「よぉ、和麻」

『神凪』の分家の一つ『久我』家次男久我透

さらに分家の一つ『結城』家長男結城慎吾

後はその他もろもろの雑魚が7匹の合計9匹

一応、透がガキ大将の役割で烏合の衆のリーダー的存在となっている

理由はこの中で一番ガタイが良く、強いから

とは、言ったものの、決して人の上に立てる器などではない

もし、透が神凪宗主になったとしても三日天下の言葉通り三日で滅ぼされるだろう

妖魔ではなく、敵対組織・・・つまりは同じ術者・・同属たる人間に、だ

それぐらい、透には指導者素質は無く、また『神凪』の立場も危うい状況なのだ

まあ、神凪貶しはおいおい、後にも記すとして・・・・

現実へ戻ろう

「なにか、用か?」

「ああ、重用だ」

(馬鹿だ、こいつ・・・・)

心の中で馬鹿にする和麻

『重大な用件』を略して『重用』と思っているらしい

まったく別の意味になるとも、知らずに

もっとも、それを正してやる和麻ではない

だが、いつか、どこかで恥をかけ、とも思わない

透らのことなど、どうでもいいだけ

しかし、残念ながら、和麻が相手にしない彼らは違うようで・・・

「ちょっと一週間ぐらい・・いや、ずっと眠ってろ!!」

透は愉悦の叫びを上げながら、和麻に腕を振り上げ、襲い掛かった




(だれ)よりも()(だか)(つよ)く、そして・・・


第1章  第7話         
異才にして鬼才






「綺麗だな・・・羨ましいぞ」

乙女が紅羽の長い黒髪をスゥーッと梳く

軽やかに流れる漆黒の髪

冷たい感触が乙女の掌に伝わる

「・・・・私のより、綺麗だ」

智代は羨ましそうに紅羽の髪を見ながら、自分の髪を弄くる

彼女の長い銀髪とて、月の如く美しきものだが紅羽の闇夜のようなそれに比べれば劣る

「智代のだって、充分綺麗じゃない」

紅羽も智代の髪を触っている

「・・・・・・」

そんな二人を尻目に無表情で黙り込む乙女

誰も自分の髪のことは気にかけてくれないことを気にしているらしい

「お、乙女さんの髪もいいと思うぞ!何せ、戦闘中、邪魔にならない!」

「それに乙女には長髪は似合わないわ!そっちの方が格好いいもの!」

そんな乙女に気付いた二人は慌ててフォローを入れる

だが、そこへ茶々を入れる人物が一人

彼女達の様子を暇つぶしに見ていた武だ

「言ってみれば女らしくないってことだよな。男装の麗人みたいな・・・ッ!?お、乙女・・・?」

彼にしてみれば冗談だっただろうが今の乙女にその一言は禁句に等しかった

ユラリと幽霊のごとく、フラ〜と立ち上がる乙女

その一連の行動は背筋がゾッとするものがあり、武からすれば顔は反対側を向いているので表情が見えないのが逆に怖かい

乙女の体の周りからドス黒い、負のオーラが溢れ出している

触れたもの全てを侵食し、引きずり込む虚無の闇の如き氣質だ

「げっ・・・俺、一抜け・・ブッ」

武はその場から離れようと立ち上がろうとした瞬間、足に何かが引っかかり、倒れる

畳に顔面を打ちつけ、とても痛そうな様子

「いっててて・・・、何だよ・・・って、這縄=I!」

(ばく)(どう)(よん) (はい)(なわ)

霊力の縄を作り出し、対象を絡め取る鬼道

その強度は使われた霊力と霊圧に比例する

それが・・・2本

「元凶が真っ先に逃げ出すとはいい度胸だな、武。祐一、感謝だ」

「とばっちりくらうのはごめんだからな」

2本の霊縄を手繰り寄せる智代と祐一

しかも、二人はズモモと黒いオーラをその身に纏う乙女の両側にいる

つまり、そのまま手繰り寄せると・・・

「や、やめろ、祐一、智代!!」

手動的に武は乙女の前に引きずられる寸法

二次災害を恐れる二人に、元凶たる武の言葉など届いても聞き届けるわけない

「武」

起伏も感情も無い平坦な声

それ故に恐ろしい

ついでに言うとその部屋には乙女(断罪者)(罪人)しか、いない

祐一、紅羽、智代はすでに逃げ出していたりする

志貴と和樹はあの後、自室へ戻るそうなので別れた

つまり・・・・・・武、君に逃げ場は無い

あっても、誰かが潰す・・・・と、いうか、潰させる

それでは・・・Amen

「Amenじゃねぇ!お、おお、乙女、俺が悪かった!!だから、許し・・・」

武の懇願は虚しく、聞き流され・・・・・

いつの間にか、現れていた斬魔刀に手をかける

乙女の霊圧がどんどん上昇するのを感じた武

今、何をしようとしているのかを理解した武は大慌てで乙女を宥めようと試みる

「ちょっ!?乙女、それは洒落に・・・」

万物(ばんぶつ)(ことごと)()(きざ)め!!〔地獄蝶々(じごくちょうちょう)〕!!


神凪屋敷の一角が盛大に爆発を起こした




爆発した部屋から少し離れた廊下

爆心地よりいつの間にか、忍者の如く逃げ出した祐一、紅羽、智代の三人

武を置いていった部屋の方向へ合掌していた

「成仏しなさいよ」

「お前の勇姿は忘れない」

「骨は燃やしてやるからな」

冥福を祈っていたりする

それでいて、乙女の怒りが治まるまで戻る気は無いのだから本当に酷い

ま、自業自得ならぬ自業自爆

武には死んでもらおうというのが結論らしい

「しかし・・・・失敗した」

祐一は頬をポリポリと掻き、屋根の天井を見上げながら呟く

あの部屋にトランプや将棋、チェス、麻雀牌など、いろいろ置いてあったのだ

「だが、あの乙女の怒り様だと、余波で消失していそうだが・・・」

「それなら心配ない。一応、護道≠かけておいたから直撃しない限り大丈夫だろう。壊れたら、武に弁償させる」

(とことん、鬼ね、この子・・・・)

冷や汗をタラーンと垂らす紅羽

古いリアクションだ

「ッ・・・・・なんだ?」

「これは・・・」

祐一と紅羽はそれを感知した

それとは・・・悪意

ソレも複数の・・・・・・

紅羽は言わずもがなだが、祐一も悪意を向けられたことは何度もある

今でこそ、学校のヒーロー的(と、いうより皇帝の如き)存在な祐一だが

入学当初は他より少し大人びた程度だったのだが

小学生低学年のある時を境に天よりも高い目標を得た祐一はさらにその風格を上げ、小学校の中で知らないものはいない存在となっていった

高学年の年上から見たら祐一は生意気なチビにしか映らなかったようで・・・集団虐めにあったことがある

いや、祐一だけではない

武も乙女も留美奈も虐めにあったことはある

・・・・・まあ、あるだけだ

当然ながら、報復として虐めをした奴、協力した奴を老若男女無差別にフルボッコ

次からは彼らに逆らう者は誰一人いなかったという

まあ、それはおいといて・・・・

「複数か・・・妙に粘着質な悪意だな」

「吐気がするわ」

嫌悪感を覚える二人

そして、怒りも、だ

楽しい雰囲気をぶち壊してくれた悪意の源に

「祐一、潰しに行かない?」

「奇遇だな、俺もそう思っていたところだ」

息ピッタリの二人は恐ろしいオーラを纏い、素晴らしいほどの笑顔を浮かべ、悪意の方向へ歩いていく

その様子を怖さ半分羨ましさ半分で見つめる智代がその後に続いた





「っと」

炎拳で殴りかかってきた久我透の攻撃をサイドステップで回避する和麻

勢い余った透は手すりを殴りつけてしまい、拳の炎が燃え移る

あっという間に黒く焦げた手すり

落ちぶれた分家といえど、これぐらいの高温はあるということだ

直撃すれば、炎の加護を持たない和麻では、手すりと同じように焼かれてしまうだろう

だからこそ、和麻は回避に重点を置く

炎の怖さを一番よく知っているから

「避けてんじゃねぇ!」

透は振り向きながら腕を払い、炎を放出

小波程度の炎が和麻を飲み込む

醜悪な愉悦の笑顔が浮かぶ透

だが、次の瞬間、それは驚愕に変わった

なぜなら・・・

「まだ調整が甘い・・・か」

和麻が炎の中からほとんど無傷で現れた

その両腕で払い除けたのか、小さな傷は腕に集中している

「和麻、てめぇ・・・・」

「なんで俺の炎で焼かれてねぇ!?」の言葉が続かないくらい透は動揺していた

だが、例えその言葉が口に出来たとしても和麻が答えることは無い

敵に情報を教えてやるような少年誌的な展開はない

なので、説明しよう

よく見ると和麻の腕は青い霞のようなものが漂っている

これは《水氣》だ

退魔の世界で生きる人間ならば、誰でも知る《氣》

一番基本的な力で常人でも鍛錬すれば、習得可能なエネルギー

その《氣》に属する五行思想に連なるのが《水氣》だ

他にも《木氣》《火氣》《土氣》《金氣》がある

単純な《氣》よりも修得難度が遥かに高く、応用が利く

これらは青山の神鳴流≠竕Y島の真鳴流≠フ五行戦術に礎とも言える重要な秘術だ

容易く習得できる代物ではない

『青山』の直系でも何年もの歳月を重ねて会得できるものだというのに・・・

『神凪』の直系が独学で会得するなど・・・

どれだけの才能と努力を持ち合わせているのだろう?

《炎術》の才の代わりとして見るなら・・・残念ながら吊りあいは取れない

精霊魔術より如何に応用が利こうと、所詮はそれだけ

五行戦術は精霊魔術に劣る

退魔界では、それが通説

はい、説明終わり・・・本編へ戻ろう


確かに《水氣》ならば、水剋火の原理で炎と相性は良く、対応できる

ある程度は・・・・だ

(腐っても神凪の分家・・・今の練度の《水氣》じゃ、まともにぶつかると全快でやっと防げるくらいか・・・・)

《氣》と炎術じゃ内包するエネルギーの密度が違いすぎる

(《風氣》を中心にスピードでかき回す!)

武十星術(ぶとうせいじゅつ)
初式(しょしき)御風(みかぜ)
纏風(まといかぜ)

《風氣》を全身に纏う和麻

これでスピードがかなり上昇したことだろう

だが《木氣》の派生である《風氣》と炎は相性こそ、木生火で良い・・・・火にとっては良い

《木氣》で抵抗するには相性は悪い

しかし・・・・

「こぉの!!」

「当たれぇぇ」

縦横無尽に動き回る和麻に向かって炎が放たれるが掠りもしない

炎術は攻撃力こそ最強だが精霊の召喚速度、攻撃速度は他の精霊魔術と比べると遅い

故に相手の動きと攻撃のタイミングさえ、見切れるのなら、後は攻撃範囲から逃れられるスピードさえあれば、全て回避することも可能

そして・・・

「破ぁッ!」

炎を放ち終わった分家の一人に、スピードを落とさぬまま、接近

腰を低く落として、水月に肘打

「ゥヴォッ!」

衝撃を完全に徹されたのか、吹き飛ばずにそのまま後ろに倒れこむ

完全に白目を剥いて、たまにピクピクッと痙攣している

どれだけの威力かはくらった相手にしか想像はつかないだろう

「ちょこまかと、動きやがって」

「馬鹿野郎共が!!」

透が怒声と罵声の融合声を子分らに浴びせる

自分は受け止められたくせに、と誰もが思ったが声には出さない

「思いっきり放出すんだよ!逃げ場が無けりゃ、避けられないだろうが!!」

馬鹿にしては考えた戦法

単純で力技だがそれ故に対処方法は少ない

透の言うことに従い、全員が炎を全身から辺りに放出

無差別に放たれた炎は仲間にも向かっていったが彼らに炎は効かない

つまり、危ないのは和麻のみ

「うおっ・・・・っと!」

誰もいない方向へダッシュ

ある程度、分家連中は密集していたのでそこにはまだ侵食されていない

「そこかぁ、和麻ぁぁぁっ!!!」

だが、荒れ狂う炎の中を透が突っ切ってきた

(やべっ!)

和麻は急いで回避行動に移ろうとしたがまだ足が地に着いていない

透はすでに炎を放っており、今からの回避は不可能

《水氣》での防御を図ろうとするが間に合わない

(ちっ、きしょう!)

諦めかけた和麻

だが、そのとき

「よぉ、俺達も混ぜろ」

「助太刀はいるかしら?」

上空から飛び降りてくる二人の人物

小太刀式(こだちしき)斬術(ざんじゅつ)
墜刀落(ついとうらく)

内の一人が降下の勢いを合わせた抜刀斬撃で炎を縦一線に斬り裂く

燃え盛っていた炎は呆気無く、霧散し、消失

炎の精霊によって構成された炎をただの斬撃で透の意志から解放させた

意志は同じ意思を以って、征する

どれだけの意志がその斬撃に込められていたのだろう

だが、少なくとも・・・・ここにいる誰よりも乱入者の意志が強いことだけは確かだ


続く




Shadow Moonより

諸事情により、すみませんが感想は後日……


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