「よっしゃあ!!」

「やったぁっ!!」

大きなリアクションで自分のことのように喜ぶのは武と和樹の二人

巌がやられたと確信し、ハイタッチで感激

他の者達はむしろ、驚きの方が強い

「すごいね・・・・本当に」

「ええ・・・技は荒いし、無駄が多い」

(でも、あれをやってのける大胆さは俺達にはないな)

志貴、式、織の三連星トリオ(物理的にはコンビ)は感嘆派

戦闘分析を欠かさない辺りはさすがといえる

「ふふっ、私の目に狂いはありまへんでしたな」

「景太郎、お前と戦ったときより強く見えるな」

「・・・かもね。でも・・・これからだよ」

強さを認めながらもまだ続きがあると予測する経験豊富トリオの景太郎と鶴子、はるか

「杞憂じゃないのか、千影?」

「ああ、これなら、いくら石蕗巌でも・・・・」

「そっちはどうでもいいの!大切なのはお兄ちゃんの在り方!!」

なんだか、よくわからない千影達相沢女組

だが、彼女だけが語っている真実には誰一人気付いていない

対象である祐一すらも





(だれ)よりも()(だか)(つよ)く、そして・・・


第1章  第20.5話         
全門第3回戦~道を逸れし刃、折れる時~






「ふぅぅぅぅ・・・・・・はぁぁぁぁっ」

限界まで張り詰めさせていた肺の中の空気をすべて吐き出した

戦闘モードを解いたわけではないが適当なくらいに軽く、力を抜く

一気に力を放出したせいか、疲労もまた一気に襲ってきた

消費した霊力は〝絶王呀斬〟の半分にも満たないが消耗した疲労感は同じ程度

いつもとは違う何かに神経を削り取られているような感じ

何かが体中を知らぬ間に蝕んでいるような・・・

「プレッシャーだと?馬鹿な・・・」

俺は圧倒的な力で巌を捻じ伏せた!!

少なくとも夢オチなんて、恥ずかしい現実に直面したわけはなく・・・

あの連撃の手応えには微塵の嘘すら存在しない

会心の手応えすらあった

それなのに・・・・

そうであるはずなのに・・・・・・

この拭い取ることのできない焦燥感は一体・・・・

いや、ただの気が逸っただけだ

「そうだよな?・・・・っし」

小太刀で虚空を斬り、付着した血を払い落とした

同時に気持ちを落ち着かせる

落ち着いたら、少しばかり余裕が生まれた

紅羽にでも手を振ろうかな

これはあいつのための戦いなんだから

ついでに滅茶苦茶心配してたからな

手の一つも振ってやれば、気も晴れるだろう

俺の気も同時に晴れてくれれば、一石二鳥

「紅h・・・!」

背後から強大な力が動いた

父さんには及ばないが全力の俺を相手にするときの父さん以上の力を感じる

凄まじい覇気がプレシャーとなって、全身に圧し掛かってきた

後ろを振り向くと・・・

「どうした?幽霊でも見たような顔をしているぞ」

姿は血だらけ、全身ボロボロ

だが、胸の前で腕を組み、まるで無傷

お前の攻撃など一切聞いていないといわんばかりに仁王立ちで石蕗巌がそこに・・・俺の前に巨大な岩となって立ち塞がっていた

思わず、片足が後ろに下がる

(恐れた・・・だと?俺が!?)

ふざけるな!俺が恐れただと・・・そんなことあるか!

あってたまるか!!

「なら、浄化してやるよ・・・魂も残らないほどにな!!」

正直なところ、驚きのあまり、声に覇気が篭らなかった

巌にバレたくはなかったがこの分じゃバレてる

「吠えている暇があったらかかって来い」

その余裕、後悔させてやる!!

第2ラウンド開始だ




「?誰・・・・・?」

私はお兄ちゃんが視線を向けた方向を追う

いくら手応えがあったとはいえ戦闘の最中でありながら、余所見をした

いったい、どうしたんだろう?

それに、妙に焦ってる

全然、らしくないよ、お兄ちゃん

「・・・・・・誰だろう?」

お兄ちゃんが見ていた人

すっごく綺麗な女の人

歳は一つ二つくらい年上かな?

「智代、あの人、誰?」

「うん?ああ、あれは石蕗紅羽さんだ」

石蕗!?石蕗って、お兄ちゃんと戦ってる・・・

「石蕗紅羽は今、祐一と戦っている石蕗巌の娘だ」

「でも、なんでお兄ちゃんがあの人のことを気にしてるの?」

お兄ちゃんは親が誰だとか、どこの生まれだとかそんなことを気にするような性格はしていない

例え、ハーフでも妖魔でも・・・ちょっと鈍すぎるのもどうかと思うけど

そのおかげで拾われた私が言えることではないかな?

まあ、それはいいとして・・・

「何があったの?全部話して」

「あ、ああ・・・・実は」

智代は事の馴れ初めを全て語ってくれた





(まさか、ここまでやるとは思っていなかった・・・油断、か。私も老いたものだ)

巌は立ち上がる前に大地の精霊に呼びかけ、体力を回復していた

祐一の攻撃は完全に巌の防御を上回っていたおり、致命傷二歩手前のダメージを負っていた

回復しなければ、立っているのも辛い状態だったはずだ

なんて、精神力、タフネス

地術師一族の主だけのことはある

「行くぞ」

その巨体からは想像も出来ないほど、速く、そして重心がかなり下がった低姿勢のまま、祐一に高速接近

祐一ほどではないがその巨体からなら充分な速度

それに巌がやると巨大な岩が近づいてくるようで相当なプレッシャーがかかる

「ぬんっ!」

手刀を振り下ろす

祐一の身長の倍以上の高さから振り下ろされる大刀の一振り

大英雄が振り下ろす斧剣の如き強撃

だが、凄まじいが故に軌道も単純で読みやすい

体を半身にして紙一重でかわし、その腕を取り、進行方向と同じ方向へ祐一自身の力も加える

増した勢いは手刀を地面へ突き刺させた

「ただの手刀ではないぞ?」

瞬間、大地が炸裂し、鋭い岩が地面から突き出る

カウンターを狙っていた祐一の無防備な背中に襲い掛かる

これが巌の狙い

祐一の行動を先読みした熟練の罠

「んのっ!」

無理矢理、足を動かし、前に進む

加えて〝硬氣功〟〝軽氣功〟を発動

今、できる最高の対処法

それでも殺しきれない衝撃を背中、右脚、後頭部に受けた祐一

「うぐあ、ぶふっ・・・」

蹴鞠のように吹き飛ばされながらもなんとか、体勢を入れ替え、二度、地面に体を打ち付けただけで体勢を整えられた

後頭部を直撃したからか、軽く脳が揺れ、視界がブラックアウトしそうになる

「くの・・・りゃぁっ!」

小太刀を一刀抜き放ち、太股に突き刺す

刀身の切っ先が数cmほど埋まる程度なので戦闘に支障は出ない

その痛みのおかげで意識がはっきりと目覚める

「っせい!」

小太刀式(こだちしき)斬術(ざんじゅつ)
空刃閃(くうじんせん)(ごう)

通常の〝空刃閃〟よりも太く荒々しい真空の霊刃

斬撃としてはイマイチだが破壊力だけは〝空刃閃〟のバリエーションの中では最高

「阻め!」

石版のような石の壁が巌の足元から突き出る

だが、〝空刃閃・剛〟の威力は高く、石壁をほぼ全壊レベルにまで粉砕

「次はこれだ!」

小太刀式(こだちしき)斬術(ざんじゅつ)
空刃閃(くうじんせん)(れん)

遠距離戦に切り替えた祐一は〝空刃閃〟を連続で放つ

小太刀一刀で16度、二刀合わせれば32度

32の真空刃が大気を裂き飛ぶ

ほぼ壊れかけだった石壁は防御の役割を果たせるわけもなく、一刃も阻めずに切り裂かれた

巌は地面に片手をつけ

()精霊(せいれい)(たち)
()()()(したが)い、()(ばく)(つき)(かたど)
()らず、()かず、()(てき)(うるお)わぬ(かわ)きを(あた)えよ
砂刃朧(さじんろう)〟」

肩を支点に腕を振り上げ回す

その腕の軌道に連なって、砂でできた月のような刃が出来た

本来の攻撃は触れた相手の部分の水分を奪うものだ

今回は32の空刃を撃ち落すだけでなく

「ちっ」

上空から祐一の奇襲にまで対応する一撃だった

小太刀二刀を交差させて、巌の攻撃を受け止める

だが、追加攻撃までは止められないので小太刀を離して

()(どう)十一(じゅういち) 〝光守(ひもり)〟」

両掌に光の盾を出現させ、効果能力を遮った

そのまま、自分から吹き飛ばされ、間合いを取る

小太刀は巌のすぐ手前に突き刺さった

それを好機と取ったか、巌は両腕に精霊を集め、詠唱開始

(だい)()宿(やど)(せい)(れい)
(おお)いなる意志(いし)(ねむ)りし()()るがすことを(ゆる)されよ
()(しゃ)()()大波(おおなみ)()し、(すべ)てを(つち)(もと)(かえ)さん
地覇(じは)砂鈍爆浪(さどんばくろう)〟」

最後の言葉と同時に両掌を、地面を砕かんばかりに突き出す

大地を砕き、手首まで埋まる

地響きが鳴り、大地が完全に砕け、蠢き始めた

蠢くそれは岩というより土、土というより泥

うねりは次第に大きくなり、津波となって、巻き上がる

すぐ傍にあった小太刀を飲み込んで

「もはや、逃げ場と知れ!」

勝利の言葉を投げかけながら、巌の岩窟の表情に深い笑みが刻まれた

確かに逃げ場はない

ここがもっと開放的な場所なら何の問題もない攻撃だが生憎とここは場外が決められた舞台上

〝瞬歩〟で逃げようにも逃げ込める空間がない

「上は・・・無理だな」

上空へ逃げようと考えるが間に合わない

ならば、答えは一つ

「突き破る!」

幸か不幸か、そのための条件が一つを除いて整っていた

最後の条件を満たすべく、両腕を思い切り引っ張る

すると〔武來〕の掌辺りからキラリと光る薄い筋

細い鋼線〔鋼糸〕だ

引っ張られた糸は弛みを無くし、ピンッと張られる

糸を辿るとそれは泥津波の中

そして、柄尻に繋がっていたのか、柄の方から出てきた

祐一はその場で回転し、小太刀をキャッチ

回転の勢いで泥を払い飛ばし、すぐさま対抗策に移行

太股から流れる血を刀身に塗りつけ、続いて詠唱

宿宝(しゅくほう)霊水(れいすい)
(あか)(なが)れるものに()()がれし(たから)
宿命(しゅくめい)(れい)(けつ)(にえ)とし、()めしものを解放(かいほう)せよ
(ばく)(どう)三十六(さんじゅうろく) 〝超霊再誕(ちょうれいさいたん)〟」

血が眩い閃光を放ち、膨大な霊力に変換された

〝黒威〟一発分に匹敵する霊力が溢れ出す

本来の術なら祐一の霊色である黒銀色のオーラなのだが血を媒介にしているせいか、ほんのり赤味が混ざっている

祐一は変換された霊力を小太刀に集約させ

小太刀式斬術(こだちしきざんじゅつ)
「〝射突(いつき)(ばく)〟」

投擲

泥津波に向かって一直線に飛来し、飲み込まれる

だが、二秒後

ドゴォォッン

津波の内部で爆発が起こった

投げつけた小太刀の霊力が暴走を始めたのだ

暴走を始めたというよりも暴走させた

だが、その爆裂でも津波に穴を開けるのは適わない

「もう一丁!」

小太刀式斬術(こだちしきざんじゅつ)
射突(いつき)(ばく)

二刀目投擲

それも同じ場所へ

すぐに爆発

かなり大きめの穴が開いたがまだ貫通はしていない

「あれくらいなら!」

〔武來〕に霊力を喰わせて、能力発動

我流白打(がりゅうはくだ)
鎗逓(そうてい)武双破陣(ぶそうはじん)

〝撃逓・武双破陣〟は衝撃を内部に伝える衝撃系の技

こっちは自らが砲弾と化す突進系の大技

「貫けぇっ!!!」

両拳が勢い良く突き出され、突撃一直線

泥の大波のぽっかり空いた一箇所に突っ込み・・・・

ズバァァッ!!

大貫通!

津波を乗り越えもせず、耐えもせず・・・貫いてきた

「大蛇の牙、受けるがいい
大咬牙(だいこうが)

だが、貫いた後、すぐに大技の隙を狙われた

巌の右腕が岩で出来た蛇に変わり、祐一に向かって振り下ろされる

造形は荒く、ゴツゴツとした部分が目立つ蛇だがそれ故に見た目の威圧感が半端ではない

本来の腕より三周り近く大きいので避けきるのは不可能

(まだだ、まだ手はある!)

回避不可能と判断するも、まだ諦めない祐一は両腕を交差し、その名を叫び、霊力を送る

「〔武來〕!」

この腕甲に秘められた二つ目の能力

霊力を与えることによって展開される円形の光盾

詠唱も必要としないその防御術だがかなりの強度を誇る

だが、それでも巌の攻撃は祐一の予想と防御力を上回り

ビシッ・・・ビシビシ

光の防御膜に皹が入る

(まだ・・・まだ負けるわけには・・・)

それは段々と大きく広がっていき・・・・・・砕けた

岩蛇は勢いを多少衰えさせただけで祐一へと襲い掛かる

今度こそ、〔武來〕で防御

ガアァッン

大音量の金属音を響かせ、地面に叩きつけられる

「がはぁっ・・・・」

腕と背中に強烈な衝撃を受け、溜まらず呻き声をもらす

加えて後頭部も再び強打したため、焦点が定まらない

(や、やべ・・・・隙だら、け・・)

「ついでだ、くらっておけ」

更なる追撃

足元に残っていた泥を使い、小規模の津波で祐一を飲み込み、流し飛ばす

質量の重い攻撃で半固体に近いため、激しい鈍痛に襲われる祐一

天地左右がわからなくなるほどの濁流に押し流される

舞台の端っこまで行ってようやく止まった

ちなみにそこは・・・・相沢の観客席のほぼ眼前

「貴様の敗北だ、小童」

(ふざけ・・・んな!!)

声にも出ないほど消耗している祐一

だが、その闘志はまだ折れていないし、燃え尽きてもいない

景太郎のときよりもさらに激しく燃え上がり、復活しそうなくらいだ

「俺は・・・まだ負けられない、負けられないんだ!!」

そこが自分達の観客席ですぐ後ろには仲間がいることも関係なく、叫ぶ

祐一の眼には目的への道があるだけで、他は何も見えない

だから、その道をただ突っ走り、目の前の岩壁()を突破するだけ

宿宝(しゅくほう)霊水(れいすい)
(あか)(なが)れるものに()()がれし(たから)
宿命(しゅくめい)(れい)(けつ)(にえ)とし、()めしものを解放(かいほう)せよ
(ばく)(どう)三十六(さんじゅうろく) 〝超霊再誕(ちょうれいさいたん)〟」

今度は体中から流れる血を媒介に、霊力を生み出す

先ほどの攻撃は打撃系の攻撃だったのでほぼ全身から軽く血が流れている程度

だが、総合的な量では〝射突・爆〟よりも多い

発現した莫大な霊力を二刀に込め、両手持ちに構える

その構えで背後にいた連中と、その技を見たことのある連中は誰もが理解する

本気で石蕗巌を殺す気だ、と

「おあああああぁぁぁっっ!!!!!」

並行する刃同士に込められた霊力が互いに共鳴し、更なる霊力(ちから)を生み出し、その全てを刃に込める

爆発的なまでに膨れ上がる霊力

大地が鳴動し、大気が揺れ、存在する霊子が暴れる

霊圧もハンパではなく、かなり離れている観客席の建造物が軋み始める

あまりにも強大な霊圧を間近で受ける巌はさすがにその岩のような表情を驚きに変え、対応の術に移る

()精霊(せいれい)(たち)
(われ)()()()(したが)えし、(だい)()()(しん)
(いか)れる()(くび)(りゅう)()()(まえ)姿(すがた)(あらわ)
土竜招喚(どりゅうしょうかん)

巌の足元から巨大な岩でできた竜が出現

それも三匹

ゴツゴツと荒々しい巨体を捻りながら、巌を守護するかのように三角陣形(トライアングル)の配置につく

大地(だいち)化身(けしん)(たち)
(なんじ)らが(うろこ)(なに)(もの)にも(つらぬ)けぬ(こん)(ごう)
(なんじ)らが(ほう)(こう)(てつ)()()(おと)(しょう)(れつ)
その(うろこ)咆哮(ほうこう)()って(てき)(ほこ)(はば)絶対(ぜったい)(じん)となれ
堅竜吼陣(けんりゅうこうじん)〟」

巌を中心に二匹の竜がとぐろを巻き、残りの一匹は後方に聳え立ったまま

その陣形は巌の姿を全て覆い隠すほど密閉された絶対防御陣

外見からすればかなりあれだが笑えわせないほどの威圧感を放っている

だが、そんな威圧感を完全に圧倒する力を祐一は懇親の力をこめて、振り下ろす

見様見真似を独学独解で昇華させた相沢祐一が最強の必殺技

「〝絶王呀斬(ぜつおうがざん)〟!!!」

超霊の光牙を解き放つ

全てを呑み込まんばかりにぶっ放された牙はまっすぐ土竜へ向かう

だが、土竜は牙をただ耐え切るだけが能力ではない

ただの防御壁なら竜の造形を模る必要はない

三頭の顎から放水とも言うべき泥土の爆流が放出

三条の爆流が重なり合い、光牙とぶつかり合う

ズガガァァーー

祐一と巌の中心点でぶつかりあう互いの攻撃

牙は爆流と数秒の拮抗を許すがジワジワと光烈が爆流を呑み込んでいく

だが、土竜の爆流は光の牙を撃ち破るためのものではない

確かにそれは含まれてはいたがあまりに小さな期待

『攻撃は最大の防御』を体現させた防御法

光の牙は一度放たれれば、込められた霊力が尽きるまで壊し尽くす消耗型

爆流で消耗させておいて、後はその防御力で耐え切る

それがこの防御陣の真価

超霊の光牙は土竜を呑み込む

相当な衝撃が内部の巌にまで届くがその表情には笑みが刻まれている

それもそのはず、大地の竜鱗で形成された壁の中には一筋の光も差し込まなかったのだから

それでもほとんど薄皮一枚のところまで破壊した祐一の最強技はさすがといえる

だが、相手を倒さずして必殺技とは言えない

「ば、か・・・な・・・・・」

祐一は呆然ととぐろを巻いた竜を驚愕と絶望の眼で見ている

自身が昇華させ、今出せる最強の技が耐え切られた

その衝撃は精神的なものとなって祐一の心を激しく打ちのめす

体中の力が抜け、両膝を地面に付く

眼前の光が一気に消え去り、漆黒が祐一を覆いつくす

だが、そこに差し込む一筋の光がまだ祐一には残っていた

「お兄ちゃん!」

千影の声だ

彼女の声により、我に返る祐一

まだ先ほどのショックは抜けきっていないがまだ意識は残っているようだ

呆然としながらも本来の目的意識が彼を動かす

「そうだ、まだ負けていられないんだ・・・紅羽のためにも・・・」

「ダメだよ、お兄ちゃん!」

千影は祐一の言葉を否定する

これはかなり珍しいことだ

今まで祐一のことを悪く言ったり、行動を諌めたり、反発したりしなかった千影

彼女が始めて、今日祐一を否定した

「千影・・・」

搾り出したような声で彼女の名前を呼び、振り返る

千影観客席から身を乗り出しながら、必死な剣幕で祐一に告げる

「お兄ちゃん!他人を理由にするなんて、お兄ちゃんらしくないよ!!」

「他人を・・・理由?」

一体、何のことかわからない様子の祐一

千影は構わずに続ける

「紅羽って人のこと!その人の為になんて理由で闘っちゃダメ!」

智代と乙女は千影の嫉妬かとも思える言葉に思わず、止めようとしたがそれにしては妙だ

千影は別の何かを嫌悪している

「お、俺は別に・・・・紅羽を理由にしてるわけじゃ・・・・」

口では否定しているが明らかに口調が乱れている

誰の目に明らかなほど図星を突かれていた

「私に嘘つかないで!わかるもん。お兄ちゃん、普段、ふざけて誰彼構わず、言い触らしてるけど、ホントは《始解》できないこと、悔しがってるでしょ!!」

「ッ!何を馬鹿なこと、俺は別に・・・・」

祐一は一瞬渋い顔をした後、いつもの表情に戻し、千影の言葉を否定する

だが、その一瞬だけで充分な肯定

暴かれた事実に驚かされたのは祐一だけではなかった

「そんな・・・・祐一、いつものはただの強がりだった、と・・」

「気付いていたのは千影だけか・・・悔しいな」

「意地っ張り野郎が!帰ったら舞達にも、教えてやるからな」

千影ほどではないとはいえ、近くにいた三人はまったく気付いていなかった

いや、三人の心情的には気付けなかったの思いが強い

友が影ながら傷つき、それでもそんな思いを見せずに道化を演じていた、させていた

そのことにひどく傷つく武、乙女、智代

まるで己のことであるかのように


少し視点がズレたが、その間にも中心である二人の会話は続いていた

千影は祐一の否定を無視して、自分の予想を叩きつける

「だから、『誰かの為に闘う』って、初めての状況を作ったんでしょ?きっかけは偶然でも」

「!!・・・・・・・」

妙に心の奥底で引っかかっていた何か

どうでもいいことだと、目を背けていたものが浮き彫りにされた

いや、それだけではない

祐一は紅羽を利用していたという罪悪感からも無意識に目を背けていたのだ

それらをピンポイントで説き貫かれ、祐一は愕然と膝をつく

目の前が真っ暗になるような感覚に襲われ、事実、アドレナリン全開で気付かなかった痛みを感じ始め、全身から激痛が走り始める

意識も遠退いていく

肉体的にも精神的にもかなりのダメージ

巌と千影

敵と仲間

友の父と義理の妹

言ってみれば、敵陣と本陣から一斉放射をされたようなものだ

原因は自分にあるとはいえ・・・・な

だが、祐一にはまだ最後の光明が残っていた

深淵に射し込む一条の光

「逃げる必要なんてないよ!本当のお兄ちゃんは強いもん!どんな正義もどんな悪もどんな
真理もどんな現象も肯定して、その上で自分が進みたいと思う『道』を行く!それが私のお兄ちゃん、相沢祐一だもん!!!!」

その叫びはまるで慟哭の様

聞くだけでも辛い、締め付けられるような言葉

自分のことではないのにとても悲しい声音

特に祐一は自分のせいで最愛の妹がこの声を出させているとわかっている

わかっているからこそ・・・

千影並に傷ついている

(何を都合の良い事を・・・俺なんぞより千影の方が100万倍、いや、1000兆倍、傷ついている)

1000兆倍というのは別段、言葉遊びではない

祐一自身が感じている痛みの価値なぞ、祐一の価値観ではそれぐらいだってことだ

「情けない・・・・情けない、情けない情けない情けない・・・・
情けねぇ!!!

自分に言い聞かせるにしては凄まじい声量

だが、それほど・・・今、祐一は自分への怒りでいっぱい満杯だった



千影にあんな声を、あんな悲しい顔をさせてしまった

そんな自分自身の不甲斐無さに・・・・

「砕けきっちまいそうだ・・・」

心と体がプライド・・・いや、そんなものはどうでもいい

だが・・・でも・・・・だからこそ!!!

「見せられないよな、もう・・・・・」

こんな馬鹿で間抜けで阿呆ド阿呆で情けなくてミソッカスでボケでナスでノータリンで・・・etcetcetcetcetc

言葉ではもう言い表せないほどに情けない兄、相沢祐一の姿を!!

「あんまり見たくない!・・・・・でも、それがお兄ちゃんなら私は受け入れる!」

「クッ」

祐一は耐え切れず、笑みを漏らす

「何がおかしいの!!」

千影は笑われたので少し怒る

怒っても可愛いので怖くない

むしろ可愛さが増した

いつもの祐一なら萌えているところだが・・・・

「いや、俺のことを一番わかってくれているのはお前だなって思っただけだ」

「当然!だって、私はお兄ちゃんの妹だもん!」

「ああ、そうだな」

祐一はゆっくりと立ち上がる

小太刀を力強く握り締め、己の余力を確かめるようにゆっくりとその体を持ち上げる

まっすぐ巌と向かい合った

「待たせたな」

「(なんだというのだ?覇気が少々変わったような・・・)」

巌は祐一に多少の違和感を覚える

何か、こう・・・・そう、解放されたような

罪から解放された罪人のようで

鎖から解き放たれた魔獣のようで

封印を解かれた魔王のようで・・・

何者にも縛られない自由の王

縛れるとすればそれはただ一人

だけだ

「さて・・・」

霊力を極限にまで0に近づける

並の術者どころか、一般人が持つ最低限の霊力すら下回る

並の術者3人分に相当する霊力保有量を持つ祐一がそこまで下がるなど・・・死んだのか、とも勘違いできる

だが、これは嵐の前の静けさ、災厄の前兆

抑えられた獣が、今・・・・

「始めようかぁぁっ!!」

咆哮をあげる



続く



Shadow Moonより

諸事情により、すみませんが感想は後日……


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