自分の試合を勝利で終えた後、乙女は自陣に戻り、腰をかける
全身の力を抜けさせ、祐一の方に寄りかけた
いつもなら、祐一に治療を頼むのだが試合前なのでやってくれそうにない
「祐一」
「なんだ?」
「滞在期間中に咲耶・・和麻の妹が会いに来るぞ」
先の試合最終場面での咲耶の言葉を思い出しながら伝える
あの意志は相当固い
彼女の中では確定事項と捉えているようだ
「・・・そっか」
別段、驚いた様子もなく、淡々と返す
(怒っていない?)
智代が予想していたとは違う反応
おそらく、気持ちはわかる、ということなのだろう
そして、咲耶に首謀者であることをバラしたことを問い詰めもしない
必要なこと
そう・・・祐一も理解している
だから、何も言わない
「それよりも問題はお前だ」
傷が完治せずに未だ包帯に巻かれたままの祐一
大体は治っているとのことだが本人発言なので誰も信用を置いてない
「そんな状態で本当に続ける気か?」
「くどいぞ、乙女・・・まだ戦えるんだ。やめる理由がどこにある?それに、だ」
乙女とは逆隣に座っている紅羽を見て
「紅羽のためでもあるしな」
「祐一・・・・」
恥ずかしげもなく、言い切った祐一
言われた紅羽は恥ずかしくて堪らない様で顔を真っ赤に染めている
乙女と智代の眉根がキツくなった
過ちに気付かずに・・・
誰よりも気高く強く、そして・・・
第1章 第16.4話 全門第2回戦〜雹雪の嵐〜
小人門
神凪綾乃VS神咲薫
圧倒的な火力で中距離、遠距離戦法を取る綾乃に対して、遠距離戦術はあるものの、威力が炎に比べて段違いに低い薫は攻めあぐねていた
相手の攻撃を必死に避け続け、懐に入り込むチャンスを窺っていたが結局最後は火力にものを言わせた攻撃に圧し負けてしまう
小人門
美坂香里VS坂上智代
最後の見所戦
すでに何人か途中退出したものはいたが実力派の退魔士はほとんど残っている
片や、『水瀬』の分家であり、水術の亜種である氷術の使い手
片や、『相沢』の分家にして、霊的接近格闘白打≠フ才女
固唾を呑んで彼女達を見守っている
「久しぶりだな、香里」
「そうね、智代。元気そうで何よりだわ」
年齢の割には大人びた雰囲気を漂わせる二人
マセているの範囲内ではあるが
香里は拳と肘、膝、足に金属身を帯びさせた武具を装備、それ以外は普通の防衣だ
智代はやはり漆黒の〔斬覇装〕、彼女のはもっとスリムで高速格闘戦闘専用のもの
「すまないな。会いに行けなくて・・・少々、面倒なことに巻き込まれている最中なんだ」
「いつものことでしょ?気にしてないわ。祐一が主犯?」
「ああ、いつもの通りだ」
そう言って、笑いあう二人
覚えているかは知らないが『相沢』当主の妻と『水瀬』当主の妻は姉妹だ
当然ながら双家の繋がりは大きく、親しい
祝事などには度々呼ばれることもある
子供は子供と遊ぶのが一番、知り合うのも当然と言えよう
「おしゃべりはここまでにして・・・・そろそろ、ね」
「いつから、そんな好戦的になったんだ?」
「戦闘スタイルが似ているからかしら?貴女とは前から戦ってみたかったのよ」
術者が明らかに接近戦闘に入る構え
腰を軽く落とし、ステップを踏むボクシング、いや、ムエタイに近い構え
智代は左掌を上、右拳を引いた状態の空手に近い構え
「水術の亜種、氷術・・・見せてもらおう」
「ッ!」
先手は香里
細かいステップから一気に踏み込んできた
タイミングが読みづらく、刹那に対応が遅れる智代
軽いジャブの連打
だがガントレットのような鉄甲を填めているので硬い威力がある
受けずに回避に専念する
長い銀髪が小刻みに揺れ、拳が空を打つ
「ぁッ!」
小さい裂帛と共にさらに懐に入り込んで肘打
「ぅぅっ!」
左掌を下向けで受けたが硬い肘打は防御しても痛みを与える
お返しとばかりに回し肘打
香里のいる位置が位置なので拳では満足なダメージが与えられない
「甘い!」
威力は高いが回し肘打は畳んだ腕が命取り
拳に手を添えられるだけで止められる
「掌!」
渾身の掌底
智代の腹部に直撃
だが、手応えの違和感を覚える
同時に頭部に衝撃
「ぁか・・・」
「これは効いただろう?」
柳簾・返頭
全身の力を抜き、攻撃を受け、威力を受け流す柳簾
体の重心に近く、骨の無い腹部に攻撃が来た場合、力が抜けている体はくの字に折れ、頭が前に来るのでそれを利用したカウンター
しかも、氣を頭部に集中していたのでかなり硬く・・・めちゃくちゃ痛い
「や、やったわねぇ・・・」
涙目になりながら、患部を押さえる香里
普段からは想像も出来ない表情
相当な威力であったことは証明できる
「お前の掌底も中々、聞いたぞ」
拳撃であれば、完全に受け流せたが掌は衝撃を伝えやすい分、受け流しにくい
ダメージは確実に智代の中に残った
「それは、どうも・・・・ね!」
今度は距離をとるらしく、精霊を召喚する
周囲の温度が急激に下がっていくのを肌で感じ取る智代
(出るか・・・『水瀬』でも数十年に一度出るか出ないかの氷精の精霊魔術師)
それが分家である『美坂』から出たのは『水瀬』史上の三人目となる
そして、現在は彼女ただ一人
美坂香里だ
まずは小手調べの牽制
氷で形成された矢を8本
高速射出
銃弾とまではいかないが、普通の矢とさして変わらないスピード
おまけにある程度操れるのか、半分ほどは弧を描いて側方から迫る
「
風の名を冠し、風により己を果たす者よ
災厄を受け流せ
護道の二十四 旋流=v
護道≠展開
風が智代の全身に纏うように宿り、回転する
氷矢はその間にも空を裂き進み、智代に直撃コースで飛来
「ッ、失敗したわ」
舌打ちして、自身が放った
直撃のはずの氷矢は着弾寸前・・・
・・・なんと、氷矢は智代のすぐ傍を通り過ぎていった
もちろん、彼女には掠り傷一つない・・・氷矢によっての傷は、だが
そして、霊力は迸り、霊圧が辺りに漏れ出す
発生源は智代
「お前も力を出したんだ・・・私も出さなくては申し訳が立たない」
銀色の霊力が彼女を包み込み、霊圧が急上昇
腰に横差した短き小太刀を抜き、切っ先と柄尻を掌と掌で圧し潰す様に挟み込む
最高潮まで高まった瞬間
「
旋風が智代を中心に巻き上げるアップストリーム
それは数秒で治まるほどの小規模なもの
竜巻が晴れると
「待たせた」
白銀の鉄甲と脚甲
天女が纏うような白桜の羽衣
額に巻いた銀板
武闘仙女、ここに降臨
(本気ね、智代・・・でも、それで流旋≠ェ消えたわよ)
もう一度、氷の矢を射出
智代を護る風は存在しない
「同じ攻撃が通用すると思うのか?」
自ら、氷矢に突進
着弾直前で鮮やかに体を沈みこませ、攻撃を掻い潜る
だが、それは回避行動だけではない
羽衣を氷矢七本に巻きつけ、自身を回転
巻きつかれた氷矢は智代の回転方向に半円を描く
「行けっ!」
ちょうど良いタイミングで解放
捕らえられた氷矢は射出されたとき以上の弾速で投げ返す
「別に制御を奪ったわけじゃないでしょ?」
冷静に対処
投げ返された氷矢は出現場所と同じ、香里の目の前で停止
そのままキャッチボールの如く、再射出を試みたがその前に智代はすでに行動に移っていた
投げ返した氷矢に紛れて、香里に接近
「まだ私のターンみたいね」
開いた掌を握りつぶすように拳に変える
瞬間、氷矢は爆裂し、鋭い氷の礫が智代に降り注ぐ
「ならば、私は速攻魔法だな」
香里の言葉を返すように告げて、一度逆方向に体を捻ってから、捻転解放
両腕を前に突き出し、瞬歩
弾丸のように回転しながら、香里にその身ごと突進する
羽衣が防御の役目を果たし、爆裂する破片から身を護る
「!?あ・・
咄嗟に出した氷の
バガンッ
トルネード智代は氷盾を砕き、香里の胸部に直撃
「ぁ・・・かはぁっ」
掠れた悲鳴をあげ、仰け反る香里
息が止まり、意識が飛ぶような衝撃だが、何とか根性で耐える
意識が定まらず、視線が宙を彷徨う
だが、思考能力はまだ残されていた
(今なら・・・入る!)
渾身の力を込めて、精霊を呼び、その力を行使する
「
香里の周囲から、爆発するかのように水晶で出来た様な氷槍が突き出る
それはまるで水晶の花
鋭き槍は人の肉を貫くには充分すぎる威力
それがわかっていたからこそ、智代も必死
攻防一体のこの技は真正面と一つ一つの威力が弱い範囲攻撃には強いが横からの甲威力攻撃にはとことん弱い
氷烈陣≠ヘ範囲攻撃だが一発一発の威力もある
(防げるか?いや、無理だな・・・なら!)
霊力を解き放ち、〔闘仙姫〕に注ぎ込む
これが〔闘仙姫〕の能力
霊力を白銀の霊風に変換する
「
銀色の風は旋風となりて、智代の体を覆う
突き出る氷槍は智代の体に直撃コースにあったが銀の旋風によって、逸らされる
数本ほど、風を突き破る槍があったが直撃は無し
今日何度目かもわからぬ砂塵が巻き起こり、すぐに晴れた
智代の風だろう
晴れた中にいた二人は・・・・どちらとも立っていた
腹部を押さえながら、氷精を周囲に漂わせる香里
と
所々に大きくはないが小さくもない傷を負う智代
この状況ではどちらが有利とも言えない
「・・・ここまでやるとは思っていなかったぞ」
「私は・・・最初からわかっていたわよ」
「その言葉、どう取ればいい?」
「言葉通りよ。解釈は自由だけどね」
互いに舌戦を繰り出しながら、準備を整える
二人の右足の五指は地面を思い切り噛んでいる
もはや隠そうともしていないことから、相当消耗している様子
それとも、無駄と感じたのか
瞬歩
氷刃走
瞬速移動と足元を凍らせ、スケートのようなエッジを形成し、滑る高速移動
一直線に相手に向かって突っ走り、互いに拳を突き出した
ボグゥッ
鈍い音が響く
互いの拳はぶつかることなく、互いの頬にめり込んだ
かなりの速度で突っ込んでいったために威力は充分
何やら軽くミシッと聞こえたような気もしないこともない
二人の整った美少女の顔は軽く崩れ、だが、二人とも気持ちの良い笑顔のまま・・・崩れた
小人門
美坂香里VS坂上智代
結果は引き分け
それも全ての試合の中で一番、漢らしい終わり方
ともあれ、これで子供部門の第二回戦は全て終了した
続く
Shadow
Moonより
諸事情により、すみませんが感想は後日……
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