「朝ー朝だよー、朝ごはん食べて、学校行くよー」
いつもの目覚まし時計が鳴る。「名雪、早く起きなきゃ遅刻するぞ。おーきーろー」
「くー」
2パーセントくらいの確率でこの段階で起きる。今日は無理だった。
続いて俺は名雪の体をゆすってみる
「うー、もう食べられないおー」
うわぁ。なんてベタな寝言だ。
というかその寝言は昨日言っただろ。なぜ同じ夢を見る。そんなにお腹がすいているのか? ダイエット中なのか? リバウンドを繰り返しているのか? リバウンド王なのか?
「とにかく起きろ! 起きなきゃ電気あんま攻撃だぞ!」
「うにゅぅ。……あ、祐一、おはようございますぅ……」
「行くぞ。」
俺は夢の世界に片足を突っ込んでいる名雪の手を引っ張って階段を下りた
「祐一さん、おはようございます。」
「おはようございます。」
「うにゅ、おはようございます……」
秋子さんと挨拶をする。そして秋子さんの用意してくれた朝食に目を移す。
「あれ、今日の朝ごはんって……」
「どうしたんですか?祐一さん」
「あ、なんでもないです。」
今朝の朝食は昨日と同じメニューだ、とは思ったが口に出さないことにした。そういうこともあるのだろう。秋子さんに余計な気を遣わせる気はない。
とりあえずなにげにニュースを見た。
『おはようございます。目覚まし朝テレビです。いやー今日は7月7日。七夕ですねー。博多さんは……』
嘘だろ。どういうことだこれは。
「名雪?今日は何月何日だ?」
「祐一、おかしなこと聞くね。今テレビで言ってたでしょ。今日は7月7日。七夕ですって」
「冗談だろ。」
「冗談じゃないよ。昨日は日曜日で、その前はテストの日だったし。テストが7月5日なのはカレンダーにも書いてるし。
どう考えても今日は7日だよ。」
「本当は7月8日だろ。で俺をからかってるというわけだ」
「うーん。こんなことで嘘ついたって面白くないと思うよ」
「……確かに今まで俺はおまえをからかってばっかりだったからな。
仕返しで俺をからかいたくなる気持ちもわかる。
……でも昨日は確かに七夕だったのは覚えてるぞ」
「祐一さん、それは夢を見ていたんですよ。
姉さんが言ってたわ。祐一さんは子供の頃から七夕が大好きだったって。」
秋子さんも名雪と同じ考えのようだ。ますますどういうことだ?
名雪や秋子さんの口調を聞いていると、からかっているようには聞こえない。
名雪や秋子さんがどこかに頭をぶつけたとか……
それとも本当に俺が夢を見ていたのか?
夢を見ていた……にしてははっきりしすぎている。
今日が本当に7日なら、俺はタイムスリップしたということになる。のか?
「よう、相沢順平」
「……昨日の朝言った」
「いや、そんなわけないだろ。昨日は日曜日だったんだぜ。だいいち昨日の朝に俺とお前が話したわけないじゃないか。夕方にちょっと電話で話したけど。」
北川にも俺を騙そうとする悪意は感じられない。
それともそう見えるだけなのか?
まさか学校全体を巻き込んだ大規模なドッキリなのか……
そんなことをされるほど俺は悪い意味で有名人だったのか? 多分それはない。
それに俺の近くの人間は演技の下手なタイプが多いし……
本当に7月7日なのか……
「祐一、大丈夫?なんか顔色悪いよ。」
「珍しいわね。相沢君にしては」
「あ、ああ。大丈夫だ。おかまいなく。」
時が経つにつれ、これがドッキリでもなんでもない事だと気付いてきた。
どの先生も「昨日」と同じ事を喋るし、“先生ジョーク”を入れるタイミングまで俺にはわかっている。もちろんそんなジョークに笑えるわけがない。
そして六時間目が終わる頃には、不可思議な現象に半分パニック状態だった俺も落ち着いてきた。
そしてこれまでの事を整理してみる。
なぜ時間が戻ったのか。
昨夜、俺は道で宝石のような鉱石を手にし、しばらくの間の記憶が消え、気が付いたらベッドの上だった。そしてまた同じ一日を送っているわけだ。
ということは、その鉱石がこの現象の原因だろう。
そんな非現実なことが起こりえるか。起こってるんだから仕方がない。
覚えていないとはいえ無意識のうちに部屋に帰っていたのだから、その鉱石は多分部屋のどこかに置いているのだろう。
帰ったら探してみよう。
学校が終わると俺はまっすぐ家に帰った。
結論から言うと、鉱石は見つからなかった。
鞄の中も、机の中も、探したけれど見つからなかった。
探している時、部屋にあゆがやって来て、
「それよりボクと踊……たいやきでも食べに行くってのはどう?」
なんて言ってきたから、
「いや、俺は牢屋の中へ行ってみたいとは思わないから」
と返しておいた。あゆはちょっと膨れていた。
少し話した後、あゆはこう言った。
「祐一君、探すのをやめたとき見つかることもよくある話だよ」
と。ここまで探して見つからなければこれ以上やっても同じと思い、あゆの言いたいことを素直に受け取ることにしたのだった。
「祐一君、スイカおいしいね」
「そうか。俺は昨日も食べたけどな……」
「ええ、いいなぁ。昨日のもこのスイカくらいおいしかったの?」
「全く同じだったよ。二人とも、早いけど俺はもう寝るから。それじゃおやすみ」
今日は精神的に疲れた。早く寝たい。願わくば、普通の明日が来ますように。
「そんな。祐一がわたしより早く寝るなんて」
……って名雪。なんでそこでショック受けるねん。
「……一ヵ月後の大七夕祭は皆で行こうな」
「う、うん……」
寝室に向かおうとする時、麦茶を持ってきた秋子さんとすれ違った。
「あらあら、もう寝るんですか?」
「はい。気分が優れないので。」
「そう、気をつけてね。」
「ねえお母さん、祐一に来月の七夕について何か話したの?」
うしろから名雪の声が聞こえたが、気にしないことにしてさっさと寝室に向かった。
ベッドの中で考えた。
今日は変わった体験をしたものだ。で済むことなのかもしれない。
もし今夜寝て、平々凡々たる明日が来るとすればだが。
だがそうなる保障はない。もしかしたら目覚めたらまた七月七日で、それを一生繰り返すかもしれない。
悩んだわりに、その日はやけに寝つきが良かった。「昨夜」とは逆に。
食卓には祐一にとって三回目の同じニュースが流れている。つまり、祐一の悪い予感は的中したのだ。
「何度繰り返すんだよ一体……」
「そうだよ、どうしてそんなにミサイル作りたいんだろうねあの国は……
自分達に有利じゃないと話し合おうともしないし。」
テレビのニュース、祐一、名雪の三者で微妙にずれた会話が展開された。
祐一に不安が襲った、自分は死ぬまで繰り返すしかないんじゃないか、と。
彼の唯一の手がかりであるあの物体が手元にないのだから余計不安は大きい。
(今日はアレを見つけたところを探してみるか、ま、放課後にでも……)
相沢祐一はこういう状況でも学校に来る。
別に真面目なわけじゃない。行きたくなかったら行かない奴だ。
それなりに楽しい学園生活を送っていると言うことだろう。
その祐一に話しかけてきたのは美坂香里。ウェーブのかかった髪形が似合うきれいな女の子だ。
「どうしたの相沢君、元気ないじゃない。名雪と喧嘩でもした?それとも進路についての悩み?」
「……そうだな。どっちかと言えば将来の悩みかな。」
「ふーん。進学したいの? 就職したいの?」
「新千重大学だ。家から通えるし。」
「新千重大学?あそこは意外と偏差値高いわよ。どうしてマイナーな地方都市にある大学なのにあれだけ偏差値が高いのか不思議でたまらないけど。
相沢君の成績ならE判定で合格率2割未満。下手すると脚きりになるわよ。志望校変えた方がいいわね」
ちなみに、新千重大学に脚きり制度は無い。祐一もそれは一応調べていた。
「香里お前適当に言ってるだろ。まあ心配するな、俺は奇跡を起こす男だ」
根拠のない自信だ。だがその自身が時折他人を引き付ける要素になるので油断はできない。というか勉強しろよ。
「起こそうと思って奇跡が起きるなら苦労はしないわよ……」
――7月7日 月曜日 午後0時35分 新千重大学――
――くっくっく……そろそろだ。――
――そろそろ「アイツ」が来るころだ。――
哲学科学生控え室、中性的な顔立ちの青年がある男を待っていた。
右手の指で野球帽をくるくると回しながら。
もっとも、外見は青年というより少年だ。下手をすると少女にも見えないこともない。
その少年のような青年の名前は砂渡誠(さわたりまこと)と言った。
この青年、小学生のころは女の子と間違えられていた(それもかなり美人な)くらい可愛い顔立ちをしていた。
しかもそれを見て、女の子だと勘違いし年上の異性として憧れている年下の男の子までいたほどである。
なお、その男の子の情報についてはここでは伏せておく。
それでも彼が黒のランドセルを背負っていれば、男の子だと大体想像が付いただろうが、そうではなかった。
小学生も高学年ともなると、ランドセルを卒業し鞄に持ち替える児童が増えてくる。卒業するまでランドセルを使う子もいれば、小3あたりから鞄で通学するようになる子もいる。
彼は比較的早く鞄に持ち替える方だったのだ。
そんな可愛らしい外見とは裏腹に彼は後輩をいじめるのが好きな若干意地悪な性格をしていた。
どんないじめ方をするのかはすぐ判るだろうが。
――くっくっく。アイツのためにトラップを仕掛けてやった。――
――そう、あいつは必ずここに来る。約束を破る奴じゃないからな。
ま、もしアイツに予知能力でもあれば俺のトラップを恐れて来ないかもしれないが。――
――ドアを開けると黒板消しが落ちてくるという仕組みの最新型トラップだ……
完璧だ。一分の隙もない完璧な作戦だ。――
「砂渡君いるんだろ、入るよ……どわっ!」
トラップはうまく作動した。ただ狙った相手が違うということを除いて。
「や、きょきょ教授。すみません。」
トラップに引っかかったのはついこの間教授になったばかりの中年の男の講師。
脇役中の脇役である彼は、私はチョークの粉を被るために教授になったのだろうか? そう思いながら立ち尽くしていた。
ちなみにこの日、この部屋にはこれ以上誰も来なかった。
あとがき&次回予告
祐一「何だこの展開はー! 特に最後! 『居合い』!! 斬、斬、斬!!!」
北川「何で俺に……ていうか別作者のSSの技使うなぁ! 釘宮慎也さんごめんなさい!!」
祐一「。・゚・(ノД`)・゚・。」
北川「……まあ確かに三話目にして作者のひねくれ具合が出てきた回ではあったか。とりあえず半オリキャラ紹介しとこう」
名前:砂渡誠 (さわたりまこと) | |||||
性別:男 身長:159cm 体重:46kg 誕生日:6月1日 年齢:21歳 | |||||
新千重大学文学部哲学科の学生。(一年生)
見た目は可愛らしいが、性格はけっこー捻じ曲がっている。 その割に面倒見はいいので、小学生の頃、相沢祐一に好かれた。 もちろん彼には当時女の子と思われていたのだが。 昔はお姉さんキャラで今はショタキャラ? 射場荘司と行動を共にすることが多い。 |
|||||
知力 | 鋭さ | 運動神経 | 力 | 度胸 | カリスマ性 |
2 | 2 | 4 | 2 | 2 | 4 |
北川「次回予告いくぞー
さて次回は、第四話『YとS』です。『もう一人の主人公』が登場して祐一と接触。
そしてギャルゲー主人公同士の二人が同じ世界にいても大丈夫なのか(笑)?」
祐一「本編の俺ってまだこいつ(誠)の事知らないんだよな? いつ解るんだろうね、この真実に。
ま、ともかく何かひとことだけでも感想があればお便りお待ちしています。」
北川祐一「「来週をお楽しみに!」」
Shadow
Moonより
なるほど。 立ち絵の無いキャラという事でこう来ますか…… しかも性別逆転してますし(汗)。
確かに『勘違い』という事にすれば設定をいくらでも変えられるのがSSの利点ではありますが(苦笑)。
さてさて、祐一君の『時間の逆行』は1日という事で、延々と七月七日を繰り返す羽目に。
同じ期間を何度も繰り返すと、精神的負担が掛かり過ぎて人は発狂するらしいと心理学では言われているらしいのですが……
もう一人の主人公との出会いで何かが変わる事を祈りつつ、次回も楽しみにしています。
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