幸福運ぶ奇跡の春風
第9話
一時の休息
「おはようございます、祐一さん」
「おはようございます」
「んー、おはよう。フェイト、はやて」
起床して来た祐一に声を掛ける二人。
無論祐一もそれに返し、欠伸をしながらソファへと腰掛ける。
「…眠そうですね、祐一さん」
「ああ、夜遅くまで報告書書かされてたからな。
まぁ、無理矢理現場指揮任せたようなものだし、これくらいはどうって事ないんだけど」
「あたしは気にしてないですよー。
少しはこっちに回してくれてもいいんですよ?」
「いや、今回は手を借りれたから大丈夫だっただけだよ。
本当に俺がやばい状態になったら、構わず助け求めるから心配するな」
自信満々な祐一に、二人は苦笑する。
場を和ませる術ならば、彼に敵う者はいないだろうと。
ここまで人を警戒させない人など、まずいないだろうと。
「そういえば…祐一さん。
昨夜の現場検証のとき、女の子が訪ねて来ましたよ」
「女の子…?」
「はい。ありがとうございましたって伝えてくださいって。
頭の後ろにリボン付けてる、ちょっとしっかりした感じの子」
「ああ…」
祐一は、昨日の事件で会った少女――ギンガの事を思い浮かべる。
結局はあの後、美汐と真琴に妹と一緒に預け、現場に戻ったのだ。
ちゃんと現場に来ていた調査隊に任せたと聞いてはいたが、少し心配はしていたのだ。
その安否が確認でき、つい穏やかな笑みを浮かべる。
「――?何でその子が俺を訪ねて来たって分かったんだ?
俺、確かその子に自己紹介はしてなかったと思うんだけど…」
「ああ、その子が言うたんです。
祐一という名前の執務官さんに伝えてください…って」
はやての説明で、祐一は納得する。
確かに自己紹介はしていないが、ギンガの前で何度も名前を呼ばれているのだ。
はやてたちとの通信の時と、美汐と真琴と再会した時と。
ならば、ギンガが自分の名前を知っていても、おかしくはないだろう。
「祐一さんが本局に戻ったって聞いて、少し残念そうにしてましたよ」
「…大丈夫だろ。多分、その子とはまた会える」
「えらく自身満々ですね、祐一さん。約束でもしたんですか?」
「いや。…悲しいことだけどな、その子も魔導師志望だ。
なら遅かれ早かれ、本局か地上本部、出動現場で会うことになる」
確かに、祐一の説明は理に適っているだろう。
だが、フェイトとはやては、それだけの理由でないと気付いている。
理屈ではなく、ただまた会えるのだと、そう思っているのだろうと。
「さて、朝から真面目な話は止めにして……とりあえず、俺は朝食兼昼食。
昨夜リンディさんから朝と昼は外でって言われてたからなぁ。二人はどうする?」
「あ、私も行きます。昨日の夜は何も食べてないから、お腹ぺこぺこで」
「お邪魔じゃなければ、あたしもご一緒します」
「りょーかい。んじゃ、俺は少し準備してくる。
一応十時半頃に出るから、準備があるなら済ましておくこと」
祐一の誘いに、二人は即座に承諾の意を示す。
それを聞いた祐一は、時計を確認して部屋へと戻って行く。
残った二人は微笑み合い、残った紅茶を飲み干す。
一時の休みを満喫しようと。
「ここです」
「へぇ、何かいいカンジの店だな」
フェイトとはやての案内で駅前へと来た三人。
三人は駅前で人気の喫茶店、翠屋の前に立っていた。
もっとも、フェイトとはやての笑みは祐一のものとは少し違っていたが。
「それじゃあ入りましょか」
「ああ」
はやてを先頭に翠屋へと入って行く三人。
そして、入った店の中には、三人のよく知る顔があった。
「いらっしゃ……ゆ、祐一さん?」
「な、なのは…?」
予期せぬ場所での顔合わせに、呆然とする祐一となのは。
祐一の後ろでは、フェイトとはやてが顔を見合わせて笑みを浮かべる。
振り向いた祐一はそんな二人を見て、二人が浮かべていた笑みの意味を察する。
「えーっと…とりあえず、席に案内しますね。三名様、入りまーすっ」
「はーい」
まだ若干ながら驚いているものの、慣れた感じで三人を席へと案内するなのは。
祐一もそれに付いて行き、三人は窓際の隅の席へと連れられる。
フェイトとはやては並んで座り、その向かい側に祐一が腰掛ける。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「私は…デザートセットAで」
「あ、あたしも同じので」
「ん〜…おすすめとかは?」
常連のフェイトとはやては即座に決めるが、祐一は未だにメニューと睨めっこ。
結局これというものが無かったのか、三人に意見を求める。
「当店ではデザート…特にシュークリームがご好評頂いてます」
「翠屋のシュークリーム、わざわざ遠くから買いに来る人もいるんですよ」
「箱買いして行く人もおるし…半ば、この商店街の名物と化してますね」
「えっと…フェイトちゃんにはやてちゃん。さすがに膨張し過ぎ…」
二人の説明に、営業口調から戻ってつっこみを入れるなのは。
祐一もそれに苦笑し、結局二人と同じセットを頼む。
なのははもう少しで休憩に入ることを伝え、厨房の方へと入って行く。
それを見送った祐一は、軽く溜め息を吐いて正面で笑みを向ける二人を見る。
「…知ってたなら、教えてくれてもよかったと思うんだが」
「ごめんなさい、祐一さん。はやてが、どうせなら驚かそうって」
「すいません。祐一さんのびっくりした顔が見たかったんです」
「ああ、これでもかってくらい驚いたよ」
椅子に深く腰掛け、溜め息を吐く祐一。
それを見た二人は、顔を見合わせて笑みを深くする。
「しかし…近所なら会うこともあるとは思うが、まさか店員とは」
「喫茶翠屋は、なのはのご両親が経営してるんですよ」
「だからバイトじゃなくて、家のお手伝いですね。
あたしやフェイトちゃんも、たまにバイトみたいなことするんですよ」
なるほど、と頷く。
もっとも、可能性がゼロたったわけではないのだが。
ただ、祐一はふと、疑問の声をあげる。
「…中学時代の友達とか、会わないのか?
こういう所って、結構会ったりすると思うんだけど」
「あー…仲の良かった友達とか、よく会いますね」
「アリサもすずかも、よく来るからね」
祐一も、その二人の名前には聞き覚えがあった。
フェイトがまだ裁判中だった頃、よく送られてきたDVD。
それを見せてもらったとき、三人の少女が映っていたのを覚えている。
その真ん中に映っていたのは、恐らくなのはだろう。
なら…。
「――ああ、もしかしてあの二人か」
気の強そうな少女と、どこかおっとりした少女。
まだ会ったことはないが、あのDVDを見る限りは仲はいいだろう。
「祐一さん、会った事ありました?」
「いや、フェイトの裁判中にな。
なのはが送ってきてたDVD、たまに見せてもらってたんだよ」
「アリサとすずかも映ってましたね」
「何の話ー?」
アリサとすずかについて話していると、私服に着替えたなのはが近付いて来た。
その両手には、三人が頼んだものとなのはが自分用に取ってきたセットが乗ったトレイが二つ。
祐一は窓際に寄って席を空け、なのはの持っていたトレイを受け取る。
なのはも祐一達の前注文された品を置き、祐一の隣に腰掛ける。
トレイは邪魔にならない様、近くの店員に頼んで戻してもらっていたが。
「私の裁判中に、なのはが送ってきてくれたDVDについて」
「ちゃうよ、フェイトちゃん。アリサちゃんとすずかちゃんについてや。
祐一さんが二人のこと知ってるみたいやったから、ちょっと訊いてみたんよ」
「んで、俺がなのはが送ってきてたDVDをたまに見せてもらってたと」
「フェ、フェイトちゃん?…見せてたの?」
「え?もしかしてダメ…だったかな?」
「そうじゃないけど…恥ずかしいよー」
顔を真っ赤にして抗議するなのは。
フェイトはそれに苦笑しながら誤り、はやては興味津々だ。
話によれば、はやてが二人と出会ったのは闇の書事件の頃。
つまり、フェイトの裁判が終わってからだ。
だからこそ、出会う以前の二人…友達のことを知りたいのだろう。
祐一はそれを、微笑ましそうに見ていた。
「うー…変な所とかなかったですか?祐一さん」
「ん?ああ、変わった所は、特に。というより、大変だったのはフェイトだろ。
俺もアルフの変わりに何度かビデオレター撮ったんだが…最初なんか硬過ぎるくらいだったし」
「ゆ、祐一さんっ」
「へー…そうなん?フェイトちゃん」
「はぅ…」
思わぬジョーカー(祐一)の発言で、今度はフェイトが赤くなる。
はやてはそれを訊き返し、なのはは興味津々といった感じだ。
祐一はそれを見て、昔の仲間達を思い出す。
今は敵になってしまった者、まだ自分に付いてくれる者。
だが、起きてしまった事や過ぎてしまった事にとやかく言っても仕方が無い。
だからこそ、この子達は自分達と同じにならないように、と。
To Be Continued.....
Shadow Moonより
諸事情により、すみませんが感想は後日……
零華様への感想は掲示板へ。
戻る 掲示板