫はつぶすに限るでしょ? かといってあたしが表向きにそれをやっちゃうと、後々うるさい奴らが出てくるからね。手ごろな駒にやらせるのが筋ってものだと、思わない?」
「……それがわたしってこと?」
「利害は一致してると思うけど?」

 またもからかっている表情でわたしを見るベル。
 ……完全に利用されてる。そうと分かっていても、わたしはため息混じりにこういうしかなかった。

「……いいよ。やってあげる。でも、あなたの為じゃないよ。あくまでわたしの為。それでいいよね?」
「どうでもいいわよ。こっちは結果としてあたしの利になればいいんだから」
「……悪魔」
「あら、当然でしょ? あたしを誰だと思ってるの?」
「そうだったね……」

 きっと睨みつけるわたしを、ベルは涼しい顔で受け流す。ベルはわたしを鼻で笑うと、ふわりとポンチョを翻して、

「じゃ、よろしくね」

 軽く手を振って、闇の中へと消えた。

「………………」

 取り残されたわたしは、暗い夜道を一人歩き、白い息を吐きながら家路につく。途中、馬鹿な男たちが何か声をかけてきたが、例外なくちょっと怖い目にあってもらった。命に別状はないはずだし、その後の彼らには、特に興味もない。

「ただいま」

 と言っても、わたしの家には誰もいない。両親はわたしが高校に上がる直前に袂を分けた。あまり仲がよくなかったというのもあるが、わたしが早い段階でウィザードとして覚醒していたこともあり、両親を無駄に巻き込むまいというわたしなりの配慮でもある。この家はわたしがウィザードの報酬を元手にして、両親から買い取った。今頃両親は海外で仲睦まじくやっているのだろう。近所の人はそれをとても不思議がっているが、それを気にしていたらやっていられない。
 わたしは私室に入ると、ベッドに転がしたぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。これこそが、わたしが探している人の唯一の手がかり。彼がここにいたという唯一の証。

「浩平……」

 私はその名を呼ぶと、より強くぬいぐるみを抱きしめた。



Shadow Moonより

諸事情により、すみませんが感想は後日……


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