幸福運ぶ奇跡の春風
第11話
奇襲
祐一と別れてから約十分。
フェイト達三人は、襲撃を受けた施設の付近まで来ていた。
施設も既に肉眼で確認出来る位置に来ており、
その施設からは黒煙が上っていた。
「…っ。戦闘音…よかった、まだ堪えてた」
「ああ。あたしは一足先に行くぞ」
「分かった。私は迂回して、反対側から回る。なのははヴィータの援護を」
「了解」
まっすぐに進む二人と別れ、軌道を逸れようとしたフェイト。
が、その下で二人の少年少女を発見する。
それを視線で二人に伝え、フェイトは迂回をせずに下に下りる。
「管理局の魔導師です。こんな所でどうかしましたか?」
「あっ…」
フェイトの存在に気付き、二人の内、少女が声を上げる。
一緒にいる少年もフェイトに視線を向ける。
もっとも、二人ともフェイトを警戒しているようだが。
「管理局魔導師、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。
この地域一帯は戦闘区域です。非難勧告は発せられたはずですが…」
「あ、ああ。私はこの先にある施設の局員です。
彼女は民間の協力者なのですが…何分急だったので、彼女を連れてここまで」
眼鏡を掛けた少年が、フェイトに説明する。
少年といってもフェイトよりは年上で、恐らくは祐一と同い年くらいだろう。
少女の方は、フェイトと歳は大差ないように見える。
「分かりました、安全な場所まで私がお連れします。魔法は…」
「私も彼女も使えます。…もっとも、飛べるのは私だけですが」
「十分です。彼女を抱えて、ここから南へ。誘導します」
言って、空へと上がるフェイト。
それに続いて、少し戸惑いながらも二人が空に上がる。
フェイトは二人の速度に合わせ、南へと向かう。
【フェイトちゃん、そっちはどう?】
「要救助者二名を確保。今は非戦闘区域まで誘導してるところ」
途中で入ったなのはの通信に答えるフェイト。
モニターの向こうでは、感染者に混じって機械兵器が確認出来る。
もっとも、感染者だけでここまで大規模な破壊工作は不可能だろうが。
「誘導が終わったら合流するから、任せても?」
【大丈夫。武装隊の人も頑張ってくれてるから】
「分かった。なるべく早く―――っ!?」
フェイトは、体を硬直させる。
それは、後ろから感じた膨大な魔力。
モニターの向こうの音も声も、フェイトの耳には届かない。
「――残念です。何より、僕らを見つけたのがあなただということが」
「はい。会った時が少し違っただけで、友達になれたかもしれません」
振り向いた先には、無表情の少年と寂しそうな少女。
抱えられている少女は両手を突き出し、その両手の先には水色の魔法陣。
「さよならです、フェイト・T・ハラオウンさん。
死ぬことはないと思いますから、その時には祐一さんによろしく言っておいてください」
「しばらくの間、お別れです」
瞬間、魔法陣の輝きが増す。
モニターの向こうから爆発音が聞こえたのは、それとほぼ同時だった。
「ディバイン、バスター!」
桃色の砲撃が、感染者と機械兵器を巻き込む。
砲撃の通った部分には機械の残骸と感染者が倒れるだけだが、
その場所はすぐ、他の感染者や機械兵器で埋め尽くされる。
後ろの武装局員も砲撃で着実に数を減らしていくが、何より数が多すぎる。
前線で足止めしていた者達も、疲労からなのは達の後ろへと下がっている。
「…ちょっと、まずいかな」
「ああ、数が多すぎる。あたしじゃ感染者はやたらに叩けねぇし、このハンデは結構キツイ」
なのはの隣で感染者と機械兵器の混合した集団を見るヴィータ。
その瞳は何処か忌々しそうでもあり、怒りを宿している。
それはこの様なことをした者に対してか、
それとも出来ることが限られていることに対してか。
「相沢祐一とテスタロッサ、まだ来ねぇのか?」
「うん。祐一さんは通信が繋がらないし、フェイトちゃんも今民間の人が傍にいるし」
モニターの向こうでは、二人の少年少女に話を訊いているフェイトの姿。
フェイトが立ち上がっているところを見ると、事情の方は聞き終わったのだろう。
ならば、もう少し待てば状況は改善されずとも悪くなることはない。
「ヴィータちゃん、最低でもあと十分」
「ああ。応援が来るまで、この防衛ラインを死守する。
おら、いつまでへばってるつもりだ!人を守るのが仕事なら、死なない程度に無茶しに行くぞ!」
ヴィータの言葉に、後ろで待機していた前線の面々が立ち上がる。
皆まで言われずとも、自分達のなすべき事は解っているのだ。
「とりあえず、数減らし。一発大きいの、いくよっ!!」
なのはの言葉と同時に、周りの者達が杖に魔力を集める。
なのは自身も先程までよりも多くの魔力を込めている。
自らの出来ることをするために。
「ディバイン―――バスターッ!!」
先程よりも巨大な砲撃。
さらに、まわりの魔導師たちもディバインバスターの範囲外に向かって撃ち始める。
それを見ていたヴィータは、笑みを浮かべる。
「――へっ、まだまだ全然元気じゃねぇか」
「当然っ」
なのはと一言だけ交わし、ヴィータは十数人の魔導師とともに前線へと赴く。
それを見届けたなのはは、モニターの向こうへ視線を向ける。
「フェイトちゃん、そっちはどう?」
【要救助者二名を確保。今は非戦闘区域まで誘導してるところ】
モニターの向こうでは、二人の少年少女を誘導しながら飛ぶフェイト。
少年が少女を抱えている限り、その少年は飛ぶことが出来るのだろう。
【誘導が終わったら合流するから、任せても?】
「大丈夫。武装隊の人も頑張ってくれてるから」
少し視線を逸らすと、そこには砲撃で確実に数を減らす局員。
そして、ヴィータと共に足止めをしている局員達。
傷のある人もいるが、現在では死者は出ていない。
現状では、これ以上は望めないほど良い状況だろう。
――何かしらの、不確定要素が絡まなければ。
【分かった。なるべく早く―――っ!?】
「――っ!?フェイトちゃん!!」
フェイトが息を呑むのと同時に、なのははモニターに視線を戻す。
その先では、誘導されていた内の一人が、魔法陣を展開している。
恐らくは、攻撃魔法の類だろう。
そして、その標的は――
「逃げて、フェイトちゃん!!」
「なのは、どうしたッ!」
なのはの叫びを聞き、ヴィータが声を張り上げる。
しかしなのはにその声は届いておらず、モニターに映るフェイトに呼びかけるだけ。
そう、自分の近くで放出される、膨大な魔力に気付かずに。
「――ッ!?テメェッ、何してやがる!!」
ヴィータの声で、ハッとするなのは。
しかし、顔を上げた先には栗色の魔法陣。
そして、その先には魔法陣と同じ色をした長髪を持つ少女の姿。
その瞳は、何処か寂しげで――。
「舞が頑張ってるのに、佐祐理が出ないわけにはいかないですからねー。
…管理局の魔導師さん、ここでしばらくお別れです。次に会う時は、敵同士でないよう祈ります」
魔法陣の輝きが増す。
それは、なのはとその周辺の人を巻きみ、後ろの施設へと向かう。
その輝きが発せられると同時に、モニターの向こうで爆音が聞こえる。
しかし、今のなのはにそれを知る術はない。
既に、少女の発した閃光に、その身を包まれていたのだから。
To Be Continued.....
Shadow Moonより
諸事情により、すみませんが感想は後日……
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