前回までのあらすじ 祐一が手紙もらった。
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注)この話以降、真琴シナリオの決定的ネタバレ含みます。
相沢祐一様 話したいことがあります。今日午後5時に地図に書かれたこの場所に来てください
(地図省略)
文面はこれだけの素っ気無い手紙。
祐一はこれを見てとりあえずこれはラブレターではないことくらいは気付いていた
のだが、香里にあのような態度をとったのはからかってみたかったということだろう。
――7月16日 水曜日 午後4時54分 ものみの丘――
「ちょっと早かったかな」
待ち合わせの地図の場所、そこへ来る途中で祐一はその場所がものみの丘と呼ばれていることを思い出してきた。
どうしてこの手紙の出し主はこんなところを待ち合わせ場所にしたのだろうか。
少なくとも悪戯ではない。と思う。
もし悪戯なら、誰かが俺をイタズラではめようとするとしたら
『相沢祐一様。
ずっと前から貴方のことを見ていました。
貴方が私の傍を通り過ぎるたびに、私の胸の鼓動は落ち着かなくなります。
お風呂でも、ベッドの中でも貴方の顔が私のまぶたの裏に浮かんでくるのです。
貴方が好きです。私と付き合ってください。
あ、ちなみに私は周りからミスマジンガの星井美希似で可愛いと言われてるスタイル抜群の女の子です。』
まあこのあたりの文面にするだろう。
というか、俺が北川あたりにするとしたらこのあたり
いや、さすがにこの文面じゃバレバレか。特に最後らへん。
まさか決闘の申し込みか?
いや、わざわざ俺を呼び出すのに手間をかける理由がない。
俺を倒して一体どんな名誉が得られるというのだ……
それに明らかに女の子の書く文字だったしな
「あー、祐一さんだ。舞の言った通りだねー」
思考にふける祐一に甲高い声が浴びせられた。
振り返ると、天使のような満面の笑顔で倉田佐祐理が立っていた。
その横には佐祐理とは対照的な無表情で川澄舞が立っている。
「佐祐理さん、それに舞。
……ってことは二人だったのか? この手紙くれたの」
「はい? 手紙ってどういうことですか?」
どうやら祐一と二人がここで出会ったのは偶然らしい。今日はこの手の偶然が多いなと思う祐一。
放課後、昇降口で香里と出会ったのを入れれば3つか。
「あ、違ってたなら何でもない。
どう? 二人での新生活は?」
祐一は話題を切り替え、4日前から始まった舞と佐祐理の二人暮しが順調かどうか
聞くことにした。引越しは祐一も手伝ったので、うまくいっているかどうかは気になるに決まっている。
「はい。とっても楽しいですよー
昨日なんか舞がお弁当を作ってくれたんですよ」
「どんなのだった?」
「すっごく美味しかったです。
2段のお弁当箱だったんですけど、下の段全部リンゴで出来たウサギさんだったんです」
「ぷぷっ」
「笑うな……」
祐一のオデコにチョップを入れて抗議する舞
「一匹だとかわいそうだと思った。」
舞らしい答えだ。
こいつはクールな振りして時々こういうことを言うから困る。
「確かに、兎は寂しいと死ぬってよく言うからな
リンゴが寂しいと死ぬってのは聞かないけど。
そうかー、弁当箱下半分がウサギでできたリンゴかー」
「あははー、逆ですよー」
「そりゃそうだ。あ、ところで何でこんな所に? こんな所……」
言いかけた祐一の後ろから今度は聞き覚えのない一人の女性の声がした。
「ちょっと二人とも、いきなりいなくなったからびっくりするじゃない!
って誰よこの男? 高校生っぽいけど」
祐一が振り向くと、ショートカットのボーイッシュで元気そうな女の子が立っていた。
背丈は佐祐理より少し低いくらい、女の子としては大体平均的か。
スタイルは5段階評価で4つ星と4分の一くらい?
「いやこっちこそあんた誰だよ……」
突っ込みとも普通の会話とも思える返しをする祐一。
「あたしは柊明美。よろしく。下の名前で呼んでくれてかまわないよ。
この二人とは……うん。友達かな。同級生の」
「俺は北川潤。6月生まれだから潤と名付けられたんだ。よろしくな」
ふざける祐一のこめかみの辺りにチョップする舞。
「ふざけすぎ……」
「……嘘です。華音高3年の相沢祐一」
「ああ。あの祐一くんね。二人から話は聞いてるよ。三枚目だと思ってたけど
結構かっこいいじゃない。あ、三枚目だと思ってたのはあたしが勝手に思ってただけで
二人が悪口言ってたわけじゃないからね。
むしろいい話しか聞いてないから。気にしないで」
「まあ、俺のことを話で聞く人は悪人顔と解釈したり
校内一の美男子だと解釈したり幅が広いからね。気にはしないかな。
ところで明美さんと二人はいつからの知り合い? やっぱ今年から?」
柊明美は初めて会う祐一にも、かなり親しげな調子で話しかける。
祐一も悪い気はしていない。話しやすい相手だと思ったらしく口が軽くなっている。
「うんそう、購買でプリンの取り合いになってね」
……また情けない出会いだな。
「明美さんと佐祐理さんが?
冗談冗談。舞に決まってるよな」
「またまたぁ、あたしだってそんな佐祐理見てみたいって!」
そう言いながら祐一の背中をバンと叩く明美。
その威力は舞の突っ込みのチョップとは比べ物にならないくらい強い。
(喧嘩したら負けそうだなこりゃ……)
「明美なんだよねー。佐祐理と舞に同居するように勧めたのって」
それまでずっと笑顔のまま黙っていた佐祐理が背中を気にする祐一に向かって言った。
なるほど中途半端な時期に引越しするなと思ったがそういうことか、と祐一は納得した。
「そうだ、なんで舞たちはこんなとこに?」
祐一はさっき聞こうとして強制中断されたことを聞くことにした。
こんなところで偶然会うなんて不自然すぎだろ、と思ったからだ。
その質問は舞らから祐一に対しても成り立つのだが、聞き返さずにちゃんと答えてくれた。
細かいことを気にしないのは3人とも似たり寄ったりなのだろう。
「うん。あたし達課題で地域の民間伝承に関するレポート書くハメになっちゃってね。取材ってこと」
「明美さんについては知らないけど、舞とさゆりさんは学部が違ってたよな。
同じ授業受けることもあるのか?」
「ああ、そういうこともあるよ。ちなみに私は教育学部ね。
選択科目なんだけど、災禍を招くという妖狐の伝説を調べてみようってことに決定して
とりあえずその狐が居ると言われているものみの丘に来てみたってわけ」
「ふーん……」
「でももう帰ろうと思ってたんだよ。あんまり面白そうな物もないしさ
あれ?舞ちゃんどうしたの」
舞は丘から繋がる坂道の一つの下流方向に目を向けていた。
何らかの気配を感じ取ったのかもしれない。
「……何でもない」
――7月16日 水曜日 午後5時09分 ものみの丘――
三人が離れるとすぐに、手紙を出したらしき人物が現れた。
先ほど、舞が気にしていた方向からだ。
タイミング的に考えて、三人が居なくなるのを待っていた可能性が高い。
その人物は女性。制服を見る限りでは祐一と同じ学校の一つ下の後輩だ。
物静かな様子で立ち尽くしている。というより無愛想なだけか?
「……」
「あ、今度こそ君だよね。手紙くれたの」
女性はコクリとうなずいた。
「えっと。とりあえず名前聞かせてもらえるかな。
あ、俺は相沢祐一」
「……天野美汐です」
無駄な要素の一切ない簡単な自己紹介の後祐一の頭に一つ、ピンと来るものがあった。
「ああ、そういえばたしか会ったことがあったよな」
「覚えてましたか」
まだ無愛想だ。会ったことがあると言われると良い心情を持っておかしくないのだが。
「五月祭りで神社前広場に出店がいっぱい出てたとき見たんだけど、
神社で巫女さんやってたよね。アルバイト?」
「……そっちですか……」
もっと最近(12話あたり)会っているのだが、祐一は気づいていないらしい。
流石12時間で人の顔を忘れる特技がある男。それにしてはなんかおかしくないか?
「で、何かな? 話したいことって」
「……」
答えない。話しにくいことなのだろうか。
でも、わざわざ呼び出したと言うことは重要なことに違いないのだが
少しの間の後、美汐はほとんど抑揚を付けずに話し始めた。
「あなたは今、水瀬秋子という方の家に居候していますね?」
「あ、ああ(まあ、それは結構有名だ)」
「その家にはもう一人居候が居た筈です。そうですね?
「ま、まあ(俺のことを詳しく調べてあるな)」
「沢渡真琴と名乗る女の子ですね?」
「う、うん(なぜそこまで調べる)」
「貴方は七年前、ここで一匹の小狐を拾いましたね?」
「話が飛んでるぞ」
「飛んでるように感じますか?」
確かに祐一には昔ここで怪我した子狐を拾って、治るまで世話をした記憶があった。
でもそれは記憶の奥に封印はされてなくても取り出しにくい位置に置いてあったもの。
もちろん誰にもそのことは言ってない。
『調べる』と言う行為でわかることじゃないのだ。
美汐ははいかいいえで答えられる質問を繰り返しただけなのだが、祐一は背筋が寒くなるのを感じた。
このままじゃ日が暮れるかもしれない。祐一は話を先に進めようとした。
「結論を言って、それから詳細を追加するというやり方で話してくれ
結論がどんなものでも驚かないから」
「その狐が真琴なのです」
「なんだって!」
瞳孔を大きく開いて驚く祐一
もし彼が結論を先にするレトリックを勧めず、ゆっくり時間をかけて話を聞いていたら
違う反応をみせたかもしれない。
その場合、心当たりがいくらか出てきただろうから。
ここは祐一の言うことを素直に聞いた美汐の失敗と言うことが出来るだろう。
しばらくの間、というのは祐一の感覚で実際には1秒ほどだったのだが
双方停止したまま立ち尽くしていた。
先に短い沈黙を破ったのは美汐だった。
「まだ早かったようです。」
そう言って美汐は歩き出した。もう用は無いと言いたいのだろう。少なくとも今日のところは
「ちょ、ちょっとなんだ? どういう意味だ?」
まだ早かった、とはどういう意味だろうか。おそらく話すのが早かった、
と言いたい所まではわかるが。何と比べて早かったのか?
むしろ遅かったと言うならわからなくもないが……
祐一がそこまで考えたところで美汐の後姿が曲がり角に差し掛かって消えた。
――7月16日 水曜日 午後5時48分 水瀬家――
あまりの事にボーっとしたまま祐一は家路に着くことになった。
ちょっと遅くなったので、もしかしたら先に名雪が帰っているかもしれない。
そう思いながら家のドアを開けた。今日は早く風呂にでも入って落ち着こう。
「祐一お帰りー」
「……」
「祐一遊ぼー」
「……」
「な、何変な顔してんのよ。元から変な顔なのに」
「……」
「あうー……無視するとかやっぱり祐一は意地悪なんだから。
日が沈むまで覚えてなさいよぅ。仕返ししてやるんだから」
「なんで真琴がいるんだよ! 記憶はどうなったんだよ!
それよりこの半年どうしてたんだ! 狐って何?」
「うるさーい。久しぶりの再会なんだからちょっとはよろこべー」
水瀬家に帰った祐一を迎えたのはどういうわけか沢渡真琴だった。
先ほどの美汐の話の影響もあり、混乱する祐一であった。
つづく
あとがき&次回予告
名前:柊明美(ひいらぎあけみ) | |||||
性別:女 身長:159cm 誕生日:8月17日 血液型:B 年齢:18歳 | |||||
Prismaticallization ヒロインの一人 | |||||
家にいるより、外に出ている方を選ぶボーイッシュな元気っ子。
両親が教師のため、勉強もそれなりにできる。 この物語では舞、佐祐理の大学での友達として登場する。 好きなものは食う寝る遊ぶ。趣味は自己鍛錬。 射場荘司とは幼馴染。凶暴。 |
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知力 | 鋭さ | 運動神経 | 力 | 度胸 | カリスマ性 |
5 | 4 | 5 | 3 | 5 | 4 |
Shadow
Moonより
諸事情により、すみませんが感想は後日……
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