雪が降っている。どんよりとした空から絶え間なく…まるで何もかもを覆いつくすかのように。





何もかもを……本当に何もかもを覆いつくしてくれたらどれほど楽になれるのだろうか?





少年は目を瞑る。浮かぶのは友の…家族と呼んでくれた人達の笑顔。






もう会うことは許されない、大切な家族だった人達――――。





思い出すだけで罪悪感に苛まれる。自分さえいなければと…。





何度自分の運命を呪ったことか……だがもう後戻りはできない。





では……行こうか―――――――――。





少年…は歩き出した。前に進む為に。





月下の夜想曲
第四章
第1話



「………ふぅ」

駅前のベンチに銀色の髪の少年が座っている。
溜め息を出し腕に着けた時計を見る。
ベンチに座り、二時間が経とうとしていた。
空を見上げる。どんよりとした雲、そこから舞い散る白い雪。

「………七年振りか」

少年が再び呟いた。
微かに呟いた言葉は宙へと霧散する。
七年振り……そう呟いた少年の瞳は何処か悲しみを帯びていた。
はぁっと白い息を吐き、目を瞑る。
七年振りの街、そのはずなのに懐かしいようで何処か懐かしくない。
矛盾していると少年は思う。
だが理由はわかっている、理由は一つし考えられなかった。

「………」

「…えっと」

気がつくと、少年の前には一人の少女が立っていた。
腰まで伸ばした長い髪、そしてすべてを包み込むような大きく優しい瞳。
その目は少年に向けられていた。
瞳が合い、少女が口を開く。

「…雪、積もってるよ」

「…そりゃ二時間も待ってるからな」

「え?…わっ…びっくり」

駅の時計台を見てから少女はそう言った。
言葉とは裏腹に、その様子はまったくびっくりしている様には感じられない。

「まだ二時ぐらいだと思ってたよ…」

それでも一時間の遅刻である。
少年はそう言おうとしたが、寒さのせいでうまく口が回らない。

「はい、これ…再会の印…」

そう言いながら缶コーヒーを少年に渡す。
少年は無言でそれを受け取る。

「それと……遅れたお詫び」

「……二つ合わせて缶コーヒー一本か?」

少年の問いに笑顔で返し、少女は空を見上げる。
空からは絶え間なく雪が降り続いていた。

「……七年振りになるんだね」

「……」

少年は何も返さず、缶コーヒーを開けて一気に飲み干す。
コーヒー独特の味がした。
はぁ…と白い息を吐き出す。

「私の名前…覚えてる?」

空を見上げたまま少女は問いかける。

「…そっちこそ、俺の名前覚えているか?」

もちろんだよと少女は返事を返す。
しばし無言で見つめあう。そしてお互い口を開く。

「祐一」

「…花子」

違うよ〜と少女は力なく言った。
空になった缶を近くにあったゴミ箱に投げすて、少年は立ち上がる。

「祐一…名前」

「……遅刻の理由は?」

話をそらすかのように祐一と呼ばれた少年が言う。
その瞳はまっすぐ少女を捕らえていた。

「う…ごめんなさい。部活が長引いて…」

本当に済まなさそうに謝る少女にそうかと短く返した。
目を合わさず、少女の横を通りすぎる。

「あ…名前」

「……そうだったな」

少女の言葉を無視して歩き続ける。
目指すは水瀬家、これから少年が暮らしていく家で、少女の家でもある。

「…行こうか。花子」

「うん!…ってだから花子じゃないよ〜!」

笑顔で祐一に返事を返し彼の後を追う。
さっきまで降り続いていたはずの雪は、いつのまにか止んでいた。







Shadow Moonより

諸事情により、すみませんが感想は後日……


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