「勝ちやがったな」

「勝っちゃったわね」

周囲が阿鼻叫喚とまではいかないが騒然としている中、ポツリと呟く

その声は周囲の声で掻き消されて自分の耳にすら届かないほど、ささやかな音量ではあったがパートナーには届いたらしい

二人は互いを見合わせる事無く、未だに舞台の上で勝利宣言のまま、立ち尽くしている祐一を視界に収めていた

「まずいわね」

「まずいな」

今度は順番が変わったが互いに同じ意見を同じ音量で呟く

しかも、二人の目は同じ感情を秘めている

それは『不安』

祐一の体はボロボロだ

巌にやられた傷もそうだが・・・いや、それよりもむしろ、自分で解放した力の反動によるダメージの方が圧倒的に大きい

霊力の最終到達点、内から外への境目、霊力が出る穴『霊孔』

過剰な霊力の流動が霊孔と血管を傷つけ、出血を促している

未熟な身体で限界を五つほど超えた霊力の解放と制御

脳が焼ききれてもおかしくなかった

実際、何本か逝ってしまっているのかもしれない

だが、二人には・・いや、自分達には優秀な治療術者がいる

ほかの治療術者を全員合わせても勝るほどの実力者が

二人と同世代に生まれ、鬼才たる祐羅に比べれば、見劣りはするが千夏や秋子と同じ天才の部類に入る斬魔師

治療術に特化し、斬魔刀ですら特殊系に入る治療術一派『深山』冬香

「最優先で祐一の治療を」

「ええ、念話を飛ばしておいたから」

鬼才と天才も親馬鹿だ





(だれ)よりも()(だか)(つよ)く、そして・・・


第1章  第20.8話         
死闘の後の・・・






「し、し・・・勝者!相沢祐一!」

雅人の裏返った声で告げられた勝利宣言を聞いたものはどれだけいたことだろうか?

それほど、今、観客席は騒々しくざわめき合っている

当たり前だ

殆どの者が石蕗巌の勝利と思っていた・・・確信していたと言っても過言にはなるまい

祐一の強さとて、誰もが知っていたが噂程度

オッズを賭けても0.5:9.5ぐらいの割合だっただろう

そんな大穴が試合をひっくり返し、大穴になって、ついでに大穴を開けたのだ

実際に何人か賭けていた者達がいたが大半は大損で、無謀な賭けに出た者は大儲け

そういう意味でも周囲は未だにざわめきの炎を燃え滾らせている

そして、火付け役である祐一はというと・・・意識が消えかかっていた

祐羅と千夏の読み通り、大解放のツケが回ってきたのだ

勝利が確定したこともあり、緊張感が解けて一気に疲れと痛みが祐一を襲う

特に脳内麻薬で押し殺していた激痛は凄まじく、見た目的に酷い折れた腕よりも全身に満遍なくたまっていた痛みの方が圧倒的に占めていた

すでに視界はブレ、周りが白みがかっていくのを他人事のように把握している

「・・・あ・・・・か・・・っ・・の」

声が声にならない

もう立つことすらままならないのだが〔絶天王〕の力のおかげか、まだ体に力が宿っている

雀の涙程度のものではあるが・・・

『楽しめたぜ、王よ』

『具現化』した絶天王が祐一を片腕で支えている

二人が並ぶと仲の良い双子のようだ・・・・祐一の傷を除けば

『でも、これ以上は本気で危ないからな・・・今は眠っとけ』

祐一の両目を隠すように手で覆い、意識を奪う

すると、祐一の体がグラつき・・・・ゆっくりと後ろに倒れていく

意識もないのだから受身など取る力などあるわけがない

地面に後頭部から落ちていく

ポフッ

だが、彼に待っていたのは硬い地面との衝突ではなくやわらかい何か

「祐一・・・・」

脇の間を通して、後ろから抱き止めたのは紅羽だった

速い・・・誰よりも速かった

スピードが売りのはずの智代やブラコンパワーの千影よりも速く、彼へと辿り着いた

重力制御による高速移動・・・レベルの話ではない

愛の奇跡などと、赤面爆発な言葉で済ませられることでもない

何せ、彼女は今までの祐一が言ったことをすべて聞いているのだ

『もう、全部・・いや、ほとんど抜きだ!紅羽も賭けも何もかも!!』

独善で自分を救おうとした彼

彼女は自身を許せなかった

例え、それが彼の自己満足のために利用されただけだったとはいえ・・・

本心では彼女のことなど、気にもかけていなかった

だが、それでも、それでも・・・・

(嬉しかった・・・・)

初めて助けてくれた

今まで父の威光と異能によって目を背けられ続け、いつしかそれが当たり前に変わった

それを変えようとがんばった時期もあった

影ながら分家の友達を作ろうとしたがその子の親やほかの大人に見つかってしまう

何せ、相手は地術師で、そこは彼らのテリトリー

力さえ発現していれば、周り中が彼らの知覚範囲内

妹の真由美は父の巌によって、私に近づかないように言われている

それでも、何度か会いにきてはくれた

嬉しかった・・・とても嬉しかった

でも、妹との逢瀬を父は許しはしなかった

彼は言うことを聞かなかった真由美を叱り、体罰すらも行った

それでも、そんな目にあっても!・・・・彼女は私に会いに来た・・会いに来てくれた!

でも・・・・私はそんな妹を拒絶した

私と会うたびに彼女は傷つくからだ

酷い言葉を投げかけて、遠ざけた

最後に見た彼女は泣いていた・・・・私が泣かせた

そして、数年の月日が流れ

積もり積もった負の感情はやがて精神を侵し、自暴自棄になり始めた

死んだほうがマシ、そう思えるようにもなってきたし、そうすることも簡単だ

手首を切る、睡眠薬か毒薬を過剰摂取する・・・方法などありふれている

何なら異能《重力》を暴走させてしまってもいい

でも、死のうと思ったことは一度もない

まだ死ねなかったから

こんな惨めな人生のまま、死ぬなんて嫌だったから

そして、時が過ぎ・・・・今に至り、ようやく出会えた

「ゆういちぃ・・・」

私を救ってくれた人

年下で、生意気で、偉そうで、ぶっきらぼうで、自信家で、傲慢で、自分勝手で、戦闘狂で

父を倒すほど強くて・・・・・不器用な優しさを持つ彼を

嘘でも都合でも自己満足でも・・・・許せた

いや、許しを受けるべきは弱みを見せてしまった私の方

私が彼を弱くしてしまった

「ご・・めんな・さい・・・ごめん・・な・・さい・・・ごめンッ!」

流れた涙が頬を伝わり、重力に従い、滴となって落ちる

祐一の頬がそれを無防備に受け止めた

彼はすでに意識を失い、無防備に眠っている

素人でも簡単に殺せそうなほど、警戒心も何も無い

だからといってそれを成せる者がこの地球上にいるかどうかは別だ

彼の身の安全は彼の味方全てが保障している

それはともかく・・・・

彼の寝顔はあどけなく、歳相応に見える

さきほどまでの狂氣を纏い、死闘を繰り広げ勝利した狂戦士とは思えない

全身に致命傷二歩手前クラスの傷を受けていてもなお、そう思えた

「で、出遅れた・・・・」

「まさか、反応と瞬発力で私が負けるとは・・・」

「うぅぅ・・・お兄ちゃん」

出遅れた皆様はがっくりと項垂れながら、それでも祐一の下へ走る

彼女達の到着と同時に祐羅と千夏が〝瞬歩〟で現れた

「お前ら、祐一を冬香の所へ運んでやれ。千夏」

「わかってるわ」

さすが夫婦

言葉に出さなくても祐羅の考えを理解

子供達が祐一を担ぎ上げ、医療部屋へ運ぶ

千夏はそれに同伴

その目的には息子の安否を気になるということももちろんあるが・・・

それ以上の石蕗のトチ狂った馬鹿が仕返しの奇襲をかけてくるとも限らないので護衛役を彼女が務めるのだ

舞台を出て、医療部屋へ祐一を運ぶ千夏達

さすがにそこまでの馬鹿はいないらしく襲撃者はゼロ

千夏がいる限り、来ても来なくても結果は同じであろうが

「さぁて、俺もそろそろ出張るとするか」

祐羅も己のやるべきことのため、動き出す


舞台はいよいよ最終幕へと移行する



続く



Shadow Moonより

諸事情により、すみませんが感想は後日……


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