「はぁ」
「ちっ」
ため息と舌打ちが同時に響く
前者は式森和樹で後者が両儀式だ
共に前対戦で和樹はむつみに、式は志貴に敗れた
まあ、言ってみれば負け犬同「アルヴァンスラスト」「
・・・し、死闘を演じられ、辛くも敗北した実力派の御二方だ・・・(瀕死
行った行為の差異はあれど、その内訳は敗北した不甲斐無い自身への苛立ち
あそこに立っているのが自分でありたかったという嫉妬
オーラをズモモモゴゴゴゴと全身から溢れ出している
そのせいか、二人の周りにはあまり人がいない
神城凛や杜崎沙弓が近づこうとするがなぜか、足が前に進まない
コレも一つの気圧され
威圧や覇気などの攻撃的なプレッシャーではない
ネガティブなオーラが無意識に周囲を気絶させているのだ
・・・
「はぁ」
「ちっ」
狭地門
乙姫むつみVS七夜志貴
誰よりも気高く強く、そして・・・
第1章 第20.1話 全門第3回戦〜技巧の旋律〜
乙姫むつみ
3月3日生まれ、魚座の13歳
真鳴流本元『浦島』の分家『乙姫』当主の、八人家族の長女
天然な立ち振る舞いに天性の方向音痴
ほんわか笑顔の下では何を考えているのかわからない知性を見せる食わせ者
何より、本元『浦島』の次期後継者候補最強の景太郎にも迫る槍の使い手
景太郎の槍は剛とすれば、むつみのそれは柔
円運動を中心とした『舞』を取り入れた相手を翻弄するような戦法
回避よりも防御に重点を置き、流水の如く受け流すことを得手とする
得意五行は《木行》で得物は《木氣》系統の
七夜志貴
11月7日生まれ、蠍座の10歳
退魔四家が一家『七夜』当主黄理の長男として誕生
暗殺者としての類まれなセンスと不釣合いなほど優しい性格を内包する異常者
七夜流暗殺術を、奥儀を残し、全て覚えた天性の才を持ち、その技量は七夜の成人に勝るとも劣らないほどの強さ
何より、その技量は愛刀〔七ツ夜〕をもってすれば、魚をわずか数秒で繊維の筋まで解体できる
また人並み外れた身体能力はこの場にいる同年代近い同業者の中でも最高を誇り、次点になんとか、武と智代が追っていけるかどうか、微妙なところ
「それでは・・・・・・始め!!!」
両者互いに技の重点を置いている者同士の対決
志貴はどちらかというと速力よりだがさしたる違いはない
どちらが先に主導権を握るか
それが二人の戦いの肝
試合が始まってもむつみは一歩も動かず、志貴の隙を窺う
志貴はスピードに自信があるため、重心を崩さない程度に体を左右に振って、隙を誘う
「・・・・・」
「・・・・」
両者共になかなか初手を出さない
緊張感が具現化して、二人は締め付けるような圧迫感を感じていた
だが、自然仕掛けるのは志貴となってしまう
何せ、得物が槍と小刀だ
リーチに差がありすぎる
(遠距離技がないわけじゃないけど・・・多分、通じない)
だが、仕掛けないことには勝利はない
そう判断した志貴は三度、突撃のフェイントをぶつけてから・・・・疾駆
リズムが無い無拍子≠ニ超低姿勢を駆けることで視界から消え去り、姿が消えたかのような錯覚を起こす
もちろん、むつみとて例外ではない
だが、むつみは一応、ほぼ全員の試合を見ている
当然、激戦とも言うべき志貴と式の試合もだ
故に攻撃パターンは大体予測できている
(正面から来る場合、初手だと・・・・正面下!)
槍を逆回転させ、掬い上げるような逆風
むつみの予想した位置にいた志貴はタイミングばっちりのカウンターに大慌てで制動をかける
もちろん、このタイミング、この勢い、そして刃との距離を考えた場合、余裕で間に合わない
(完全に読まれた!防御は間に合うけど・・・)
カウンターは自身の勢いも加えられているため、威力が倍増するものだ
如何に遠心力が加えられているとはいえ、和樹の大剣と打ち合っていたむつみの筋力はどう考えても自身より上と志貴は考えている
故に小刀を槍に当てるだけの防御など、簡単に破られる
ならば、どうするか?
(時間がない。見様見真似だけど・・!)
志貴は〔七ツ夜〕を槍の軌道上に斬り出した
(もらいました・・・)
むつみは勝利を確信する
優勝の最有力候補を下す
元より優勝に興味はなかったむつみではあるが強者を破るのは戦う者として、高揚感を得るには充分な理由
刃が最下点から跳ねるように振り上げられる・・・ことはなかった
ガギィィツと甲高い金属音を立て、槍と小刀は衝突した地点でギリギリと停止していた
「まさか・・・」
むつみは信じられないとばかりに絶やさなかった笑みを崩した
「・・・成功」
起死回生の一手はうまくいったようで志貴は心の中でほっと安心のため息をつく
志貴の眼前では片刃槍の刃を受け止める小刀とその峰に添えられた左掌
掌に峰が2cmほど食い込み、軽い内出血を起こした紫色の跡が激突時の衝撃を物語る
この技は以前、祐一が合同訓練で薫の木刀を砕いた
「闘牙紋▼・・・祐一が一回使っただけだろ・・・」
武は信じられねぇ、とぼやく
闘牙紋≠知る相沢一族や実際に受けた薫も同意見だ
一度しか、見ていないはずの技を繰り出す技量
何よりもいくら闘牙紋≠ェその状況で最適の技だからといって、絶体絶命の場面で己が親しんだ技ではなく、他人の技を使おうとする大胆さと決断力
暗殺者としてはどうかと思うが戦士としては上等
少なくとも、現段階ではそれは大きな戦力となる
「ぁッ!!」
均衡状態はそう長くは続かない
志貴であろうとその体勢を支えることは普通に考えて無理、というか無謀
地面とほぼ平行するその姿勢はその形に持っていくことさえ、超困難
だから、僅かに伸ばしきっていない腕のあまりを利用して小刀を思い切り押す
半ば寸剄の出来損ないのようだが反動が生じ、それを利用して、地面を転がり、間合いを取ることに成功
土が装衣を汚すが気にするほど几帳面ではない
「ふぅ・・・・まだ一合目なのに・・・」
冷や汗が背中を濡らす
出鼻をいきなり挫かれたのだから無理もない
そして、今度はこっちの番だ、とばかりに威勢を高め・・・疾駆
再び、歩法を用いて、むつみの視界から消える
(今度は・・・どこ?)
志貴の思考を推理し、先読みする
さっきは正面・・・・なら
(次は側面から・・・)
そう読んだむつみは一歩下がりながら両サイドに気を配る
だが
「残念」
志貴はその予測を逆に予測し、再び正面へ
(外れた・・・でも)
一歩下がった分、迎撃が間に合う
斜め構えから槍を突き出す
むつみにしては珍しい刺突
狙うは頭
一応、試合での死亡は事故死として扱われるがそれは表向き
暗黙の了解として、殺しは御法度
もちろん、むつみとてそんなこと、承知
それに頭を狙ったとしても志貴の速さなら胴体の急所以外のところに当たるはず
自身の攻撃では捉えきれないことがわかっているから平気で狙えるのだ
槍の穂先が狙い通り・・・と、この場合言っていいのかわからないが志貴の胴体を捉えようとした
だが、その直前、志貴の体が跳ね上がる
刺突を紙一重で躱し、むつみの頭上を飛び越える
むつみの首の付け根から鮮血が吹き出した
浅いが鋭い傷なため、出血量は多い
20cmほど吹き上がり、青白い闘衣が赤に染まっていく
赤いショルダーガードを付けたみたいだ
さらに志貴の連撃は続く
傷つけた方とは逆の肩を強く掴み、そこを支点にして前中
勢いを殺さずに
踵が鈍い音を立てて、肩甲骨同士の間に減り込む
「かはっ・・・・」
正面から胸を打たれた様に空気が肺から消失する
失った空気を取り戻すように口を魚のようにパクパクと動かす
(着地と同時に反転閃走・六兎=A僕の勝ちだ!)
今度は志貴が勝利を確信し、反転する
足を振り上げ様とした所で左頬に何かが掠った
その次の瞬間、首の付け根辺りに衝撃
たまらず、後ろに吹き飛ばされる
腕の力で後転倒立のように起き上がり、前を見ると・・むつみが足を後ろ回し蹴り後の状態でつっ立っていた
頬に掠ったのは〔桜竜〕の石突部分
苦し紛れに回した槍が運良く志貴の頬を掠り、出来た一瞬の隙を突いて、蹴り飛ばした
直感的なものだったため、思い切り力を入れられなかったようでダメージは少ない
(ここで止まったらダメ)
むつみは槍を回し、志貴へ重心を乱さずに移動
クルクルと廻る円運動
その勢いを殺さずに振り下ろす
志貴は体を半身にして回避、同時に前方に踏み込む
そのまま、反撃の刃を突き出そうとするが中断し、上半身を反らす
石突が先ほどまで志貴の頭部があった場所を振り通る
(まずい、『乙姫』の
一度始まったら、そう簡単には止まらない連撃
さらにむつみの全身と刃に宿る風氣≠ノよりさらに速度が上がった
変幻自在に変化し、緩急極まる攻撃は防御するのも困難
だが、この世に絶対という言葉が無い様に困難ではあるが破る方法が無いわけではない
一つ目は相手を上回る技量を持って競り勝つ
二つ目は相手の体力が切れるまで受け待つ
三つ目は自身を中心とした範囲攻撃で相手を倒す、もしくは吹き飛ばす
他にもあるかもしれないが即興で考えられるならコレぐらいだろう
少なくとも志貴にはコレくらいしか思いつかなかった
(式とやったときと似てるな・・・似たようなタイプだからか?)
刀と槍の違い、攻撃型(式のみ)守備型の違いはあれど、技主体のスタイルは確かに似ている
(でも、それならまだ経験がある分やりやすいか。当然ながら三つ目は手段がないから無理、一つ目はギリギリ僕の方が上だけど、競り勝てるほどの差はない。二つ目の長期戦狙いは・・・自身はあるけど、消耗率はこっちの方が上だし・・・)
あまりいい案もなく、考えもまとまらない
その間にもむつみの連撃は続く
大きくその場を飛び退いても、その後退の速度とむつみの移動速度ではむつみに軍配があがるので間合いが切り離せない
(ん〜、これ、まずいかも・・・)
志貴は槍を受けながら、内心で焦る
このまま、押し切られる感じがどうにも否めない
だが、彼の予想は良い意味で裏切られる
「おいおい、志貴の奴、危ないんじゃないか!?」
「僕の二の舞になりますよ!」
「自分で言っていて悲しくないか?」
「志貴・・・私達に勝っておいて、それは許せない」
だが、状況は変わらない
志貴の友人達がほぼ全員、友の不利を感じ取る
しかし・・
「まだまだだな、おめぇら」
影行は彼らの未熟さを笑う
笑われた皆は?顔
何を言っているのか、わからない様子
「わからないのか?志貴は見た目不利だが、実際はそうではない・・・まあ、見ていろ」
と、祐羅
そして、試合が終結へと向かった
「あっ・・」
「え?」
むつみの斬撃の手応えがほとんどないことに志貴は驚く
先ほどまでの連撃に比べると羽のように軽く感じた
同時に連撃も停止
さらにさらに槍が纏っていた風が消えている
志貴にとっては助かった、という気持ちでいっぱいだが疑惑も湧いた
(
なぜなら、むつみが驚きの表情をしていたから
彼女にとって今の斬撃は不本意なものだったということが一目瞭然でわかる
そして、その原因もわかった
むつみがその原因に一瞬、眼を向けてしまったから
一瞬の視線の先には・・・・鎖骨から二の腕までの真紅に染まった闘衣
景太郎のそれとは違い、巫女スタイルに近い古風な闘衣
色が白なのでその差がはっきりとわかる
「ッ・・・・!!」
痛みと出血多量による体調の変化を振り払おうとする斬撃
さっきのよりはマシと言えるが今まで繰り出してきた緩急の緩の一撃に比べても気が抜けた一撃と評せる
(チャンス!それに、早く決めないとこの人も危ない!)
敵とはいえ、女
加えて、他称【優しき暗殺者】の志貴
でも、負けられない志貴
だからこそ、むつみを助けるためにも速攻でむつみを倒す!!
七夜流暗殺術の中で最速の技
地べたに張り付くように音も無く、地を駆け、すれ違いざまに首を刈る
だが、殺すわけにはいかないので手刀で気絶させる
「さ・・せません・・・」
息が荒いむつみは執念とも呼べるしぶとさを見せ、防御の構え
体と平行になるように構えられたその防御は攻撃の進入を許さない
(なら!)
小刀で槍を叩くように打つ
それも大振りのフックのように振り回して、だ
だが、それは前座前振り、これこそ、ブラフ
回し斬りの勢いを生かし、回転しながら前に踏み込む
そのまま、本来のメイン攻撃である手刀に切り替える
左手刀がむつみの首筋に叩き込まれる
「うっ・・く・・・」
むつみの瞳の焦点が横に分身する
ぐらぐらと視界が震度8レベルで揺れる
「ま、ま・・・だ・・・」
ガッ
急な回転だったので体勢を崩した志貴だがそのまま、縦回転に変化
軽く飛び上がって、むつみの背後へ
そして、裏蹴りを突き出し、先ほど手刀を打ち込んだ箇所へもう一撃打ち込んだ
「きゃぁっ!」
悲鳴をあげ、今度こそ、焦点が完全に消え去った
ここに完墜・・・・決着
「や・・・やっと、終わった・・・・」
派手に尻餅を着いて、全身の力を抜いた
続く
Shadow
Moonより
諸事情により、すみませんが感想は後日……
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