幸福運ぶ奇跡の春風





    第10話


    敵対する旧友達





  「目的地まではあとどのくらいですか?」

  「十分前後。何もなければ、誤差は±三分ってとこだな」


  すぐ隣を飛ぶフェイトに、視線は動かさずに答える祐一。
  十数分前、本局から地上の支部が攻撃を受けているとの連絡を受けた祐一達は、
  救援要請を請けて現場へと向かっていた。
  はやてとシグナムは別件でおらず、二人の代わりにヴォルケンリッターのヴィータが出動していた。
  本来は祐一達は管轄外なのだが、現場にはロストロギアがあるとの事で出動要請が来たのだ。


  「武装隊、もう少し早く動けるように検討しないといけないな」

  「でも、川澄隊長が少数部隊を幾つか出してくれてるんですよね?」

  「なら、あたし達はその部隊がやられちまう前に行けばいいだけだ」

  「口で言うのは簡単だが、そうもいかないんだな。
   ヴィータ空曹長のデバイスはベルカ式。質量攻撃はマズいからな」

  「わぁーってるよ」


  祐一の言葉に、不機嫌そうに返すヴィータ。
  出動前にシグナムに散々言われ、既に耳タコ状態なのだろう。
  その光景を思い出し、祐一はつい笑みを浮かべる。


  「…今、笑っただろ?」

  「いや、気のせい気のせい。もう少しスピード上げるぞー」


  後半部分は明らかに棒読みな祐一。
  ヴィータもそれを追及しようと、速度を上げた祐一を追う。
  フェイトとなのはは、そんな二人を見て、顔を見合わせる。
  無論、二人の表情は笑みを浮かべている。

  ――ふと、祐一が止まるまでは。


  「――?祐一さん?」

  「……フェイト、二人と一緒に、先に現場に向かってくれ」


  なのはが問い掛けるが、祐一はある一点を見つめて動かない。
  フェイトはその様子を見て、何かを察したのか、二人に先に行くように促す。
  なのはとヴィータは納得した感じではなかったが、指示に従う。
  無論、フェイトも納得しているわけではない。
  が、祐一の表情を見ると、無理矢理にでも納得するしかなかったのだ。


  「……出て来いよ、舞」


  三人が見えなくなり、祐一は何もない空間へと声をかける。
  祐一が声をかけた瞬間、何もない空間から一人の少女が現れる。
  その手に、一振りの剣を携えて。


  「…久しぶり。祐一」

  「ああ。会うのは…四年と半年振りか」


  黒い髪をポニーテールにした少女――川澄舞。
  祐一と同じく、以前は遺失物専門機動部隊に所属していた少女だ。
  そして、今は――。


  「今回の支部施設の襲撃…お前達か?」

  「―――」


  祐一の問い掛けに、舞は無言。
  しかし、その雰囲気からして恐らくは当たっているだろう。
  故に、以前の仲間だとしても、祐一の行動は自然と決められる。


  「俺の今の役職、知ってるよな?」

  「はちみつくまさん」


  昔祐一が教えた、イエスという意味の言葉。
  それをまだ使っているということは、
  舞自身が気に入っているのか、まだ祐一の事を慕ってくれているのか。
  もっとも、今となっては確認出来るかは定かではないが。


  「川澄舞、管理局の施設襲撃の容疑者として、確保させてほしい」

  「…ぽんぽこたぬきさん」

  「…っ!」


  瞬間、祐一の横を何かが通り過ぎる。
  祐一が視線を向けた先には、うさみみのカチューシャを付けた少女の姿。
  その少女には、祐一は見覚えがあった。


  「…まい」

  「―――」


  祐一が声をかけても、その少女――まいは無言。
  しかし、その表情は誰が見ても悲しみに染まっている。
  これから起こる事を暗示するかの様に…。


  「…そう、か。大人しく付いて来てはくれないか」

  「…ごめん。佐祐理を一人には出来ないから」


  祐一は、内心苦笑する。
  昔から変わらない無垢な心の在り方に。
  そして、仲間を思う優しい心に。
  だからこそ――。


  「舞や佐祐理さん達を、犯罪者にはしたくない」

  「……ごめん。――でも、佐祐理に一弥を忘れることは出来なかった」


  佐祐理さんだけじゃない、と呟く。
  恐らく舞も、美汐も、真琴も、他の皆も。
  他ならぬ自分でさえ、この六年間忘れたことはなかった。
  あの、自分を兄と慕ってくれた少年の事を。


  「祐一は…どうするの?」

  「…悪い」


  舞の問いに、短く答える祐一。
  それは、舞の思いと言葉を拒否するという事。
  それが解っているから、舞は自分でも気付かぬ内に表情を歪める。
  祐一の最も見たくはない、泣きそうな表情に。


  「――これ以上続けるなら、語ることはもうないな」

  「…はちみつくまさん」


  互いに、自らの愛機を構える。
  舞は西洋剣を、祐一は不可視のヴェルセフィアを。
  もっとも、既に手の内を知られている舞に対しては、
  この様なことは気休め程度にしかならないだろうが。
  それでも――。


  「たとえどんな状況でも、全力の相手には全力を尽くすのが礼儀だ」

  「―――行く」


  言葉と同時に、二人は空を翔ける。
  一瞬で距離は縮まり、二人は愛機を振りかぶる。


    キキキィン――


  一瞬の内の、剣の打ち合い。
  祐一の髪は数本ほど空を舞い、舞の衣服は一部が切斬られている。
  しかし、二人は笑みを浮かべる。
  まるで、この戦いを楽しんでいるかのように。


  「――ははっ。腕を上げたじゃないか、舞。
   昔の舞なら、全部は対応仕切れなかったのに」

  「…祐一も、強くなってる」


  敵対しても、やはり仲間という感情を捨てきれないか。
  相手の成長を喜び、相手の賞賛を嬉しく思う。
  だが――。


  「負けるつもりは……ないっ!」

  「私も…っ!」


  ギィン――と、一際大きな金属の合わさる音。
  それを機に二人は一度距離を取る。
  距離にして、約五メートル弱。
  互いに愛機を構えたまま、相手を見据える。


  「まい――っ!」


  舞の言葉と同時に、今まで傍観していたまいが動き出す。
  まいは一直線に祐一へと目掛けて飛翔する。
  祐一はそれを紙一重で翻し、舞へと向かう。
  が、それはいつの間にか傍に来ていたまいに阻まれ、距離を取る。


  「…厄介な」


  舞の傍に佇むまいを見て、呟く祐一。
  まい自身は舞の特殊技能<レアスキル>ながら、自らの意思を持つ。
  明確な名称は誰も知らないが、厄介な技能なことに変わりはない。


  「けど――突破口がないなら、正面から二人とも倒すだけだ」


  再びヴェルセフィアを構える祐一。
  目の前にいる二人も、それを見て緊張感を高める。

  ――瞬間。


  「「「―――ッ!?」」」


  ドンッ――!!
  と、大気を揺るがすような爆発音が響く。
  音の感じからそれなりに離れてはいるだろう。
  しかし、それだけ離れていても、はっきりと聞こえるほどの大爆発。


  「――悪いが、一時休戦だ」

  「はちみつくまさん」

  「解ってる」


  祐一の言葉に、二人も同意する。
  敵対したとしても、その心の在り方は変わっていない。
  二人の視線は祐一ではなく、爆発が聞こえて来たであろう方へ向いている。


  「まい、一度戻れ。舞の中にいた方が魔力使わないだろ」

  「――そう、だね。舞、少し戻るね」


  一瞬目を見開くが、意図を察して消えるまい。
  まず敵対した人間の言葉は聞く耳を持たないが、
  それは祐一だから、ということか。
  まいが消えるのを確認すると、祐一は爆発音の聞こえた方へと飛ぶ。
  それに少し距離を空け、舞も続く。
  二人の心配は、先程の爆発で誰が巻き込まれたかに向いている。
  再びともに空を飛んだのは、二人が敵対した時だった――。





  To Be Continued.....


Shadow Moonより

諸事情により、すみませんが感想は後日……


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