「・・・・・秋子」
冬治は真剣な瞳で秋子を見つめ
「なんですか?」
秋子はいつもと変わらぬおっとりとした顔で対応
「祐一君を名雪の婿にしようと思うのだがどう思う?」
「了承」
即答で答える
その早さは夫婦になってからもなる前からも同じなので驚くことではないが・・・・
内容がないような上で、その早さに自分から切り出したくせに驚いてしまった冬治であった
「じじ、自分の娘だろう・・・こういうときぐらい、その・・なんだ・・・・」
「私はあなたより祐一君のことをよく知っているんですよ」
それが答えだ
とは、言っても秋子も冬治も二桁を少し超えた回数ぐらいしか、祐一を会っていない
後はその機会だけで、どれだけ祐一の本質を知れたかが問題だ
「ただ、ライバルは多いですよ」
秋子が知るだけでも6人
いや、今、一人増えたから7人
学校の女子達も入れれば倍以上に跳ね上がるだろうが、祐一が普通の女の子を好きになるとは思えない(ひでぇ
「僕達の娘だよ?一番になれるさ」
冬治はその言葉を閉めに、秋子との会話を終了
祐一のほうへ歩き、第一声
「祐一君、名雪の婚約者になってくれないか?」
なんと、いきなりそんなすごいことを切り出してきた
「「「えええぇぇぇっ!!!!」」」
祐一と秋子、冬治以外の全員が驚いた
そして、それを盗み聞きした者がいた
連合会議の中にもいた人物
顔も体格も普通、あまり目立たぬ、言ってしまえば地味な少年
風の『斉藤』が長子、斉藤名雲だ
適当な紹介だが、彼にはもう一つ相応しい紹介文があった
それは・・・・・
水瀬名雪に婚約を迫り、断られた少年
「何やてェェッ!!!!!」
焼きOてジャパンの河Oのような叫び声を上げる
思わず叫んだ
とにかく叫んだ叫ばずに入られなかった
幸い風の結界を強いていたので大丈夫だったがもしかしたら洩れているかもしれない
それぐらい人生の中で一番叫んだ
(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!!!!?????)
なんで俺が婚約を申し出たときには断られたやんか!!
なんであいつには宗主自ら婚約してくれなんてぬかすんや!!!
俺とあいつの何が違う!!!
戦闘力か!?たしかにあいつの方が上やけど風術師の戦いなら負けやせえへん!
胆力か!?石蕗の宗主に真正面からは立ち向かえへんけどそのうちいつかは!!
話力か!?身体能力か!?学力か!?年齢か!?
斉藤は目の前にはいない水瀬冬治に問いを続ける
なんで俺やなくてあいつ・・・・・・
風術・・・・やからか?
風術は弱いってあの人も思っとるんか!?
だから、俺が名雪様の婚約者になることを反対してるんか!!
戦闘力の低い風の『斉藤』の嫡男の俺よりも最強と名高い『相沢』一族の嫡男の相沢祐一の方が優秀やからか!!
「くそったれ!!・・・・相沢祐一ィィッ!!!絶対、許さへん!!」
呪詛のような怨念のような憎しみと怒りの声を上げる名雲
ここまで行くともはや病気である
だからであろうか、盗み聞きのための風の盗聴を維持し続けるだけの余裕がなくなっていたこと
だからこそ、聞いていなかった
祐一の言葉を
「お断りします」
即座即答キッパリこっきりくっきりと祐一は断言
あまりの速さに全員、秋子までも呆然としていた
普通なら名誉なことである
誰でも自分の子は可愛い
それは冬治も例外ではない
しかも彼の場合、一人娘
それに加えて名雲のように相手からではなく、自分から
それなのに祐一は断った
「なぜか、聞いていいかな?名雪は嫌いかい?」
冬治は唖然としながら祐一に聞く
もうすでに好きな子がいるのだろうか?
まさか、許嫁がすでにいるのか?
それとも恋愛に興味がないとか?
だが、祐一の答えは冬治の想像のその上を行っていた
「俺も・・・結婚したいと思うぐらい好きな人は自分で見つけたいですから」
答える祐一は照れ隠しに頬をポリポリと掻く
その後、横目で冬治と秋子を見る
その眼はこう語っていた
『貴方達みたいにね』
さすがの冬治もそれには言い返せなかった
自分と秋子は難しい関係の中ゴールインしたのだから
祐一の気持ちが痛いほどよく分かった
だから
「・・・・そうか・・・・そうだね。わかった、婚約は撤回するよ。だけど、この件にかかわらず、娘とは仲良くしてやってくれ」
「名雪と俺は友達です」
それが答えとばかりに宣言
冬治は安心と満足の表情を浮かべ・・・・・最後に少し不満な表情を浮かべた
誰よりも気高く強く、そして・・・
第1章 第6話 揺れ動く、小さく幼き世界
水瀬夫妻・・・と、いうより冬治の爆弾発言の後
祐一に全力全開の最強技を放ったツケがいきなり回ってきた
それは当然の結果でもある
あれだけの霊力を開放したのだ
まだ成長しきっていない幼き身体では耐え切れるはずもない
中庭の地面に大の字でぶっ倒れている祐一
その周りに三人が集まっている状況だ
「あ〜〜・・・それじゃあ、改めて・・・相沢祐一だ。よろしくな、紅羽」
「七夜志貴です、よろしく」
「僕は式森和樹って、言います!」
「・・・・石蕗紅羽よ」
年上らしく、振舞ってみた紅羽
だが、内心は驚愕一色だった
(何、この面子・・・・・)
全員、退魔名門の御曹司・・・・それはまだ珍しいことではない
会議が開催されたこの場所ならば自然そうなることは当然のこと
それに御曹司とは言っても実力的には大したことはない・・・普通は
だが、この場にいるのは親も親だが、子も子の言葉通り、幼くしてその名を誰もが知っていて、その中でも高名な若手トップ10に名を連ねる者達だ
「祐一さん、回復しますか?」
【鋼覇将】式森牙威の第一子にして名門『式森』の次期後継者
世界最高クラスの魔力を保有するとされる若手7 式森和樹
「やめとけ、和樹・・・使い切れない魔力が暴走したらやばいから」
世界最高峰の暗殺者【鬼神】七夜黄理を父に持つ四大退魔野中でも特に異質な『七夜』の次期後継者にして、卓越した暗殺能力を持つ若手4 七夜志貴
そして・・・・
「少し休めば、霊力も回復するから大丈夫。まあ、その少しの間はまったく動けないけど」
超名門『相沢』の宗主にして、世界最強クラスの退魔士と謳われる【阿修羅王】相沢祐羅の息子であり、中級妖魔を単独で滅した堂々の若手1 相沢祐一
一応、紅羽自身も最下位だが若手10に選ばれている実力者
だが、このメンバーの前では霞んでしまう
見た目は本当に年相応に幼い分、卑怯だ
「ねぇ、相沢祐「祐一でいいぞ」祐一、どうして、私を助けたりしたの?」
紅羽が一番、聞きたかったこと
話していてわかったが祐一は他者に対しては、非情と非常を重ねてしまうくらい無関心だ
その分、親しくなった者には本当の自分を見せて接する
だが、紅羽と出くわしたのは偶然で、そのときは完全な他者だった
なのに、祐一はなぜ、彼女を助けたのか・・・・
その答えは軽い口調で返ってきた
「ん・・・・面白そうだったから」
「え?」
あっけらかんとした答えに間抜けな顔と返事で応じる紅羽
他の二人も似たような表情を浮かべている
「正直な話、紅羽を助けたわけじゃないぞ。後から助けようとは思ったけど・・・・最初は済し崩しに石蕗巌と戦えそうだったから出しゃばっただけだ」
完全に呆気にとられ、呆然とした表情となる紅羽
たった、それだけのことで石蕗宗主に喧嘩を売り、口論で負かせ、条件付だが撃退したのか?
紅羽はその表情のまま、志貴と和樹の方を向く
真偽を確かめるように
二人も祐一とは、紅羽とそう変わらない程度の関係だが・・
(多分、本当だと思います)
(信じられないって、思うだろうけど・・・・残念ながら)
その短い仲でもわからされてしまうのが祐一だ
三人はアイコンタクトで会話を成立させた
そして、さらに気付いたことが一つ
祐一はさっき出しゃばったと自分で、自分に向けて言った
出しゃばったとは、侮辱に含まれる言葉
つまりは確信犯
それをわかっていながら言ったとすれば・・・・
「底なしといったところかしら」
「「おそらく」」
ハモらざるを得ない心境の三人であったとさ・・・・まだ続くよ
「でも、祐一さん。石蕗の宗主に勝てるんですか?」
和樹が言い出しにくい質問をサラリと切り出した
志貴と紅羽が祐一に注目する
未だに大の字で休憩を取っている祐一はそのまま、和樹の質問に答える
「勝てない勝負はしない・・・・と、言いたいところだが今の戦力差を考えれば、勝率は低い」
いくら、祐一といえど、全力で戦うとなれば、3:7で負け
祐一とて、その年には不釣合いなほどの経験を積んではいる
その密度でならば石蕗巌どころか、冬治にすら勝り、祐羅にも劣らない
だが、人生とは深さ
ダラダラと浅く長く生きていてもその本当の価値は出ないが深く短くても出ない
密度と時間をかけてようやく出るものだ
祐一は密度が十分でも時間がまだまだ足りておらず、総合的に巌のそれには及ばない
だから、勝負するとすれば・・・・
「それ以外の勝因を探すしか手はない。それも俺に有って、あいつに無いもので、だ」
今から探すには時間がなさすぎるが・・・やらないよりはずっといい
そして、探すものは一つに限ったわけではなく・・・
祐一はその内の一つの存在をすでに知っており、狙いもつけていた
いや、巌が来る前・・・・祐羅との勝負に勝ったときから、だ
(今回は他人の為の戦い・・・・ソレに相手は石蕗巌・・・・絶好のチャンスだ)
内心ほくそ笑む祐一
だが、彼は気付いていない
そんな風に考えて得られる力など、大した役には立たないことに
そして、狙いをつけている力がそんな考えで手に入るわけがないということを
そのツケは彼自身が払うことになる
「はぁ〜〜〜〜〜・・・」
腕をダラ〜と下げ、完全に脱力した少年が一人
彼の名は神凪和麻
重く長いため息を吐きながら廊下を歩く
ため息と同じでその歩みは重く、鈍い
「気が重い」
和麻は子供部門の試合にエントリーされている
たった三人しか選ばれないので名誉なことではあるのだが和麻にとっては重荷
神凪の宗家でありながら炎が扱えない和麻
そんな彼にとって、試合など、自らの恥を曝す場でしかない
だからといって、辞退するわけにもいかない
「父上はなぜ、俺を選んだんだ?」
厳格と頑固が良く似合う父親を思い浮かべる
だが、厳馬の考えなど、わかるわけが無い
炎術至上主義『神凪』を人にしたらこんなのが出来上がる代表例が巌馬だ
腐敗した『神凪』の代表例は頼道だが
「はぁ・・・」
再度、ため息をつく和麻
(俺は・・・・ここにいるべきじゃないのかもしれないな)
ずっと思っていた言葉を心の中で口にする
神凪では炎こそが最重視される
もっと、言えば炎術以外の術は全て邪術と決め付けている連中
それが神凪一族
だからこそ、宗家の生まれでありながら、炎の精霊の声が聞こえないただ一人の少年
成績優秀スポーツ万能、一流の格闘士であり氣術師
一般家庭か『青山』『浦島』辺りで生まれれば、天才として扱われただろう不運の鬼才
ソレが、彼・・・神凪和麻だ
(『外』・・・・か)
神凪屋敷の『外』ではない
小さな箱庭たる『神凪』の『外』たる世界
和麻が今まで縛られてきた『神凪』からの解放を意味する『外』
幸か不幸か、和麻はある一点を除いけば、一人で生活することは可能だった
類まれな強靭な肉体
外の一般世界での経験すらも凌駕する知識
抜群の吸収力を持つ才能
なんら不自由をすることのない能力を和麻は備えていた
ただ、一点
(やっぱ、金だな・・・問題は)
実は和麻・・・小遣いは零だったりする
あの堅物の巌馬や和麻の存在を認知していない深雪が親では仕方ないのかもしれない
(この際だ・・・・・・早々に試合で負けて、金盗んで出て行くってのもありか)
なにやら物騒な計画を立て始める
おおまかに決めたのか、さっそく、準備のため自室へ向かおうとすると・・・
「よぉ、和麻」
その声が聞こえてきた
続く
Shadow
Moonより
諸事情により、すみませんが感想は後日……
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