「くっくっくっくっくっくっ・・・・・」

2回戦を速攻で終わらせた祐一は狂笑を上げながら、廊下を一人、智代が眠っている医療室を目指して歩いていた

冬香さんもいるのだが負傷者が多くて手が回らないらしい

そこで試合が終わってもほとんど消耗のない祐一に白羽の矢が立ったというわけだ

ちなみに祐一の相手は斉藤の分家である羽鳥飛田とか言う男だった

如何に対人戦に強い風術師と言えど、対策を講じられていては意味がない

普段から鍛錬相手に風術師一族『浅葱』と戦っている祐一にとっては物足りない相手だった

だが、なぜそれでも笑いを上げているかというと・・・・

「ようやく、お前の番だぜ・・・石蕗巌」

次の人門3回戦の相手は石蕗巌

約束ある因縁の敵

明日、繰り広げられるであろう死闘に笑いが止まらない祐一

「っと、いかんいかん」

頭を振って、脳裏の考えを全てかき消す

「これは紅羽のための戦いだ・・・俺の狂闘心は今回ばかりは相応しくない」

自分に言い聞かせるように心を落ち着かせる

あの狂人のような笑みは影すら見せない

それがそもそもの勘違いだとも知らずに

らしくない下手な愚策を実行して、己の信念と道を誤っている今の彼では気付くまい

だが、これもまた宿命であり運命、そして試練でもある

それを乗り越えられるかは彼次第

未来は誰にもわから・・・・否

少なくとも、ここにいる者達には予想までしか出来ない





(だれ)よりも()(だか)(つよ)く、そして・・・


第1章  第17話         
幕間〜楽しい楽しい計画〜






まずはメンバーから紹介しよう

神凪和麻、石蕗紅羽、鉄乙女、白銀武、七夜志貴、両義式、七夜春歌、式森和樹、神城凛、杜崎沙弓、水瀬名雪、神咲楓、神咲葉弓の計14人とちょっと多目の人数

部屋にはギリギリ入りきらず、廊下と手すりに腰を掛けている者が数人

「・・・なんで私までいるの?」

式の無表情な面が不機嫌な面へと変化し、鋭い眼が同発音の志貴を睨みつける

そんな彼女をドウドウと抑えながら、受け流しの笑顔で応じる志貴

「どうせ、暇でしょ?楽しまないと損だよ」

「・・・・」

なぜ、こんなにものメンバーが集まったかというと・・・・

「せっかく東京くんだりにまで来たのだから、見物でもしよう」

提案者は武

試合のためだけに来たのではもったいないということで今、東京見物の計画を立てている所だった

試合のある者達もいるがこの先は人数がかなり減って、うまく行けば午前中だけで第3回戦終了もありえる

そこで時間は有効に使おうということでこのプランが立案された

だが、少々問題が起こった

この人数に加えて、ここにはいない祐一や智代達を入れるとなると・・・結構な所帯となる

しかも、その大半が10代前半

集団家出で補導されてしまう

自転車程度に捕まる連中ではないが

「とりあえず、行きたいところはあるか?」

和麻が率先して、班長の役を務める

何せ、この中で東京出身、または東京に来たことのある人物は彼と紅羽しか該当しないのだ

せめて、後、率先役が一人いれば、三班に分けられるのだが・・・まあ、無い者強請りしても仕方があるまい

「お台場!」

「上野!!」

「浅草の雷門に行ってみたいのだが・・・」

「俺、秋葉原!!」

「アメ横アメ横」

結構な意見が出るのでまとめてみた

お台場・・・七夜春歌、神咲葉弓

上野・・・杜崎沙弓、神咲楓、水瀬名雪

浅草・・・鉄乙女、神城凛、石蕗紅羽

秋葉原・・・白銀武、式森和樹

アメ横・・・七夜志貴、両義式

このメンバーだと、和麻は一番不安な上野班となるだろう

場所的には連なっているが神凪邸は三鷹市にある

距離的には結構な距離だ

せめて、移動手段が整っていればいいのだが・・・

ここにいる全員、金には少々縁が遠い人物ばかりである

和麻、紅羽は親がアレなため、小遣いなどほとんど皆無に等しい

志貴も別に意味でアレだし、他のほとんどが小遣い制で親がしっかりしている分、その金額も一般とさほど変わらない

式は金に無頓着な性格だし、数年後はどうか知らないが・・・

唯一、望みがあるのは祐一くらいだろう

彼はこの中でただ一人、すでに働いている

仲介料と納金と生活費を除いた分が手元に入ってきているはずだ

本当なら学費もここに入っているがやはりこういう命がけの仕事はその分、依頼金も一回で数十万はザラな危険度イエローレッドなものばかりで学費くらいなら数回仕事をするだけで払い終わる

『相沢』では子供の学費は宗家が全て担うがそれは全て肩代わりに過ぎない

しかも、親には払わせずに肩代わりした対象の子が仕事をして、そこから、学費分を引いていくシステムとなっている

これは人としての自立を促すために行う大切な処置

話を戻すが・・・祐一に借りるとしてもまだ問題がある

あれに借りを作るととんでもないことに巻き込まれそうな予感がしてしまうからだ

まだ闇金の方が安心だとも言える

「そういや、祐一はどうした?」

同じ一族の癖に知らない武が全員に問いかける

武と同じく彼の行方を知らない者はいるがちゃんと知っている者もいる

乙女と紅羽だ

「祐一なら智代のところだ」

「正確には治療室のお手伝いだけどね」

乙女の簡略した説明に紅羽が補足

後から来るそうだが冬香の話だと、時間がかかりそうだとも付け加える

「じゃあ、あんまり無理は言えないな。ってか、あいつ、明日無茶苦茶重要な試合じゃん!?休むべきだろ・・・」

「下手に気負いすぎるとリズムが狂うとか、言っていたぞ」

「そんなデリケートでもねぇくせに・・・」

「確かに・・・」

的こそ得ているがひどい

「ああいう手合いは始まれば、いつも通り」

己も似たような人種だからだろうか?

式が祐一の性格を知っているかのような発言

武と乙女は当たっているだけに何も言えない

「雑談もいいが少しは真面目に考えろ」

和麻の言葉で締まり直した一同は観光計画を続行する





転成(てんせい)(けい)()(とう)()
(すい)(れん)()(めぐ)りし(みつ)(らね)(はな)
(からだ)(こころ)(たましい)(つつ)()
()(どう)三十四(さんじゅうよん) (ほう)(れん)=v

三枚の青みのある膜が智代の体を包み込む

これは防御能力も持ち合わせており、包まれている間、多少の攻撃なら耐えられる

「気分はどうだ、智代?」

「ああ・・・問題ない。いい気持ちだ」

膜の中では至福にも似た安らかな表情でその身を休める智代

それを成した要因たる祐一に突き刺さる鋭い視線が一つ

「あなた達・・・・私も忘れないで欲しいわね」

智代の隣に寝かされた香里からの訴え

忘れてたとばかりに慌てて、香里の介抱に回る

すぐさま、智代と同じ鬼道≠展開しようとするが・・・

「私には熾鵬憐≠ナお願いするわ」

突然のリクエスト

熾鵬憐≠ヘ霊力消費量が抱蓮≠謔閧熄ュないが何よりその治療法自体がちょっと特殊

「そ、それはダメだ!!」

それに猛反発したのは膜の中で姿が見えない智代だった

香里のリクエストした鬼道≠ェどういうものか、知っているからの反応だ

そして、消費量が少ないため、祐一が取る可能性は高い、何より鈍感男だし

「ね?お願い、祐一ぃ・・」

微妙に甘え声で見上げ、祐一を誘惑する

子供とはいえ、同年代でも大人っぽい香里が歳相応に甘える姿は正直萌える

同性である智代もそう感じたからこそ、慌てているのだ

霊力を纏わせた拳で膜を殴りつけるがビクともしない

前にかけられたときは簡単とまでは言わないが罅くらい簡単に入るのに

「か、硬い・・・」

「ああ、お前が壊せたときは習得したてだったからな。まだ構成が甘かった。それが本来の抱蓮≠フ防御力だ」

(なぜ、こんなときにィィッ!!!)

歯軋りをするがその程度の音量ならば膜の中で反響し、自分の不満と怒りをさらに増大させる

そんな智代を尻目に・・・

「ん」

手を広げて、迎え入れOKの香里

「はいはい」

祐一もそれに応える

香里の体を全身で包み込むように抱きしめる

瞬間、智代に対して優越感を抱いていた表情がへにゃと弛む

祐一も密着部分から感じる香里の体温に照れながらも詠唱開始

体転(たいてん)送流(そうりゅう)
()から()(いず)(やく)(れい)
()(うで)(ねむ)りし(とうと)(もの)
パーテルルカの()()
()(どう)三十二(さんじゅうに) 熾鵬憐(しほうれん)=v

光悦、そして至福の表情へと変わりゆく

だらしないと智代や乙女達は言うであろうが所詮は嫉妬の負け吠え

今の香里には刺さっても痛くも痒くもない棘にすぎない

これが特殊の答え

基本的に治療術は全身から発した力を掌に集約して放出するタイプ

だが、掌が入り口だと、無駄があるので全身から放出するこの鬼道なら、その無駄が省ける

何より、制御が劣っていても効率的な術なのだが見ての通り、抱きつかなければならないので敬遠されている術でもある

もっとも、香里のような者もいるが・・・これはこれで、別の利用法があるということだ

()()・・・くっ、霊力が足りないというのか!!」

未だに足掻き続ける智代

発動は阻止できなかったからできるだけ、時間を減らそうと頑張っています

「・・・・・終了だ」

その必要もなく、タイムオーバー

治りも早いので智代の頑張りも虚しく、虚空と失せる

「あっ・・・・・」

それと同時に抱擁も解除

残念そうな香里の声に戸惑った祐一だったが治療終了以降もしていたら智代が洒落にならない形態に変化しそうなので止めておいた

賢明な判断である

「和やかなところすまないんだが・・・」

そこへ声がかかる

祐一の耳には聞き覚えのある声・・・

と、いうか、つい最近聞いたばかりの声

「浦島景太郎・・・・」

最近一番の難敵で先日、死闘を演じた相手

どうやら、彼も祐一と同じでまだ怪我が完治していないようだがその振る舞いは自然体そのもの

「昨日ぶりだね、相沢君」

人懐っこい柔和な笑みで返す景太郎

童顔な彼は祐一よりも二つ年上くらいなはずだが同年代といっても過言ではない

「・・・苗字で呼ばれるのは好きじゃない。祐一でいいぞ」

そんな笑みに毒気を抜かれたのか、いつの間にか入っていた警戒モードから通常モードへと移行する

「俺も好きに呼んでいいよ。もちろん、そっちの彼女も、後、膜の中の彼女もね」

「なら、景さんと呼ばせてもらおう」

「じゃあ・・・浦島さんで、私も好きに呼んでもらって構わないわ」

「私は景太郎さんだ」

「わかったよ、祐一君、香里ちゃん、智代ちゃん」

互いの呼び名が決まったところで祐一が本題を切り出す

「それで?俺に何か用?」

「うん、実はうちの妹を治療してくれないか?大分後回しにされていて、氣だけじゃ間に合わなくてね」

ここはなんといっても神凪屋敷

治療術者を雇うのも彼らだ

当然ながら彼らが最優先で治療される

たとえ、軽い怪我でもだ

ああそれを先読みした浦島も治療術者を雇ってはいたのだがもっと重症の患者が味方に出たので現在に至るということだ

だが、対戦相手、しかもボコボコにした、された相手に頼むとはどういう神経をしているのやら

「OK〜。どこにいる?」

それに即答で了承する相手も

「あの子、左から二番目の」

寝かされている少女を指差す

「はいよ・・・話は変わるけど、景さんてさ、東京のことはよく知ってる?」

「?・・・ばあちゃんに付き合わされて、何回かは。一応、ほとんどの区域は周ったよ」

よっし、と祐一はガッツポーズ

「ならさ、対価って訳じゃないけど、ちょっとお願いがあるんだ・・・・」

祐一は景太郎にとある計画を話し始めた



続く



Shadow Moonより

諸事情により、すみませんが感想は後日……


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