ETERNAL PRISM
writeen by 佐藤こみのち

前回までのあらすじ

相沢祐一がこの町に来て半年。祐一は名雪と仲良くなっていた。
ある日、祐一を呼び出したのは天野美汐という少女
意味深なことを言う彼女は「まだ早かったようですね」と言って祐一の前から去る。
水瀬家に帰ると、なぜか姿を消していた真琴がいたのだった。

――7月16日 水曜日 午後5時31分 教室――

美坂香里は教室で黄昏ていた。

「あれ、香里。部活サボるって言ってなかった?わたしは今さっき終わったところだけど
三年生は今日は早く帰ることになっちゃってね。正式な引退も近いし」

教室に入って来たのは水瀬名雪。彼女は陸上部の部長を勤めている。

「まあ。ちょっと気が変わってね。今日は普通に部活に参加することにしたのよ。
さっき終わって教室に戻ってきたとこ」

「待っててくれたの?」

「ううん、ちょっと教室で休んでから帰ろうと考えてただけ」

ここで、別にあんたなんか待ってなんかないんだから!
みたいな感じの台詞を吐いたら面白かったかもしれないが、さすがにそれは無い。

「そう、何か元気ないみたいだけど、何かあったの?」

「名雪は相沢君と恋人どうしなのよね」

逆に質問された。しかもかなり突拍子もない質問だ。
相沢祐一との関係。祐一がこの町に引っ越してすぐには恋人関係でなかったが、いろいろあってそれは変化した。
最近は冷たい時も時々あるけど、春ごろはラブラブだったのは確かだった。

「う、うん……」

香里の頭に先ほどの光景、家庭教師の男が祐一にプレゼントする光景が浮かぶ、
もちろんあれだけの光景で判断してしまうのは早いと思うが、もし本当だったら……

「もしもの話だけど、相沢君が……
いや、名雪に話すことじゃないわね。こんなこと。なんでもない、忘れて」

苦笑いを浮かべながら言葉を切る香里。
どうして香里は言いかけて途中でやめたのか。いったい名雪に何を言おうとしたのか。
名雪はそれを考えて、一つの結論に思い至る。
……まさかこの親友、祐一に惚れてしまったんではあるまいな。
そうかもしれない。確かに祐一は時々かっこいいし、たまに優しいし、まれに頭いいし。
最近は特に香里と祐一の二人は気が合ってるような気がする。

「……香里、わたし、誰が誰を好きになってもそれは悪いことじゃないと思うんだ。
だから気にしないで。最後にどういう結果になっても、いつまでも友達でいようね」

「名雪……ありがとう……」

二人の間に若干の認識の違いはあるが、友情が深まったのは確かなようだった。


ETERNAL PRISM

第十五話 CATパラグラフ


 

――7月16日 水曜日 午後5時59分 水瀬家――

「だからー、商店街に行こうと、外を歩いていたら、突然頭がボーッとして、
気がついたら突然日差しが強くなっていて、
どうして春を通り越して夏になってんのよぉ、て思ったの」

「言いたいことは分かった。つまりお前は二重で記憶喪失になってるというわけだな。
最初のと、ここ半年のと」

説明をする真琴。祐一が聞きたかったのは水瀬家からいなくなってから半年どう過ごしていたのか
なのだが、その間のことも覚えてないらしい。

「そういうこと」

「そういうこと、じゃないだろ。そんな都合のいい話があるかよ」

そう言いながら祐一は真琴の正面に自分の顔の位置を合わせて……

「な、なによぅ……」

両手でほっぺをつねった。

「本当のことをいえー」

「なにふんのひょぅー」

手足をバタバタさせて逃げようとする真琴だったが、逃げることはできない。
暴れれば暴れるほど頬が痛くなるだけだった。
そして真琴はふと、祐一の両手がふさがっていることに気づいた。
そしてお返しだ、とばかりに今度は真琴が両手で祐一のほっぺをつねった。

「なにすんふぁ」

「おかえふぃよー」

それぞれ、『なにすんだ』『お返しよ』と言ってるらしい。
分かりにくいので以下、訳文を載せることとする。

「(俺はまだ半分の力しかだしてないぞ)」

「(真琴の勝ちね。真琴は三分の一の力)」

「(嘘言ってんじゃねーぞ。俺は実は四分の一だけど)」

「(本当は五分の一よぅ)」

「(言うことをコロコロ変えるんじゃない。俺は六分の一)」

わざわざ訳文にする価値がなかったと言えるほどアホなやり取りをしている二人であった。
このままだと数列は0に収束してしまう。

「ただいまー
……あれ、なにかさわがしくない?」

そこに登場したのが名雪。
部活が早く終わったので予定より早く帰ってきたのだった。

「「にゃ雪、ふぉかえりー」」

「あれっ、真琴。久しぶりだね。元気だった?」

この女、ひたすらのんきである。
いや、何気なく話しかけるのが最良だと判断した結果かもしれない。

「それにしても祐一ってモテモテだよねー」

「「違ふ!」」

名雪は真琴と祐一がじゃれあっている今の状況を見て言ったのだろうか。おそらくそうだろう。
だが実はそれ以外にも理由があるのだが、二人は気づかなかった。
と言うか気づきようが無い。真琴はもちろん、祐一でもだ。

名雪は鞄を置いて二人の近くに座った。
その結果、三角形を描くように三人が配置されることになる。 、
これはいつかやった、真琴、名雪、祐一の三人で輪を作って真琴、いや当時まだ名前すらわからなかった少女の
身元を探り出さそうとした状況と似ている。

「こいつ、半年間の記憶も飛んでるんだってよ。
もちろん最初の記憶も戻ってなく、な。都合よくここにいたときの記憶はあるらしいけどな」

「え、えっとじゃあ真琴、半年前の最後に覚えてることって何か教えてくれる?
半年後……最近の記憶の中で最初に覚えていることでもいいけど」

名雪が真琴にいい質問をした。
なるほど。確かにそれは手がかりになるかもしれない

「……覚えてない」

「んなわけないだろ。『覚えている中で最初なもの』を言えって言ってるのに」

確かにその質問の答えが『覚えてない』なのはおかしい。

「あ、猫。気がついて何か暑いなーって思ったとき、猫がこっち見てた」

「ねえねえ、その猫ってかわいかった?」

「名雪、それは関係ないから置いておこう」

猫の部分に食いつく名雪だったが、祐一がそれをやんわりと阻止した。
両手を使って、『置いておく』の仕草をしながら。

「半年の間どこかで生活してたのは確かだろうな。大体服装だって夏物になってるし……」

そこまで言って真琴に視線を移したとき、祐一は真琴のポケットに自分のハンドタオルがあるのを見つけた。
色あせた部分があって、それが記憶のなかにある自分のものの色あせ具合と一致する。
間違いなく俺のだ、祐一はそう思った。

「真琴、ポケットの中の俺のハンカチ、どこで見つけたんだ」

「そんなの知らないわよぅ。最初から入ってたの」

あの男は無くしたと言っていたが真琴が持っていた、どういうことだ?
ちょっとのことじゃ片付けきれない謎が祐一に残ったのだった。


――7月16日 水曜日 午後6時11分 ものみの丘――

夏至は過ぎているもののまだ夏まっさかりだ。なので午後六時を過ぎてもまだ明るい。
夏の昼の時間が長いのは、緯度が高いというのも理由の一つだろう。
川澄舞は一度帰った後、もう一度ものみの丘までやって来ていた。
今度は特に用事があったわけではない。ただ何となくだ。
結構思ったままに行動するタイプだ。

「にゃあ」

「猫さん……」

一匹の猫が舞に近づいてきた。
こんなところに居る猫は人間を避けるものが多いと思うが。
寄ってくるとは珍しい。
その耳と尻尾の茶色い猫をなでようと手を伸ばした瞬間、川澄舞は奇妙な感覚に襲われてしまう。

「あなたはなにもの?」

心の中だけでなく、思わず声に出してしまったのも不思議ではない。
その奇妙な感覚は自分が昔に戻っていくような感覚。
完全に消えたと思っていた不思議な力が再び内側から沸いてくるような感覚だったからだ。

つづく


あとがき&次回予告


北川「佐藤こみのちの短編北川SS、『四月の風』公開中。よろしくな。」
香里「いきなり宣伝とはいい根性ね。まあいいけど」
北川「じつはこのSS、俺の誕生日4月18日に公開されてるんだよな。」
香里「あれ、本当ね。これ誕生日記念SSだったんだ」
北川「そうじゃないんだよな。いろんな偶然が重なって公開日が俺の誕生日になっただけさ。」
香里「ふーん、そう」
北川「ここでお便り紹介 ハンドルネーム JIEN砂糖さんから
 『14話で、身長159センチの柊明美さんのことを、身長159センチの佐祐理さんより
 少し低いくらいって書いているんですけど、何故ですか。祐一はミリ単位の違いが分かったのですか?』」
佐藤こみのち「ごめんなさい、完全な間違いです。なんで身長思い違えてたんだろう……」
香里「実際よりも身長が高く見える人とかその逆とか、いるじゃない。
 きっとそういうことだったのよ。あれ? 北川君は?」
北川「お待たせ。見慣れない部外者追い出してきた。物騒だね最近。」
佐藤「俺は作し……」
香里「さて今回も次回予告いきましょう。 次回は第十六話『青いハンカチ』ね。美汐に再び話を聞く気になる祐一
 そのきっかけはいったい何? そろそろこのシリーズの折り返し地点?」
北川「感想、質問、リクエスト、苦情、その他あったらお便りください
 そうだ、前回このコーナーに出そびれて言えなかったけど俺6月生まれじゃないから。あしからず」
香里「わざわざ言わなくてもちょっと上を見れば分かるわよ」
二人「それではまた次回!」

Shadow Moonより

諸事情により、すみませんが感想は後日……


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