「そういえば、あゆ。お前、二つ名って決めたのか?」
あゆの転校の準備が整い、翌週に転校してくる事が決まった日曜、あゆと、俺の補習もかねての勉強会の最中、俺はあゆにチラッと聞いてみた。
「二つ名って、何?」
あゆの首がかしげる。
その様子だと、二つ名なんて言葉、初めて聞いたんだろうな。
「まあ、俺たちウィザードのあだ名みたいなもんだ。結構知られている名前だと、例えば“ナイトメア”とか、“下がる男”とか……」
「ふーん、そんなのがあるんだ……祐一君も二つ名って持ってるの?」
「俺? まあ、一応持ってるけどな……」
「聞きたい聞きたい! どんなの?」
あゆがずい、と身体を乗り出して尋ねてくる。
「その前にだ。まず、お前の二つ名を先に決めないか?」
「ぼ、ボク!?」
「ああ、いい機会だし、何か考えてみろ」
「うぐぅ、そんな事急に言われても思いつかないよ……」
「だろうな」
「だろうな、ってそんなあっさり!?」
「そう思っていい物を持ってきた」
そして俺はあらかじめ用意した手書きの3枚のシートと、色の異なる二つのダイスを取り出す。
「じゃじゃーん!! これぞ、『二つ名を楽々決めちゃおうお手軽シート』だ! これでお前の二つ名を決めよう!」
俺はコタツの上に、シートとダイスを広げる。
シートには、2枚が縦横を1から6の数字、1枚が横を1から6、縦を11から66までの数字の羅列で区切られ。それぞれに、『静かなる』『死の』等の形容詞、色、『ドラゴン』とか『ネプチューン』、『カッパ』や『アホウドリ』等の名詞を書き連ねてある。
「使い方は簡単。サイコロを振って出た目と表を比較して、それに連ねてある名前を組み合わせて、かっこいい二つ名を作ろう、と言うものだ。どうだ、凄いだろう!」
「……ひとつ聞いていいかな?」
「なんだ?」
「なんだか……変なものも交じってるように見えるんだけど」
あゆがこっちに向かって白い眼を向ける。
「さあ? 気のせいじゃないか?」
「気のせいじゃないもん! 何、この色に『ドドメ色』とか『こげ茶色』とか、名詞の『ハマグリ』とか『カジキ』とか!」
「何を言う。これはとても由緒正しい儀式なんだぞ。これからお前もウィザードとしてやっていくからには、これは避けて通れない通過儀礼なんだぞ」
「……すっごく、目が笑ってるように見えるんだけど」
ジト目のあゆがぶーたれる。
ええい、仕方のない奴め。
「まあ、物は試しだ。一回やってみればいい。それでお前が納得するような二つ名になったら、それでいいじゃないか」
「う、うぐぅ……」
「な? 試しに一回やってみろ?」
「う、うん……分かったよ、やってみる」
「よし、じゃあ、最初は形容詞からだ。どっちの色のダイスを横の欄、縦の欄と決めておけよ。交換はなしだからな」
「うん。分かったよ。それじゃ、行くよ!」
コロコロ、と題すがコタツの上を転がる。出た目は……2と4。
「2と4……か。ええと、表には……おお、『聖なる』か」
「やった、ちょっとかっこいいかも!」
「いやいや、次は色を決めるぞ」
「うん、この調子でかっこいい二つ名を決めるよ!」
あゆを勢いよくダイスを振る。今度は……1と5か。
「1と5、か。ええと……『青』! 何だ、ここまで結構まともっぽいな」
「うん、次の名詞だけど……これ、縦の欄はどうすればいいの?」
「ああ、どっちかの色を十の位、もう一つを一の位にするんだ。分かったか?」
「うん、それじゃ行くよ!」
あゆが気合を込めた最初の目は……4! そして、次に振った二つのダイス目は……2と4。24だ。
「4の24、4の24……『サソリ』! よし、今日からお前の二つ名は『聖なる青いサソリ』で決定だ! よかったな!!」
「全然よくないよ! そんな二つ名絶対やだ! 最初からやり直すよ!」
あゆはムキになって、もう一度、一からダイスを降り直す。
そして、出来た二つ名は……
「『愛のスミレ色パンダ』……」
「ぶふっ……わーはははっははははははははは! ひー苦しー!! やってくれたな、あゆ! 最高だぜ!」
「全然嬉しくないよ!」
ばんばん、とコタツを叩きながら、あゆは抗議した。
とりあえず、あゆが「他の人の二つ名も知りたい」と言うので、まずは身近なところから。
「と言うわけで、名雪。お前って二つ名、持ってるか?」
「わたし? うん、一応持ってるよ」
「名雪さん、それ教えてくれない?」
「うん、いいよ。“眠れるケットシー”って言うんだよ」
「へー……綺麗な二つ名だね。名雪さんにぴったりだよ」
「うん、ありがとう、あゆちゃん」
「いや、と言うか、名は体を表す、と言うべきなんだろうか……」
「香里、こいつが今度転校してくるあゆだ。仲良くしてやってくれ」
「は、初めまして! 月宮あゆです!」
「ふふ、緊張しなくてもいいわよ。あたしは美坂香里。よろしくね、月宮さん」
「うん! こちらこそ!」
「でだな、ちょっと聞きたいんだが、お前の二つ名って何だ?」
「……唐突に何を聞くの?」
「いやー、こいつがどうしても、って聞かなくってさあ」
「だって、祐一君が変な二つ名作ろうとするからいけないんだよ」
「あら、この子もウィザードだったの?」
「まあな。色んな事情で秋子さんのうちで預かってる。そんなわけだから、こいつに二つ名を教えてやってくれ」
「……分かったわ。あたしの二つ名は“紅き龍”よ。参考になった?」
「うん、ありがとう香里さん。でも、そんな二つ名のようなイメージじゃないような……」
「いや、ある意味では二つ名通りだと……」
「何か言ったかしら?」
「いいえ、何も言ってません!」
「へー、この子が新しく転校してくる子か」
「ああ、そうだ。あゆ、こいつが北川。で、早速で悪いが、お前の二つ名って、あるか?」
「ふ……よく聞いてくれた相沢。俺の二つ名、それは……」
「そ、それは……?」
「“スーパーデラックスヒーロー・ザ・キタガワ”……っておいこら相沢、どこへ行くんだー!!」
「さー、奴の二つ名は参考にならんから次いくぞ、次」
「……祐一、この子は?」
「ああ、こいつが今度転校してくるあゆ。よろしくしてやってくれ。それとあゆ。俺の袖に隠れるな」
「だ、だって、なんだか怖い雰囲気の人なんだもん……」
「…………」
「ほら、お前がそんな事言うから、舞がちょっと傷ついちゃったぞ」
「ぼ、ボクには、顔色が全く変わってないように見えるんだけど……」
「こう見えて結構繊細なんだ。それで舞、ちょっとあゆにお前の二つ名を教えて……あ、やっぱいい!」
「……どうして?」
「お前の二つ名って、確かアンゼロットが適当に考えた、アレだろ?」
「適当じゃない。“偉大なる赤いウサギさん”は、アンゼロットが一生懸命考えてくれた二つ名だから」
「…………」
うん。それ、絶対アンゼロットが、俺が作ったシートの要領で、適当に作った二つ名だから。口には出さないけど。
「はぇ〜、この子が今度転校してくる方ですか」
「ええ、あゆって言うんです。あゆ、こっちは佐祐理さん」
「えっと、初めまして。月宮あゆです」
「はい、よろしくお願いしますね〜」
「で、佐祐理さん、こいつに佐祐理さんの二つ名を教えてやって欲しいんだ」
「ふぇ、どうしてですか?」
「いやー、こいつがかっこいい二つ名がいいって言うもんですから、色々な人の意見を参考にしておこうかと……」
「あはは〜、そういうことですか。佐祐理の二つ名も参考にしたいと言う事ですね?」
「そうです。そういえば、俺も佐祐理さんの二つ名って、聞いたことないんでけど」
「はぇ〜、そうでしたね。では、お二人に、佐祐理の二つ名を教えましょう」
「ええ、是非」
「はい、教えてください!」
「“魔女っ子さゆりん”ですよ〜」
「…………」
「…………」
「ふぇ?」
すいません、佐祐理さん。貴方との付き合いはそれなりに長いですけど、今日ほどドン引きしたのは初めてです。
「よう、天野。こうやって直に会いに来たのは初めてだな」
「ああ、相沢さん。こんにちは」
「あうー、美汐。こいつ、誰?」
「ああ、真琴は知りませんでしたね。彼は相沢祐一。私の先輩で、凄腕のウィザードです」
「ふーん……」
「連れが失礼しました。彼女は沢渡真琴。ものみの丘から降りてきた、妖狐の一人です」
「ほー、そりゃ珍しいな。よろしくな、真琴」
「あんたに呼び捨てにされる言われはないわよぅ!」
「……可愛げのない奴」
「……まあ、余り人に懐かない子ですから。それで、ご用件は?」
「ああ、大したことじゃない。お前の二つ名を教えて欲しい」
「どういうことでしょう?」
「その前に紹介したい奴がいる」
「は、初めまして!」
「……相沢さん、この方は?」
「ああ、今度俺らの学校に転校してくる月宮あゆ。お前と同じウィザードだ。で、二つ名を決めたいと言うことで、色々聞いて回ってるわけだが……」
「そういうことですか。結構ですよ」
「おお、話が通じるな。断られるかと思ったんだが」
「まあ、名乗っても支障は出ないでしょうし、何より月宮さんの参考になれば嬉しい事ですから。お教えしましょう。私の二つ名は“裏切りの蝙蝠”です」
「……ず、随分物騒な二つ名だな」
「そうですか?」
「ま、まあいいや。ありがとな。天野」
「ええ、今度は相沢さんの二つ名も聞かせていただきますよ」
「……まあ、その内な」
「とまあ、一通り聞いて回ってきたんだが……どうだ、あゆ。何か参考になったか?」
「ちょっと待って。ボク、まだ祐一君の二つ名を聞いてないよ」
あゆが真剣な目で俺に訴える。
「……どうしても言わなきゃ駄目か?」
「うん。ボク、祐一君の二つ名、聞きたい」
「……分かった。教えてやるよ」
ホントは俺の二つ名は、あんまり名乗りたくないんだがな……
「……俺はあるウィザードに出会って、大を救うために小を切り捨てないウィザードになりたい、って思った。で、その時に、二つ名も自分でぱっと思いついたものがあるんだが……大それた名前なんで、あんまりこの二つ名を名乗った事はないんだよな」
「……じゃあ、ボクには教えてくれる?」
「……分かった。俺の二つ名。世界を守るために、零れ落ちようとしている小さなものも救いたいと言う思いからつけた俺の二つ名……」
俺は深呼吸してその二つ名を口にした。
「“小さな守護者”だ」
あの後、あゆは「もう少し、二つ名は自分でじっくり考えたい」ということで、あゆの二つ名騒動は、こうして終わった。
そして俺は密かに安堵していた。俺のもう一つの二つ名、かつてロンギヌスにいた時にアンゼロットに付けられた恥ずかしい二つ名……“炎の玉虫色サザエ”を隠し通せた事に。
しかし、俺が必死に隠したがっていたこの二つ名は、あゆが転校してからしばらくして、舞と一緒の昼食の席で舞によってばらされ、俺はしばらくそのネタで香里や北川にからかわれ続ける事になるのはずっと後の話。
Shadow
Moonより
諸事情により、すみませんが感想は後日……
会澤祐一様への感想は掲示板へ。
戻る 掲示板