部屋に戻った祐一はベッドで横になり先ほどの魔物との会話を思い出す。
オナジニオイガスル―――
魔物は確かにそういった。
徐々にだが自分でもわかる。
見えない何かに身体が侵食されているような感覚。
「……もう時間がない」
それは祐一がこの街に帰ってきた理由とも関係していた。
先ほど秋子に言った『記憶』を取り戻すのもその一つだ。
「……7年前か」
だが、今は過去に囚われている場合でない。
もう立ち止まる時間はないのだ。
明日から――――
そう思いながらゆっくりと瞼を閉じた。
月下の夜想曲
第3話
(なぜだ?)
「祐一この道覚えてる〜?」
(なぜ俺は…)
「昔はよく一緒に通ったよね〜」
(ここにいるんだ…)
「祐一〜聞いてるの〜?」
祐一の前を歩いていた名雪が不満そうな顔で振り返る。
はいはいと、気の抜けた返事をして空を見上げた。
今にも雪が降り出しそうな雲り空だった。
―――――今日から祐一さんには学校に通ってもらいます
朝食を食べていた時にいきなり秋子の口から出た言葉だった。
既に手続きは終えていて、制服もあるとの事。
断ろうとしたが秋子の有無を言わせない笑顔には勝てず、渋々了承した。
「ねぇ…祐一ってば!!」
「え?あ、そうだな…」
「もう…やっぱり聞いてない」
頬を膨らませ上目使いで祐一を見る名雪。
とても可愛らしいその仕草に、ついつい笑ってしまう。
「何笑ってるの〜?」
なんでもないと返事をして歩き続ける。
名雪はそんな祐一を不思議に思いながらも隣で歩く早さを合わせる。
(…!)
ふと祐一は通学路のずっと先にある丘を見つめた。
歩を止め、それを見つめ続ける。
隣にいた名雪は、祐一が止まっている事に気付かずにさくさくと歩いていく。
(おそらくあそこが……ものみの丘)
祐一の視界の先に今回の目的地があり、すべき事がある。
そう、『ものみの丘』に今回祐一がこの街に来た理由があった。
「ね、祐一?……あれ?祐一〜?」
隣に祐一がいない事に気付き、辺りを見回す名雪。
少し後ろに祐一がいるのを見つけると大声で祐一の名前を呼んだ。
「ああ、すまん。今行く」
学校の帰りに寄る事を決め、名雪と共に学校へ向かう。
もうすぐ……すべてを終わらせる。
そう心に固く決めて。
「ふぁ……」
祐一はあまりの暇さに思わずあくびをしてしまう。
あれから学校に着き、職員室に向かった。
担当の教師の石橋が来てすぐに教室に案内された。
そして、教室に案内され挨拶を終わらせてすぐに授業だった。
いきなり質問タイムとかに入ると思っていた祐一は少し拍子抜けだった。
だが、面倒だったのも事実だったのでこれはこれでいいと思っていたのだが……。
(…つまらん)
祐一の記憶には学校に行っていたというのはなかったので、多少楽しみにしていた。
だが授業の内容はほとんど知っている事であった為、退屈でもあった。
(さて……相沢家がどう動くかな)
これからの計画で相沢家は確実に動く。
いや、相沢家だけではなくすべての退魔師と魔物も動くだろう。
(すべてが敵になる……だが、もう後戻りはできない)
それはこの街に来る時からわかっていた事。
もう止まる事はできない。
進むことでしか道は開かれない。
(………)
目を瞑り、前の街にいた友人を思い出す。
出てくるのは楽しかった思い出ばかりだ。
だが、出てくる言葉は謝罪の言葉ばかり。
(…もう会うこともないだろうけど)
みんな幸せになってくれ……。
そう心の底から願っていた。
キーンコーン
「今日はここまでだな」
授業をしていた教師が、チャイムがなると同時にそう言って教室を後にする。
気がつくといつの間にか授業が終わる時間だった。
まだ冬休み明けの為、暫くは午前で授業は終わりである。
今の授業が今日の最後の授業であった。
「祐一、この後どうするの?」
名雪が隣に来て、祐一に問い掛ける。
祐一は今朝から気になっていた例の丘に行こうと決めていたのだが、名雪の存在を忘れていた。
「ちょっと散歩でもしようかと」
「そうなんだ。あたしは今から部活だから一緒に帰れないけど…大丈夫?」
それは好都合だった。
気楽に一人で向かう事ができる。
「大丈夫だ。そこまで子供じゃない」
「そっか。じゃあ行ってくるね」
そういって名雪は教室を出た。
それを見送った祐一は鞄を持って教室を出る。
目指すは『ものみ丘』だ。
校門まで出たところで視線を感じた祐一は振り返る。
(屋上に…誰かいる)
祐一の視線の先にいたのは一人の少女。
リボンの色からして祐一の一つ下の学年だろう。
少女は暫く祐一を見た後、その場を去った。
祐一もそれに合わせて歩み始めた。
Shadow
Moonより
諸事情により、すみませんが感想は後日……
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