ETERNAL PRISM
writeen by 佐藤こみのち

――7月8日 火曜日 午前7時30分 水瀬家――

俺は電話で射場と話している。

「何だ?その気になることって」

俺は気になることがあると言う射場にそれが何かを聞いた。

「一年前、俺が循環の中心だったとき、まあ詳しいことは省略するが、様々な偶然が重なった結果、循環が発生したんだ。
しかし今回は一人の少女の願いで循環が発生した。確定ではないが。」

「……それほど思いの力が強かったってことじゃないか?よく解らないけど」

「それならいいが、例えばこのオブジェの持つ力が外に現れ易くなっている、という事なら困る」

「たしかに何度もこんな目にあったら困るな。だがこの段階じゃまだ何とも言えないだろ」

「……そうだな」

「じゃ、家の電話使ってるから切るぞ。
……そうだ。あんたとはまた会えそうな気がするよ。いつか」

根拠はないがそう思った。勘は特別いい方ではないが悪い方でもないのだ。

「ふむ。俺もだ」

「何ヶ月……いや、何年後になるか、それはわからないが。な。」

「そうだな」

俺は受話器を置き、電話を切った。

あの鉱石は一体何だったんだろうか……
どうして時間を循環させるのだろうか……
半年弱会えなかったあゆと遇えたのは……さすがにこの事とは関係あるわけないか。時間がずれてるし。
さまざまな疑問が残ってしまった。
だから携帯電話をテーブルに置いた射場の奴が秋子さんの謎ジャムをトーストにつけて食べようとしていることなどどうでもよかった。

「……って、ジャムはともかく、何でお前がここにいるんだよ!」

思わず突っ込みを入れる。
さっき電話していた相手が目の前にいれば普通驚くぞ。

「家庭教師」

「はあ?」

「祐一さん、コレを見てください。今朝届いていたものですが」

訳がわからない俺に、秋子さんが横から手紙を差し出してきた。俺は読んでみる。
突っ込みどころ満載であるが、突っ込まずに一気に読むことにする。

『わが息子。元気でいるか? 街には慣れたか? 友だちできたか? 寂しかないか? お金はあるか?
父さんと母さんは元気だぞ。え? 俺も元気だって? そうだと思ったよ。ならいいぞ。
ところでお前2年の頃と比べて成績が落ちてるじゃないか。
お前の学校のコンピューターをこっそり覗いて見て判ったんだけどな。
これじゃあハーバード大に合格できないぞ。え? 行く気がないだって? そうだと思ったよ。
とにかくそこでお前に家庭教師をつけることにしたぞ。父さんの親戚で知り合いだ。秋子さんとはもう話をして了承は貰ってるぞ。もちろん一秒でな。
大学生でお前と年齢が近いから気が合うと思うぞ。
え? できれば女の子がいいだって? そう言うと思ったよ。
でも残念、男でーす。ついでに名雪ちゃんにも教えることになってるから。
だから名雪ちゃん取られない様にしろよ。そんじゃ夏休みに会いに行くから。グッバイ、サウザー。
父より』

俺はこのロサンゼルスからはるばるやって来たふざけた手紙をゴミ箱に入れた。大した内容じゃなかったし。
たしかにあの親父なら学校のパソコンやテスト主催の予備校のパソコンに侵入してデータを見るくらい朝飯前どころか朝歯磨き前、
いや、朝目を開ける前くらいかもしれない。
自称世界で三本の指に入るハッカーだしな。これは過大評価だと思うが。

「事情はわかったけど、なんでこんな時間に来てるんだ? 家庭教師は放課後だけ来ればいいはずじゃないのか?」

「カリキュラム等の相談に都合のいい時間帯が今日の早朝だけだったんだ。契約が明後日からになってるしな。
親父さんは俺に電話したその日から始めて欲しいと言っていたが、さすがにそれは無理だ。
……それにしても祐一君だったとはな。相沢という苗字だからもしかしたらと思っていたが」

明日から。なんだそりゃ幾らなんでも急すぎるぞ。あのくそ親父。
今度秋子さん特製のわけが解らない味の超珍味、謎ジャムを送りつけてやる。
兵器として検閲に引っかからなければいいが。
……いや、親父ならジャムのこと知っているか?

「秋子さん、このジャムおいしいですね」

「このジャムをはっきりおいしいといってくれたのはあなたで二人目ですよ。みんなお茶を濁すばかりで……」

俺は家庭教師としてやって来る予定だった射場と循環の環の中で出会った。
これは単なる偶然でいいのだろうか?
コレも例のオブジェの力じゃないのか?
そういう力があるとは聞いてないが、あってもおかしくないくらい不思議なオブジェ。
全てが謎自然にできたものか、人工的に作られたものかもわからない謎のオブジェ。
一体……

ん? ちょっと待った。さっき射場の奴何て言った? 秋子さんはなんて言った?

その時、オブジェに対する疑問は、射場の言葉への驚きと秋子さんの言葉への疑問によりかき消されてしまった。

あの不可思議で奇想天外の味のジャムがおいしいなんてなんてやつだ、この男は! 味覚がおかしいのか?
あとさっき秋子さん二人目って言ったよな。一人目って誰だ?
聞いてもいい事なのか? 謎だぁー。
数秒後には、俺の心の中からオブジェに関する疑問はきれいさっぱり消え去っていたのである。


ETERNAL PRISM

第八話 三万分の一


Q:そばとうどん、好きなのはどっち?

祐一(俺はうどんだ。)
荘司(ふむ、そばの方が好みだな。)
名雪(私はどっちかというとうどんかな……)
香里(特にどっちが好きというのはないわね。ここは一応そばで。)
みゆ(……)

Q:夏と冬、どっちが好き?

荘司(どっちも好きではないが、どちらかというと夏か。)
名雪(景色もきれいだし、冬の方がいいよ。)
祐一(そうだな。今となっては……)
みゆ(……)

Q:犬と猫、好きなのは?

名雪(ねこー ねこー。)
祐一(名雪には悪いが・・・、俺犬派だ。)
荘司(俺はどっちかというと猫か。)

Q:甘いものと辛いもの、好きなのは?

祐一(……甘いもの、好きじゃない。)
荘司(糖分は脳の活動に必要不可欠だからな。)




「これは結構面白い結果が出たわね」

美坂香里は手に持った五枚の解答用紙とその結果が書かれた紙、
そしてこの場にいる残り4人の顔を見回し、ちょっと笑った。

とりあえずなぜこの5人がこの場所にいるのか一応説明しておく。
祐一も秋子さんも名雪に、家庭教師が始まることを伝えそびれていた。
どうやら祐一は秋子さんが、秋子さんは祐一が伝えていると思っていたらしい。おいおい。
まあそれで部活が休みの名雪が香里と一緒に遊ぼうと家に連れてきてしまったわけだ。
そして秋子さんがたまたま(?)家の前を歩いていたみゆを特に理由もなく招き入れた結果、この五人が集まってしまったのだ。
そして、雑誌の付録か何かだろうか。皆で相性二択ゲームとなったわけである。

「ね、香里、私と祐一の結果はどうだった?」

「15問中6問一致。あまりいい成績じゃないわね」

名雪は不満な顔を浮かべた。それに対し射場荘司がフォローを入れる。

「6は古代ギリシャでは愛の数字だと言われている。女性を表す2と男性を表す3を掛けた数だからだが。
それを考えるといい結果と言える」

本当は、たった15問の質問で相性が判るわけないと言いたいが、興を削がれたと言われるのが恐いので適当に話を合わせている。

「うーん。納得がいかないよー」

「ちなみに私と相沢君は7問一致。名雪とは8問一致。みゆちゃんとは9問、射場さんとは8問ね」

「で、面白い結果ってのはどこなんだ? 十問以上一致した二人がいたのか?」

祐一は聞く。今までの話だとだいたいみんな平均近く合ってることになるが。

「相沢君と射場さんの回答結果なんだけど、見事0問一致。文句なしに相性は最悪ね」

「え、本当に全部違ったのか?」

「そう、一問も合ってなかったのよね」

「ぐはっ、15問の2択を全部外すとは、一パーセントも無いんじゃないか、こりゃ」

「三万分の一未満だ。2の十乗が約1000だと知ってれば簡単な暗算で出せる。
一パーセントも無いとかそんな事言ってる次元じゃ新千重大は夢の夢だな」

祐一と香里が話している場に射場が割り込んだ。嫌味な口ぶりにちょっとだけカチンと来る祐一。

「なんだと射場。日常生活と大学受験に数学なんか必要ないんだよ」

「わざと言ってるだろ。……全く。こんな奴に教えるんなら給料が相場の1.5倍じゃ安かったか」

もちろん、名雪に教える分も入れての1.5倍だ。

「はん。親父もどうしてこんなロリコン野郎に家庭教師頼んだんだろうな」

「俺はロリコンじゃない。大体お前は……」

言い争いが始まった。
確かに相性は最悪かもしれない、そう感じて苦笑いする香里と名雪だった。
みゆがどう思っていたかは表情からは読み取れないが。


いつまでも勉強の邪魔をしているわけにはいかないと思い、帰ろうとする香里に祐一は話し掛けた。
みゆはすでに帰っている。名雪は勉強の準備。荘司は秋子さんと何か話しているようだ。

「なあ香里、射場荘司は俺の親父の親戚と言っていたが、俺とはどういう関係だと思う?」

「父親の親戚なら相沢君とも親戚のはずじゃない」

「まあ、そのはずなんだがな。俺はあいつとは会ったことがない。存在すら知らなかった」

「確かにちょっと不思議ね。でも何でそれを私に聞くのよ。直接聞いたらいいじゃない」

「教えてくれなかった」

ここで祐一は荘司の声真似をして、こう言った。

「ふむ。それを聞かれたら、『父さんに直接聞け』と言うように伝えられている。俺は別に話しても構わないと思うがな」

あまり似ていなかった。

「……だとさ」

「ふーん……」

父親に直接聞くのはしたくないらしい。
どうやら祐一は父親があまり好きではないようだ。

「親父は何しでかすかわからない奴だから。
多分秋子さんがみゆちゃんのこと知ってたのも親父のせいだろうし」

「……うーん。腹違いの兄弟、とかじゃない?」

「もしそうだったら、やっぱりね。何の不思議もない一般説が真実か。と思うね。
可能性としてはそれが一番高いかな。
世界のどこにハーフの隠し子がいてもおかしくない奴だから」

祐一の父親、彼は息子に全く信用されていない人物だったと言うことを悟る香里であった。

「もし自分に腹違いの12人の妹が突然現れたとしても、全然不思議に思わないね」

それは不思議に思えよ。


――7月11日 金曜日 午前9時39分 華音高校――

それは特にどうって事もない金曜日の一時間目が終わった休み時間。
唐突に教室の外から北川が走ってきた。恋はいつだって唐突だ。
祐一は賭けの清算をしていない件で何か言いたいのかと予想していたが、全く別のことだった。

「あいざわぁー、ホントなのかあの噂?」

「そう、本当だ。俺があの事件を解決したんだ」

「まだどんな噂か言ってないだろ。
すっごく綺麗な女子大生が家庭教師に来たという噂だよ。お前ん家に。
どうしておまえばっかりこんな事が……
なんか最近落ち着いてきたと思ってたのにやっぱお前はそんな男だったのかぁ」

噂を信じてはいけない。そう、尾ひれ背びれ胸びれ等くっついてくっついて原型がわからなくなるものだから。
一体どこで女子大生になったんだろうか。

「ちょっと待て。違うぞそれは……」

当然、祐一は否定しようとする。
だがそこに美坂香里、美坂チーム(北川命名)のリーダー的存在の彼女が口を出した。

「そうね。隠していたって事はその娘相当綺麗なんじゃないかしら。
相沢君も名雪というものがありながら、相当罪な男ね」

「……っておいおい香里。北川はともかくお前は本当の事がわかってるはずじゃないか。
昨日ちゃんと射場の奴を見たじゃないか。そいつのこと話したじゃないか。
とぼけてんのか。とぼけてんだな。この学年トップ」

「射場さんっていうのか、その娘はぁ」

「北川、そいつは男だ。男子大学生だよ」

それを聞き、興奮状態から通常状態に移行する北川潤。

「あ、そうかぁ。なるほどな。
まあでも、相沢のとこに家庭教師が来るって聞いたら綺麗な女の人だと思うよな。ははは」

俺の評判ってそんなものなのか。
と、少し落ち込む祐一であった。

つづく


あとがき&次回予告


久瀬「相変わらず微妙なギャグをラストに持ってくるのが好きですね。このSSは」
北川「まあな。当初の予定では今回の冒頭が7話のラストに来る予定だったしな」
久瀬「相沢君の評判ってのはそういうものなのか? このSSでは」
北川「まあな。名雪エンドとはいえ他のヒロインともある程度は仲良くしていたし、
 川澄さんや佐祐理さんとは空白の5ヶ月間にもちょくちょく会っていたし」
久瀬「ある程度は仲良く、ねぇ」
北川「例えば佐祐理さんの場合、舞踏会は参加しなかったけど、一緒にゲームセンターに行ったりはしていた。
 と考えると分かり易いかな。」
久瀬「そうか。では予告は僕にさせてもらう。
 さて次回は第九話『夏の引越し(前編)』だ。 次回は川澄さんが登場するぞ。
 祐一に大学生になった川澄舞から電話がかかってくる。どうやら何か手伝って欲しいことがあるようだが……
北川「感想やダメ出しがあったらお便り待ってまーす。
 作者が自分じゃ分からない欠陥とかもあると思うんで」
久瀬「それではまた次回!」
北川「ところで久瀬、このSSに登場してないのに何でここに?」


Shadow Moonより

大学生家庭教師はむさい男よりも綺麗な女性にかぎりますが、個人的には佐祐理さんのような可愛いお姉さんだったらなお良し(爆)。
まぁ、年頃の男子のところに来る家庭教師=女子大生というのは性の青い少年達の憧れですからねぇ(笑)。
さてさて、祐一君の家庭教師となった射場君ですが、この二人はとにかく相性が最悪のようで(w
ときに射場君が自分をロリコンじゃないと主張していますが…… 周りから見れば、何をおっしゃるうさぎさん ってなもんでしょう(核爆)。
次回は舞ちゃんの登場&引越しネタと言うことで、どんな展開が繰り広げられるのか期待してお待ちしています。


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