幸福運ぶ奇跡の春風
第13話
参戦、狐と巫女
舞い上がった砂煙が晴れた。
その真ん中に佇むのは、大きなリボンを頭の後ろに付けた、栗色の長髪を持つ少女。
そして、その後ろには茶色の長髪を持つ少女と、黒髪の表情の乏しそうな少年。
そう―――その三人だけ。
「随分派手ね。…もしかして、跡形もなし?」
「…そんなわけがないだろう。ちゃんと加減していた」
手を突き出す少女、その後ろに立つ二人が話す。
しかし、ヴィータにとってそれは最も聞きたくないこと。
守れなかったなどと、信じたくはないから。
「――っ、てめぇらーーーッ!!」
弾丸を吐き出し、形状を変える愛機、グラーフアイゼン。
圧倒的な加速力を誇る強襲形態、ラケーテンフォルムへと。
しかし、それを見て少女の前に、黒髪の少年が立つ。
「砕けろっ!」
【Raketen hammer】
ヴィータが加速するのとほぼ同時に、少年がシールドを展開する。
が、ラケーテンハンマーの威力は、そう易々と防げるものではない。
数十秒ほど攻防をするが、シールドが破られる。
味方側は、やったと思っただろう。
この少年が、ただの魔導師だったならば。
「な――っ!」
「先端の攻撃面積が狭い攻撃は、確かに威力はある。
が、それ以外の面が疎かになる欠点も存在する。…相手の得物をよく見ることだな」
少年の両手につけられた、漆黒の篭手。
少年はその両手で、グラーフアイゼンのスパイクの部分を掴んでいた。
この攻撃は、先端部分での防御と対象の破壊が主な使用用途。
が、スパイク部分を掴まれたことで威力は大幅に落ち、敵を弾く事すら出来ない。
「これで――」
少年は、攻撃を受け止めていた右手を引く。
ヴィータは、その右拳に魔力が集まるのを察して退こうとする。
しかし、少年はグラーフアイゼンを掴んだまま放そうとしない。
「――終わりだ!」
ゴッ、と鈍い音が辺りに響く。
少年の右手はヴィータの腹部にめり込んでいた。
ヴィータは、それに一瞬気を失いそうになる。
が、その寸前に拳から放たれた魔力で吹き飛ばされ、
その衝撃で意識を落とさずに済む。
「がっ……ぁ」
「いい使い手に、いいデバイスだ。
だが…どんなモノにも、上には上がいる。覚えておけ」
「ええ、そうですね」
瞬間、ヴィータと少年の間に雷撃が落ちる。
少年はそれに驚いて後ろに跳び、一部始終を見ていた後ろの二人も目を見開く。
そして、三人が視線を向けた先――ヴィータの後ろに、二人の少女が居た。
「ですが……進む事を諦めた人と諦めない人とでは、大きな違いです」
「あうー、こんな事で威張られても腹立つだけよぅ」
「美汐さん…真琴さん」
「お久しぶりです、佐祐理さんに和樹さん。それから…祐佳さん、でしたか」
ヴィータの前に立ち、三人に頭を下げる美汐。
真琴はヴィータを引き摺り、後ろの木陰へと寄り掛からせる。
そのすぐ傍には、先程攻撃を受けたはずのなのはの姿。
防護服の所々が破れたり汚れたりしているものの、
体には支障がないのか意識もあり、ヴィータに手を振る。
それを見たヴィータは、安堵の息を吐く。
「あんたらは…」
「天野美汐と申します。その子は、真琴。
祐一さんに頼まれてお手伝いに来たのですが…案の定ですね。
ヴィータさん、でしたか?ここは私たちが食い止めるので、しばらく体を休めてください」
「…悪いな」
美汐の言葉を聞き、体の力を抜くヴィータ。
二人が話している間に、美汐の横には真琴が立つ。
それと同時になのはも立ち上がり、少年――斉藤和樹の隣に、祐佳と呼ばれた少女が立つ。
「元機動部隊のお出まし、か。
倉田佐祐理、斉藤和樹。殺さない程度には戦ってもいいんでしょ?」
「…はい。それが佐祐理と高槻さんとの間で交わした契約の一つですから」
「俺も、別に構わん。仲間を捨ててまで相対したやつなど、知らん」
斉藤の言葉に、美汐と真琴が表情を歪める。
二人は、捨てたくて捨てたわけではないのだ。
一人の仲間を取るか、仲間と交わした誓いを取るか。
ただ、それだけの話だった。
そして、佐祐理達は前者を、自分達は後者を取っただけの話。
「…和樹さん、それは佐祐理達が言える事じゃないです」
「ああ、分かってる。…が、理解したくないだけだ」
腰を落とし、構える斉藤。
そう、自分も相手も、互いの事をどうこうと言える立場ではない。
双方とも一つの事を取るために、一つの事を捨てたのだから。
「…なのはさん、一対一に持ち込むのは危険です。
特に、個人戦闘では私たちの中でも上位に入る人が居ますから。
今は三人で動き、一人ずつ数を減らすしかありません。
手加減は無用です。手加減すれば、自分や他の人の命が危ういと思ってください」
「うん、解ってる。全力全開で戦うしかない」
「久しぶりに暴れてやるわよっ」
レイジングハートを少女――倉田佐祐理へと向けるなのは。
佐祐理はそれに眉を寄せるが、その前に斉藤が立つ。
真琴も闘る気満々といった感じで、その腕に炎を纏わせている。
祐佳は少し面倒そうな表情を見せつつも、得物――恐らく刀だろう――を構える。
「…仕方ありませんね。
真琴、和樹さんと祐佳さんは私たちで食い止めます。
なのはさん、こちらを援護しつつ佐祐理さんの足止め、出来ますか」
「出来るかどうかじゃなくて、やらないと。
今は戦うしかないけど、あの人達の事情も聞きたいしね」
なのはの返答を聞き、向き直る美汐。
恐らく、迷いという点ならばなのはよりも、美汐の方があるだろう。
相手はかつて苦楽を、床を、志を同じとした仲間だったのだ。
だった、などと過去のことにするつもりもない。
今も、根本の部分は変わっていないと信じているのだ。
しかし―――。
「――こうなった以上、戦いは必至、ですか」
目を伏せ、呟く。
が、次に顔を上げた時には、その瞳には強い意志が宿っていた。
そして、美汐は右手を上へと掲げる。
「――行きます。
その手に握られるは、一振りの薙刀。
狐色をした柄に、白銀の刃。
その色は、かつて二人居た使い魔を象徴する色。
「この結狐、そして桔梗と真琴の二人に賭け、これ以上好きにはさせません」
「言うね。こっちとしても、簡単に退くつもりはないけど」
「祐佳さん、重症の方には手を出さないように。
それが出来ないならば、ここで帰っていただいて構いません。
無論、契約の方も破棄します。…血眼になって探せば、協力者が居るかもしれませんから」
佐祐理の言葉を聞いた祐佳は、佐祐理を睨む。
が、それも一瞬のことで、すぐに正面に向き直る。
恐らく、協力はしていても関係は良好ではないのだろう。
「突くならば、そこですね…。
真琴、なのはさん、準備はいいですね?」
「もちろん、おっけーよ」
「うん、大丈夫」
三人は腰を落とし、構える。
しばらくは双方ともに睨み合っていたが、
ふいに小さな揺れが起きる。
向かい合う六人はそれを合図に、動き始める。
後方のなのはと佐祐理は空へと飛び、他の四人は真っ向からぶつかり合う。
To Be Continued.....
Shadow Moonより
諸事情により、すみませんが感想は後日……
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