ETERNAL PRISM
writeen by 佐藤こみのち



ETERNAL PRISM

第二話 7月7日


――7月7日 月曜日 午前7時30分 水瀬家――

『朝ー朝だよー、朝ごはん食べて、学校行くよー』

いつもの目覚ましで起きる。
朝だ。冬であればまだ外は暗い時間なのだが、今の時期のこの時間はほとんど昼と同じ明るさだ。
もうほとんど慣れてしまった雪国の夏の一日が始まる。

『朝だよー、朝ごはん食べて、学校行くよー』

しかしこの気が抜けるような声はいつもながらちょっとな……
名雪も前にくれた時計と色だけが違う、2個目の目覚まし時計に同じメッセージ吹き込むことも無かったんじゃないかと思う。
声の高低差までほとんど一個目の奴と一緒だし。
ちょっと変化を付けて。例えばロック調でとかHip Hop調でとか……
馬鹿なことを考えるのはやめとこう。名雪が

「Hey! 朝だYo! 朝朝朝朝朝ごはん食べてe! 学校行くYo!」

なんて頼んでも言うわきゃない。さて、DJ名雪を起こしにでも行くか。


「祐一さん、おはようございます」

名雪の母である秋子さんが挨拶する。

「あ、おはようございます」
「うにゅ、おはようございます……」

「名雪、今日は傑作だったぞ。まさか『うー、もう食べられないおー』なーんてこれ以上ないほどベタな寝言 言うんだからなはははははっは」

「わ、祐一言わないでよそんなこと。恥ずかしいよ」

「あらあら。」



いつものように3人で朝食をとる。

『おはようございます。目覚まし朝テレビです。いやー今日は7月7日。七夕ですねー。
博多さんは子供の頃どういう願いを書いて短冊につるしたんですか?』

ニュースからアナウンサーの声が流れてきた。

「今日は七夕ですね」

「うん、雨降らなければいいね。織姫さまと彦星さまが会えるように。」

「地球で雨が降ろうと降るまいと、何光年も離れている織姫星や彦星には関係ないけどな。
そんなこともわからないなんて子供だな。DJ名雪は」

これは本気ではなく、わざと的をはずした意地悪な台詞である。

「祐一……そういうこと言わないの。ロマンがないんだから。
あとどうしてDJなの?」

名雪のため息が聞こえた。


――7月7日 月曜日 午前8時30分 華音高校――

「よう、相沢順平」

「俺は祐一だ」

土曜日に行われた模試の記入例の欄にあった名前を呼ばれる。苗字が同じというだけで。
北川よ・・・お前は小学生か。このアンテナ野郎! お前の母ちゃんデベソ!
……おそらく、全国の相沢姓、順平名の人物の5パーセント位は俺と同じ運命をたどっているんじゃないかな?

「ともかくさ、今回の数学第2問むちゃくちゃ難しかったよなあ」

「そうそう、俺なんかかっこ1すら解けなかったぜ。」

「俺もだ」

「わたしもだよー。すごくショックだった。香里はどうだった?」

「かっこ2の途中までなら解けたわよ。何とかね」

さすが香里だ。学年主席は伊達じゃない。
でも逆に考えるとそんな彼女ですら全て解けなかったほどの超難問だといえる。



「なあ、相沢。ほら、空を見ろよ……」

「なんだよ北川。お前気持ち悪いぞ」

「雲ひとつない天気だろ。昨日電話で言ってた賭けはどうやら俺の勝ちのようだな。何をおごってもらおうかなー♪」

「賭け? 驕り? 何のことです?」

「とぼけるな〜〜〜!」

「あ、数学の柊先生だ」

先生が現れると同時に席に着く、チームワークの良い3年B組の生徒達だった。

数学の授業中、俺はふと窓の外を見た。 窓から見える木々は青々とし、日差しは強い。
大学受験高3の夏・・・天王山の夏。嫌でも頑張らなければならない時期だ。
……そういえば、去年は3年になったら頑張ると言ってたのを思い出した。
だが、いまいち本気で頑張る気にはなれない。
「ダイエットは明日から」と同じ原理だな。
にんげんだもの。相沢みつを。


――7月7日 月曜日 午後4時30分 商店街――

放課後、俺は今日発売のはずのとある本を買いに本屋に来ていた。

一通り探してみたがどうやらまだ入荷していないようだ。
この辺りは首都圏からは離れているので発売日より入荷が数日遅れることも多い。まあ仕方のないことだろう。
すぐに売り切れるような物でもない。何日かしたらまた来るか。

おっと、今日は何か暇つぶしになるような漫画でも買って帰ろう。せっかく本屋に来たんだし。財布にもまだ余裕はあるし。
俺はあるマイナージャンルスポーツ漫画を選んでレジの列に並んだ。たまにはこういうのも買ってみようと思ってね。

自分の前には小学校高学年くらいの女の子が並んでいた。その女の子がレジに出した本を何気に覗いてみた。カオスと複雑系の基礎理論……難しそうな本だが、この本をこの女の子が読むものだろうか。全然似合わない。

「あの、どうかしましたか?」

「あ、なんでもないんだ。」

女の子から話しかけてきた。やや不機嫌そうだったことから考えるとどうやら最後の方が声に出てたらしい。こりゃかなり失礼してしまったな。


――7月7日 月曜日 午後8時00分 水瀬家――

俺と名雪、そして秋子さん、あとどういうわけかあゆの四人は縁側にいた。
いや、秋子さんは麦茶をくみに離れているのでこの時点では三人だ

「祐一君、スイカおいしいね」

「……なんでお前がここにいるんだよ」

「うぐぅ。ずっと前からいたのに。秋子さんとばったり会ったんだよ」

「悪い。全然気付かなかった」

「嘘だー。絶対嘘だー」

「本当だぞ。ところで名雪、聞きたいことがあるんだけど」

逆隣にいた名雪に話を振った。

「え、いいよ。」

「夜祭とかやってないのか?」

「そういうのはこの辺りでは八月にやるんだよ。八月七日の華音大七夕祭は本当にたくさん人が来るし、たくさん店があって楽しいんだから。」

「そうか。一月後が楽しみだな。」

「うん、祭りにはみんなで行けるといいね。ああ、でも祐一君と名雪さんは付き合ってるんだっけ。だったら二人だけで行った方がいいのかな?」

「あゆに似合わず気を使った発言だな。でも皆で行った方が楽しいぞ。香里とか北川とか。舞や佐祐理さんを誘うという手もありか。」

「それに、大人数で行ったとしたら途中でバラバラになるだろうし」

「そうだね。二人の言うとおりだね。」

みんなで行けるといいね……みんな……その言葉をかみ締めながら俺は星空を見ていた。
会話が途切れ静かになり、七夕のシンボルと言える笹が揺れる音が聞こえてくる。

「なあ名雪。名雪は短冊にどんな願いを書いたんだ?」

「え、えーっとそれは……」

「なんだ?」

「……おしえてあーげない♪」

「じゃあヒント!」

「ヒントは祐一!」

ポカッ

「ひどいよー、どうして殴るんだよ」

「名雪が恥ずかしいこと書くからだ」

「祐一が教えてって聞いたから言ったのに。ていうかまだヒントしか言ってないのに……」

七夕の願いは人に言うものじゃない。そう思った夏の夜。


どういうわけかこの日は寝苦しい夜だった。

なぜだろうか。そういえば俺は半年前この町に来てから、ずっと思い出さなければいけない事があるような気がしていた。それは名雪のことだと思っていたのだが。
……いや、まだ全部思い出せてはいない。ごくたまーにだがそのことで考え込むことがあった。寝苦しいのはそれを思い出そうとしていた証拠なのかもしれない。

「そうだな、夜風にでも当たってくるか」

というわけで家を出た俺は、コンビニでついでにアイスと花火でも買ってこようと考え、しばらく歩いていた。

ふと、道路の向こう側、カーブの外側の草むらに何か光るものが見えた。

「何だあれは」

その光る物体に俺は不思議な好奇心を感じた。
そしてその物体に近寄ると光は消えた。反射の角度の問題なのだろうか。
光が消えてもどの辺りにあったかは覚えている。俺は「それのあった位置」に手を伸ばした。
硬いガラス質の物に触れた。それを取り上げて目の前に掲げた。そして眺めていた。両端が尖っている六角柱の透き通った石。宝石かもしれない。紐が付いていると言うことは首飾りか何かだろうか。

午前0時を回った。
この瞬間が、「循環」の始まりだった。
今日まで続いた日常が、明日も続くとは限らなかったわけである。

つづく。


あとがき&次回予告


北川「うーん。これだけか。もっと俺の出番欲しいな……」
祐一「……予定ではもっと出番あったらしいぞ。学食行く場面とか。でもお前出しててもストーリーが進まないからさ。」
北川「大人の事情かよ……トホホだ」
祐一「よし。今日は俺が予告だ。
 さて次回は第三話『repeat』です。果たして祐一の身に起こった異常現象とは何か?
 そして『本編に立ち絵が出てこないあのキャラ』が登場します。でも人によっては『オイオイそりゃないよー』と思ってしまうカタチでの登場!」
北川「あのキャラ? えっと……4人くらいに絞られたかな」
祐一「ともかく、感想や苦情、ツッコミ、登場他ゲーキャラ予想、あのキャラ予想、何でもいいから言いたいことがあるならおハガキお待ちしてます。それではまた次回ー♪」
北川「それではまた来週ー♪」


Shadow Moonより

ほほう。 『繰り返し』ですか。 時を駆ける祐一君というわけですな(w
問題はどこまでさかのぼるか という事ですが、はたしてどこまでさかのぼるのでしょう?
さてさて、首飾りの不思議な水晶を祐一君が拾った事で、この物語の片鱗が見え始めてきたわけですが……
名雪ちゃんエンドという一つの流れに乗っていた祐一君は、今度はどんな流れに乗るのか。
立ち絵のないキャラというと、すぐに思い出されるのは男キャラが二人。 どちらが登場するのか次回も楽しみにしています。


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