「久しぶりにボロボロだな」
腕を組み、胡坐をかいて感想を述べる祐羅
下がった視線の先には・・・
「うっせぇやい」
ほぼ全身に包帯を巻かれ、布団で横になっている祐一
病状は極度の筋肉疲労
両腕が特に酷く、紫色に変色していた
本来なら、癒道≠ナ一気に治せばいいのだが今回は筋肉疲労なので自然回復を待ち、超回復させることにしたのだ
だが、問題が一つ、残っている
「今日の風牙衆の打ち合わせはどうする気だ?」
そう、裏工作の下準備がまだだった
今回は打ち合わせの前準備をする日
「ああ、それなら大丈夫。代役に頼んどいた」
手をヒラヒラと振ろうとするが動かない
「代役だと?」
祐羅は訝しげな顔で聞き返す
「任せられる奴なんていたか?」
今回連れてきたメンバーを思い返す
大人は無理があるため、省いたとして・・・・残りは三人
「乙女と智代はこういうことは好かないだろ。武は性格上無理・・・・おい、まさか」
頭の中にその任務に祐一以上に相応しく有能な人物が浮かび上がる
たった、一点、重大な欠陥持ちではあるが・・・
「本気か?」
「モチ、大丈夫だって・・・俺は転んでもタダじゃ起き上がらないから」
誰よりも気高く強く、そして・・・
第1章 第15話 幕間〜月下の逢瀬〜
「和麻様、祐一殿は?」
流也と共に和麻が風牙住居の廊下を歩いている
「あいつは療養中だ。俺が代わりに来た」
「すごかったですからね、昨日の祐一殿・・・・」
憧憬と羨望が込められた声
和麻は気にせずに廊下を進む
「長は来ているのか?」
「ええ、他の風牙衆は隣の部屋に待機しています」
「そうか・・・・一応、祐一には呼魂法≠ナ繋ぐ予定だ」
明日、使用する会談方法の実験でもある
祐一がタダじゃ起き上がらないと言ったのはこのことだ
「貪欲が力になるんでしょうか?」
「だろうな」
和麻と流也は長の部屋に入る
中には風巻兵衛が座して待っていた
彼の前には将棋盤が置いてある
「やはり、相沢の嫡子殿は来られなかったか」
『それについての失礼は御詫び申し上げる』
突然、声が部屋中に響く
この声は・・・
「祐一殿!!?」
「突然、喋るなよ。驚くだろ」
『驚いてから言えよ。それはともかく、兵衛殿、お初にお目にかか・・・いや、お目にはかかっていませんが相沢祐一だ』
言葉遣いは正しいのだが妙に偉そうに聞こえるのはなぜだろうか?
「風巻家当主・・・」
『失礼だが無駄な口上は抜きにしよう。あまり長く話せる状態じゃないもんで』
兵衛の言葉を遮り、話を進ませるように促す
かなり失礼な態度かもしれないが理由を知っている以上、兵衛はそれを無礼と取っていない
むしろ、驚嘆すら内心ながらに思っている
「そうですな」
『まず、会談方法だが今、行っている方法で相沢宗主とあなた方で会談します。その後、必要な書類を集めて、神凪に談判します』
「勝算は?」
ゴクリとのどを鳴らしながら聞く兵衛
そここそが彼らの生命線
逆を言えば、その部分さえ、しっかりしていれば、彼らは諸手を挙げて相沢に下るだろう
『それはあなた方の情報次第だ。こちらでも揃えてはいるがほぼ中枢で情報操作を行っていたあなた方に及ぶべくはない』
詰まる所、勝ちたきゃ、できるだけ多くの情報を得ろ、と言った辺りだ
「・・・・わかりました。出来る限り多くの情報を集めてみます」
『頼みます。時間は全試合終了時の・・・午後六時ということで』
そこでようやく、仕込みが終了した
残すは明日の本会談と神凪との交渉のみ
「それじゃ、俺はこれで・・・」
和麻は席を立ち、部屋を出ようとする
「少し聞いてもいいかな?」
兵衛がそれを遮る様に呼び止めた
和麻は足を止める
了承と取った兵衛は質問を切り出す
「なぜ、
それは至極当然の疑問でもあった
神凪の嫡子たる和麻が相沢の利になることを行っている
神凪を怨み、相沢に従おうという風牙衆からみれば、和麻の位置は微妙を通り越して、胡散臭い
「・・・・その答えはすぐにわかりますよ、それじゃ」
和麻はそれだけ答えて、部屋を出た
「・・・・はい、おしまい・・・・寝よ寝よ」
呼魂法≠切ってもらい、彼のできることへ全て終了した
父さんはすでに部屋から出て行っている
後はこれまで右往左往してしまったが今回の目的はあくまで試合だった
だが、紅羽の事情も加わってしまった以上、彼女のために石蕗巌に勝つことが主目的
「しかし・・・派手にやられたなぁ、俺」
包帯に包まれた己
まだまだ足りない『力』、届かない『目標』を再確認させてくれる
それにしても・・・
「やっぱり、花菱%連発は効いたな・・・使うのはもう少し成長してからにしよう」
使うにしても多少なりとも強化しておけばよかった
後悔、先に立たず、だ
「祐一、いるのか?」
襖の向こうから智代の声が聞こえてきた
同時に食欲をそそる芳しい香り
「おおっ、ありがとな、智代!!」
用件と何を持ってきたのかを把握し、先に礼を言った
「礼は貰ってから言え。予想通りだろうが陣中見舞いに来たぞ」
襖を開けて入ってきた智代
その手に持った盆には俵型のおにぎりが四つと白葱と豆腐の味噌汁、白菜と胡瓜の漬物が数切れ、それにお箸
シンプルだが非常に(食欲が)そそられる三品
「ハッハッハッハッハっ」
まるで犬がご飯を待っているかのよう
尻尾があれば、ブンブンと振り回していたことだろう
「・・・・・・・・」
何か考え付いたのか、数秒黙り込んだ智代
次の行動は・・・・・お盆を片手で持ち、余った手を差し出す
「お手」
「・・・・・・舐めてるのか、智代・・・・」
鋭い眼光で睨みつける
「いくら俺が空きっ腹だろうが犬の真似なんぞ・・・・・」
「・・・・」
智代は何も言わず、差し出した手を引っ込めようとする
「わんっ♪」
引っ込めるより先に祐一は吠えて、手を掴むようにお手
プライドも虚勢もない
情けなさ過ぎる・・・
「智ちゃん、怒っちゃヤ♪」
可愛らしく言うが気持ち悪い・・・・なんてことはなかった
子供な上に元より中性的な顔つきの祐一
戦闘となれば、抜き放たれた刀の如き鋭さと覇気を見せるそれとは正反対のギャップに
「・・・````````」
そんな顔を直視してしまった智代
ましてや、自分の思い人となれば・・その効果は陪乗
文字通り、顔から火が出そうなほど、赤く染める
「わ、わかったから、放せ!」
本心はもう少し見つめら、手を繋いでいたかったのだが今回は羞恥が勝った
手を放し、お盆の到来を待つ
智代はお盆を彼の前に置く
「わ〜い、ガツガツガツガツ」
まるで欠食児のよう
すごい勢いでおにぎりを平らげながら、合間に味噌汁を飲み、漬物を齧る
20秒とかからず、完食
「すごい食欲だな。そんなに腹が減っていたのか?」
「氣と霊力、
まだまだ食い足りなさそうな祐一
米の一粒、味噌汁の一滴たりとも、残ってはいない
「わかった。もっと多く作って・・・来ることもないか」
智代は被害を回避するために立ち上がり祐一を挟んで入り口とは反対側に座る
その後、人の気配が近づいてきた
数は・・・2、いや3
襖を開けて入ってきたのは・・・
「祐一、おにぎりを作ってきたぞ」
大量のおにぎりを盆に載せた乙女
ざっと見積もっても20はある・・・・作りすぎだ
「さすがにおにぎりだけじゃ、寂しいでしょう?」
ほうれん草の御浸しや烏賊の刺身などの消化の良い料理を並べた紅羽
「うちも作ってきたばい・・・食べてほしか」
鶏肉、蒟蒻、芋や牛蒡、人参のがめ煮を器に入れ、持ってきた薫
「おおおおっ!」
歓喜の咆哮を上げる
「いただき・・・あ」
勢い良く箸を掴もうとするが失敗
そう、包帯を巻いて太くなった指ではうまく箸が握れないのだ
「ううぅぅぅぅ・・・・」
涙目になりながら料理を見つめる祐一
悔しそうな表情はショタの女性なら堪らないものとなっている
(く・・・・これは・・・・)
(な、な、な、なかなかかかかか)
(ぶっ!く、クルわね・・・)
(わぁ・・・・かわいかぁ・・・・・)
彼女達が耐えられるわけがない
「よ、よし!なら、私が食べさせてやろう」
「智代!お前は抜け駆けしたからいいだろ!祐一、私がしてやろう」
「祐一、この烏賊は新鮮よ」
「あっ!抜け駆けは卑怯たい!!」
祐一の一日はむしろ、コレからが本番だ
今日は三日月の夜だった
美しく急な曲線を描くCrescent
空には雲が少なく、その形がはっきりと認識できる
「いい夜だなぁ・・・」
そんな月を見上げ、呟くのは七夜志貴
時間はすでに22:00を回っている
つい先ほどまで、風呂に入っていた志貴
頭に薄い湯気が揺らいでいる
さすがに会議に出席した人数では風呂の時間帯が決められており、『七夜』は後の時間帯だったのだ
だが、月夜の散歩にはちょうどいい時間帯
「ふぅ、気持ち良い」
涼しい風が吹いている
お風呂上りなのでさらに気持ちがいい
それに月も綺麗さも合わせて言う無しの気分
せめて言うなら、満月ではないことだろうか?
戦闘時なら、新月の方が都合いいんだろうけど
(・・・あれ?)
と、志貴はふと誰かがいることに気付いた
気配は無かったがふと目をやった方向に人影あり
「誰・・・?」
月明かりで姿がよく見える
白の和服を来た少女
肩まである黒い髪が月明かりに反射する
(う・・・・わぁ・・・・・・・)
志貴は思わず見惚れてしまった
透明感のある白い肌
肩で揃えた夜のような黒い髪
キリッした眉
まるで人形のような端整な幼き美貌
一つの芸術作品のような美しさ
そして、『天は二物を与えず』の言葉通り唯一つ欠け落ちた、光無き虚無の瞳
「・・・・・・何か、用?」
魅入り、呆然と立ち尽くしていた志貴
感情の起伏がほとんど無い声に動揺する
「あ、いや・・・用ってほどじゃないんだけど・・・」
志貴はしどろもどろに答える
そこで気付き、思い出した
この子は見たことがある
たしか・・・・
「両義式・・・ちゃんだっけ?」
恐る恐る聞く志貴
「・・・初対面でちゃん付けは失礼よ、七夜志貴」
式は苗字も合わせて志貴の名、しかもフルネームで呼んだ
「あ、ごめん・・・・」
「で、何か用?」
「用はないんだけど・・・・」
「そう・・・・・」
淡々と続く短い問答
続いて訪れる沈黙
聞こえるのは虫の鳴き声のみが犇めき合う
重苦しい空気が漂う空間
「そ、そういえばさ・・・」
志貴はたまらず口を開いた
沈黙に耐えられなくなったようだ
「試合見てたよ。強かったね」
試合のことを切り出す
ま、話題にするならこれが一番無難だろう
「そう・・・」
そっけなく返す式
志貴はウッと詰まりかけたが
「でも、式・・・・ええと、なんて呼んだらいい?」
切り出そうとして根本的なところで詰まった
なさけないぞ、志貴
「式でいいわ」
「わかった・・・・でも、式は本当に強かったよ。剣なら多分祐一よりも」
自慢ではないが相手の強さを見抜くにはちょっと自信がある
それでわかった
剣の腕でだけいえば彼女は祐一を上回る
「ッ」
ピクッとだが反応してくれた
顔がやっとこちらに向く
子供なのに綺麗な式の顔に志貴は顔を赤らめてしまう
「一応、家で教えられているから・・・それに織が好きだから」
「シキ?」
発音が違ったな
彼女でも僕でもない
別の誰かのような・・・
「シキって、誰のこと?」
「ッ・・・・」
式はしまったという顔をする
「なんでもない!」
式は強めに言って去っていった
何か、悪いこと言ったのかな?
僕は呆然と立ち尽くしていると・・・
「申し訳ありません、志貴殿」
「うわっ!」
後ろから謝罪の声がかかったがそれどころではなかった
気配読みにはかなり自信があるのだがそれでも後ろを取られた
何者だ、この人・・・・
声をかけてきたのは黒いスーツを着た男性
「度々申し訳ありません。私、式様の教育係を勤めさせていただいています、硯木秋隆と申します」
礼儀正しい口調で自己紹介をする秋隆
「ああ、そうなんですか・・・・・」
「志貴殿、式様を嫌わないで上げてください。あの方は友達というものがおりませんので対応に戸惑ったんだと思います」
秋隆は淡々と語るがその言葉の中に彼の優しさが見えた気がした
「はい、大丈夫ですよ。僕は彼女を嫌ったりしませんから」
志貴ははっきりと返す
その返答に満足そうに微笑む秋隆
「ありがとうございます。では・・・これからも式様達(・)をよろしく御願いします」
そう言って秋隆は式が去っていった方に向かった
志貴は志貴でもう少し風を感じてから部屋に帰った
(・・・・ん、達?・・・・どういう意味だろ?)
秋隆の言葉に違和感を覚えながら
続く
Shadow
Moonより
諸事情により、すみませんが感想は後日……
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