ETERNAL PRISM
writeen by 佐藤こみのち

前回までのあらすじ

名雪エンド後、祐一が転校してきて半年が過ぎた夏。
いい言葉で言えば落ち着いてきている、悪い言葉で言えば冷めてきている状況であった。
月宮あゆとの二度目の再開、七夕の日の不思議な出来事、舞の引越しなどのイベントがあり、
夏休みまであと少しだ。



――7月15日 火曜日 6時間目 教室――

「で、あるからして……」

教師がお決まりの台詞を言っている時、お決まりのようにチャイムの音が鳴った。
キーンコーンカーンコーンと。

「チャイムの音か。皆。サッカーというスポーツを知っているか?」

生徒たちは先生が何を言いたいのか分からなかった。ただ、嫌な予感はした。

「言いたいこと。それは……
ロスタイムはサッカーだけにあるのではない。授業続行!」

最悪だぁ……


ETERNAL PRISM

第十一話 苺戦争(前編)


「石橋の野郎、授業6分も長引かせやがって」

「ホームルーム担当が自分だからって勝手だよな」

北川、祐一の男二人組は理不尽な延長に憤りを感じていた。
もちろん、気に入らないのはクラスのほとんどが同じであった。

「うー、これじゃあ部活に間に合わないよー」

「間に合うわよ。その分ホームルームは短かったんだから」

「あ、そうか。いつもよりは遅いからてっきり……
それじゃあわたしはお先に行くね。バイバイみんな。」

そう言って水瀬名雪は教室から出て行った。

(さてと、俺も帰るとするかな。今日は商店街にでも寄って帰ろうか。
いや、特に買いたい物とかは無いんだけどな)

祐一がそう思い、立ち上がり、教室の出口まで歩いていこうとした時のことだった。

「相沢先輩」

腰まで届くくらいの長いツインテール、スタイルのいい女の子が祐一に話しかけた。
服装はこの学校指定の体操服だ。運動部の部活前の時間帯だからだろう。

「あんた、誰だったっけ?」

「誰って。よく知ってるじゃないですか。
相沢先輩記憶喪失の気があるって人から言われません?」

「いや、確かに君の名前は知ってるんだけど、ここで聞いておかないと
いろいろと都合が悪そうな気がして。なんとなく」初登場のしかもオリキャラだし

時折微妙なギャグ?を言う先輩にここは従っておこう、
と思いその女の子は素直に名前を言った。

「ノリコです。陸上部2年のノリコ。この前次期キャプテンに正式に決まりました」

陸上部2年徳島範子(とくしま のりこ)。その陸上の実力は全学年をあわせてもトップの期待の大エースだ。
女子陸上部では長距離でも短距離でも彼女に敵う者はおらず(長距離のみ名雪が対抗できるが)、
次期キャプテンにはほとんど決定していたのだが、
正式に決まったのは先週の土曜日に行われた陸上部会議、というわけだ。

「オッケーオッケー。名前聞いておきたい気分だったんだ。
名雪とすれ違わなかったのか? ノリコちゃんが来る直前に出て行ったんだが」

「お姉さまには見つかりたくなかったですから。
お姉さまが部活に行くのを見届けて教室に入ったんです」

「ふーん。で、何の用だ? 名雪に聞かれたくない話なのか?」

「そうです。お姉さまの様子が最近おかしいんです。心当たり無いですか?」

ノリコは名雪のことをお姉さまと呼んでいた。
もちろん名雪の妹というわけではない。
名雪のことを慕うあまりお姉さまと呼んでいるのだ。おいおい。

「様子がおかしいって、休憩時間に突然眠ってしまうとか、立ったまま突然眠るとか……」

「違います。そんなのいつものことじゃないですか」

「天然ボケしてるとか、考えがズレてるとか」

「それもいつものことじゃないですか」

(いつものことって……本当に慕ってるのか?)

自分で言ったことを肯定されただけなのに、ちょっと心配になる祐一だった。

「何ボソボソ言ってるんですか。まずは一週間前のことです」


――7月8日 火曜日 6時間目後 陸上部部室――

ノリコ「お姉さま、今日はご機嫌ですね」

名雪「そんなことないよー
 昨日夜更かししちゃったから朝どうしても起きられなくって
 遅刻して怒られて大変だったんだから♪
 あの先生授業中なのもお構いなくお説教長いからいやなんだよね♪
 そのうえ祐一と香里には酷いこと言われるし♪

ノリコ(嫌な話題をうれしそうにするってめちゃご機嫌そうだぁー)


「あーなるほど。確かその日は……」

「ここまではいいのです。問題はここ最近なんです」


――7月14日 月曜日 6時間目後 陸上部部室――

ノリコ「お姉さま、最近どんよりしてますよ……
 この前はごきげんだったのに」

名雪「そんなことないよ……
 帰ってきた模擬試験が今までで一番の出来だったし……
 今日はからっとしてて寝るのにはちょうどいい天気だし……
 祐一が今日の名雪はなぜか可愛いって言ってくれたし……」

ノリコ(いい話題を落ち込みながらするってめちゃ憂鬱そうだぁー)


「で、もしかしてそれは俺が何かしたせいかも。
そう思って俺のところに来たんだな」

「そうです。お姉さまを譲ったんですからお姉さまを悲しませるようなことはさせません。
前にそういったはずです。」

「俺の周りにはどうしてビアンだのローリーだのの類が多いんだ……」

「ヒトを変態みたいに言わないでください。
好きになったのがたまたまお姉さまだっただけのことです。
その証拠にお姉さま以外の女の人を好きになったことはありません。」

「ああそう……」

陸上の成績は全国レベル。校内でも校外でもかなりの成果をあげている。容姿もかなり整っていてプロポーションもグッドな彼女だが、
男子からはこの趣味さえなければ……と思われている。

(たしかこいつ、去年の華音高校総合人気投票では八位だったっけ。
もしこの趣味がなければ名雪の順位くらいは追い越せただろうな。佐祐理さんの順位までは……無理かもしれないけど。)

「話を元に戻しますよ。分かりますか? 原因」

「確実にいえるのは、二番目の不機嫌の原因は俺にはない、ということだ」

「そうですか……」

「……だが、俺を見くびるなよ。見当はついている。」

「ほ、本当ですか?」

頼もしく言う祐一
そう言いながら壁にもたれかかりかっこつけた様なポーズを作る。
それは似合ってないと思うノリコであった。

「先週の木曜日、Aランチにイチゴのデザートが付かなかったんだ。
次の日も付いてなかった、週明けになってもまだ付いてないままだった。名雪の不機嫌の原因はこれだ」

普通ならそんな馬鹿な、それだけのことでと思う所かもしれない。

「たしかにそれではお姉さま落ち込みますよね」

「だろ。まあそれだけだろうし、ほうっておけばいいでしょ」

どうやら祐一は名雪の様子を深刻には受け止めていないらしい。
たしかにそれはその通りで、むしろ自分の方が悩みすぎだったのかもしれない。
部活が始まって1000メートルを何セットか走った後は晴れやかで、ドキッとさせる笑顔をこっちに向けたのだし。
そう思うノリコだった。

だが、一つの事項を思い出し、考えを元に戻すことになる。

「そういえば聞いたことがあります。今、生徒会が学食改造計画というものをやってるらしいのです」

「何だそれは?」

「私も良くわからないんですけど、例えば生徒の要望が多いメニューを加えたり、
人気のないメニューを外したりするんじゃないですかね。それとランチメニューの内容も考え直したり。
Aランチにイチゴのムースが付かなかったのは多分それと関係があるんですよ。」

「できるのか生徒会に?」

「生徒会は学食の材料の仕入先を決める事にも口を挟めるんですよ。
それと購買のジュースやアイスの仕入先も。
だからやり様によっては仕入先から賄賂を受け取ったりもできる、
いや、噂では実際それをやってるという話です。」

この学校の購買で売れた商品は他のコンビニなどの店でも売れるようになる、
そういうデータが実際にあるのだった。

「というわけで生徒会室に殴りこみに行って来ます」

殴りこみにというのはさすがに冗談だが。

「ちょっと落ち着け特のり弁当」

名前をもじって変なあだ名をつける、ちょっとムッとする先輩だ。

「と、特のり弁当ってそんな……
生徒会といえば他にもあるんです。
全体的に大会の成績が大幅に上がったのに部費が上がらなかったから文句を言いに言った時のことなんですけど」

「ああ、確か名雪はインターハイの一つ前の大会まで行ったんだよな」

「『お宅の部長、彼氏とイチャイチャしてなければインターハイまで行けたんじゃないか?』なんて言うんですよ。
何も知らないで。このブロックは3000メートル記録全国トップ4が3人いる激戦区なんです。
いくらお姉さまがこの界隈で注目されてる期待の星でも駄目な時もあるんです」

それを聞き、今までどーでもいいという態度だった祐一の顔が変わった。

「それはひどいな。俺が一番知っているんだ。名雪が陸上を疎かにしなかったのは」

「で、ですよね」

「よし、殴りこみに行くなら一緒についていってやる。
……それに、この学校の生徒会長を一目見ておくのもいいかもしれないしな」


――7月15日 火曜日 放課後 生徒会室――

「失礼します」

「入りたまえ」

祐一とノリコは引き戸をガラガラとあけて生徒会室の中に入った。

生徒会室には真ん中に7つの机。先生が使うような職員室にある金属製の机だ。
2個ずつ向かい合わせにしてくっつけられている。
もちろん奇数個なので一つだけ90度回転させてくっつけられているが。

真ん中の机に、名称は忘れたが「生徒会長」と書いてある横から見ると三角形の置物が置かれていて、
その席には眼鏡の男子生徒が座っていた。
そして、一つ挟んだ席でなにやら日誌のようなものを書いている女子生徒。
生徒会室にはその二人がいた。

一番最初に口を開いたのは意外にも祐一だった。
生徒会長の机の椅子に座っている男子生徒に向かって話しかけたのだ。

「あんたが生徒会長か」

「だったら何だ? 用件を言いたまえ」

会長席に座った男は人差し指で眼鏡のブリッジ部分を触り、ずれを調節する仕草をした。
こころなしかその眼鏡が光った気がした。

「まあ、たいしたことじゃないさ。学食改造計画のことなんだがな」

「ふむ。」

「メニューの再構成は公平に行われているといえるのか?」

「ふん。僕が君にそれを説明する義務があるとでも言うのかね」

「……なんだと」

顎の下で指を組み、鋭く凍るような冷たい目つきで祐一を見上げる。
その全ての不必要なものを排除する、と言いたげな冷酷な目つきに横から見ていたノリコですらゾクリとした。

祐一はその挑発的な台詞に乗ってしまったようだが、
その表情はこの状況を楽しんでいるといえるかもしれない。つまり余裕が感じられる。
結構頼りになりそうだと思うノリコであった。

「……おもしろいこと言うなあ。生徒会長」

「今忙しいんだ。言いたいことは文書で提出してくれれば後で読んでやる。
返事はいずれ返すさ。もっとも、いつ返すかの指定はしないがな」

男と祐一の会話はしばらく続いた。
ノリコは聞いていて、だんだん会長席の男の嫌味な態度に腹が立ってきた。
自分が手っ取り早く言いたいことを言ってしまおうとして、口を開きかけたその時だった。

「失礼しまーす」

そう言って引き戸を開けたのはノリコにとってはやや既知。祐一にとって既知の人物だった。
声の調子から考えると生徒会室に入り慣れているようだ。

「相沢君じゃない、何してるのこんな所で。
ノリコちゃんまで」

祐一と同じクラスの美坂香里だ。そっちこそこんなところで何しているのか聞きたいが、
とりあえずそれは置いておくことにした祐一。

「いや、この生徒会長がさ」

「その人、生徒会長じゃないわよ」

「「へ?」」

どういうことか分からず、動きと言葉が止まるノリコと祐一。

その時、生徒会長席に座って指を顎の下で組んでいた男がその指を崩し、急に立ち上がった。
そして厚い眼鏡をおもむろに外した。
そして急に軽い調子になり、こう言ったのだった。

「どーもども。僕は華音高校生徒会副会長。そして次期生徒会長最有力候補。って自分で言うなよ。
十文字聖(じゅうもんじあきら)よろよろしくー。
ちなみに騙したわけじゃないよ。僕が生徒会長だなんて一言も言ってないから」

「全てにおいてまぎらわしいな!」

「あ、僕が会長の席に座って会長のスペア眼鏡勝手に借りたことは内緒にしててね。
久瀬の奴怒るからさー、はっはっは」

その副会長はもう一人の生徒会役員らしき女子生徒に笑いながらそう言った。

つづく


あとがき&次回予告


祐一「さて今回このコーナーではこのSSに対する質問のメールに答えていきまーす」
北川「イエーイ」
祐一「……予定でしたが、一通も質問のメールが来ていないので中止でーす」
北川「って一通もかよ! まぁ作者がずぼらだからな」
祐一「ま、まあ気を取り直して今回の話について話そうか」
北川「100%オリジナルキャラが登場してるな。しかも二人もいっぺんに」
 実質オリキャラっていうのは何人かいたけど完全オリは初めてなんだよな」
祐一「俺の親父とか哲学の教授とか百花屋のマスターは?」
北川「それは入れねーよ」
祐一「ここでトリビア。親父と教授は名前の設定が作ってあるけどマスターは作ってない」
北川「どーでもいいよ。じゃあノリコちゃんのデータ表載せますか」

通称:ノリコ 本名:徳島範子(とくしまのりこ)
性別:女 身長:165cm 誕生日:11月20日 3サイズ:85,57,83 血液型:AB
オリジナル
名雪に憧れて陸上部に入り、名雪をお姉さまと呼ぶ百合っ娘。
容姿もプロポーションもバッチリのある意味完璧人間。
名雪自身は基本は慕ってくれて嬉しいが、時々ちょっと迷惑とも思っている。
実は10年に一度の逸材と呼ばれている大天才。
特に得意なのは1500メートルで、インターハイ全国に出場決定している。
知力鋭さ運動神経度胸カリスマ性


祐一「副会長については次回かな。というわけで次回予告
 次回は第十二話『苺戦争(後編)』Aランチのイチゴムースの運命やいかに。
 そして久瀬がようやく初登場! しなくていいのに!」
北川「あいつこのコーナーには一回登場したんだよな。なぜか。
 感想、苦情、駄目出し、なんか書いてほしい要望があったらメールくれよな」
二人「次回お楽しみに!」

Shadow Moonより

諸事情により、すみませんが感想は後日……


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