幸福運ぶ奇跡の春風
第7話
魔導師の少女と二人の旧友
【相沢執務官、そこが終わったら北へ向かってください。
そっちの方角で、まだ感染していない一般の人がいるらしいです】
「了解!」
不可視の魔力弾で、ロストウイルス感染者を撃っていく祐一。
既に現場に着いて二十分経ち、ある程度沈静も出来てきた。
祐一は周囲で立っている最後の感染者を撃ち、指示された方角へと飛ぶ。
「八神指揮官、要救助者の数は?」
【正確には分からないですけど…管制からの話では一人だけみたいです。
南と西にはハラオウン執務官と高町教導官が。そちらにはシグナム准尉に護衛へ回ってもらいますんで】
「分かった。シグナム准尉、俺の目の届かない位置のサポートを。
相手を視認さえ出来れば、俺の魔力とヴェルセフィアのサポートで十分だ」
【了解した】
指定位置に向かいながらも、判断を仰ぎながら進む祐一。
事実、はやての指揮能力は高く、祐一達の指摘も取り入れ、良い指示を出す。
内心安堵の息を吐きつつ、祐一は速度を上げる。
【指定位置まであと二百…っ!?指定位置の生命反応、1から2に。気をつけてください!】
「―――っ」
はやての言葉に、表情を引き締める祐一。
着実に、目的の場所へと近付いて行く。
祐一は途中で下に降り、魔力を出来うる限り抑える。
相手に、自分の存在を気取られないように。
祐一は、近くにあった建物の影から様子を窺う。
そこには――。
「子供…?」
そこには、長い髪を持った少女が蹲っていた。
祐一の視界には、その少女以外の存在は確認できない。
「…セフィ、広域探索魔法は?」
【既に機動してます。現在、この場から半径百メートル以内に人影はありません】
「そうか。…念のため、探索は続けくれ」
ヴェルセフィアを待機状態に戻し、建物の影から出る。
祐一は周りを警戒しながらも、小走りで少女へと近付く。
「大丈夫?」
「――っ!?…誰、ですか?」
恐らく、十二、三歳といったところだろう。
大きなリボンを頭の後ろに付けた、しっかりした感じの少女。
外見に似合わない落ち着いた雰囲気は、確実に実年齢より上に見られるだろう。
「時空管理局所属の執務官だよ。君は?」
「――仕官候補生のギンガ・ナカジマといいます」
比較的優しく声をかける祐一に、名を明かす少女――ギンガ・ナカジマ。
恐らく、祐一の所属を聞いたから、という方が強いだろう。
それでも、身元が分かった事に祐一は内心安堵する。
「家族は?」
「…父は、管理局の地上部隊で部隊長をしてます。
今は妹と二人暮らしで。…姿の見えなくなった妹を探していたら、様子のおかしい人たちが」
「――なるほど」
よく見れば、少し離れた所に倒した覚えのない感染者。
息はしているらしく、恐らくは気絶しているだけだろう。
まだ小さな子供がここまで出来るのは頼もしくもあり、また悲しいことでもある。
管理局に所属することが、必ずしも良い方向に転ぶとは限らないのだから。
【相沢執務官、どうですか?】
「ん、ああ。要救助者の少女を保護した。
まだこの子の妹がいるらしいから、その子もこっちで保護する。
シグナム准尉には出来る限り北地方に感染者が近寄らないようにと」
【聞こえている。今から防衛を主に動こう。
要救助者を保護したら安全地帯で結界内にでも入れて、戻ってくれると助かるが】
「ああ、出来るだけ早く戻る。
高町教導官とハラオウン執務官の方でもサポート頼めるか?」
【はいっ】
【了解です、祐一さん】
手早く通信で現状報告をする三人。
祐一の視界の隅では、唖然としているギンガの姿。
恐らく、候補生ともなれば、少なくとも一度は聞いたことはあるであろう名前の人が数人。
特になのはは、雑誌関連にも載ったことのある有名人だ。
ギンガの反応は当然ではあるだろう。
「さてと…それじゃあ行こうか、ギンガ」
「え…あ、はい。その、お願いします」
返事が返ると同時に、ギンガを抱き上げて飛ぶ祐一。
ギンガは驚いた表情をするが、落ちないようしっかりと祐一の腕を掴む。
「妹さんの居場所は分かる?」
「だいたいは。…多分、北にある森ではないかと。
あの子が行きそうな所で行ってないのは、そこだけですから」
「分かった、そこに行こう。土地勘はないから、道案内よろしくな」
「はいっ」
「――もう少し行った所に、拓けた場所があるんです」
「そこにいる可能性が高い、か」
祐一の言葉に、頷くギンガ。
ここに来るまでに、二人は何度か感染者の襲撃を受けていた。
が、襲撃回数も少なく、ギンガの微力ながらも援護しようという意気込みで、簡単に倒すことが出来た。
既にギンガの言っていた森の奥まで進んでおり、
この森には感染者の反応もない事から、少しペースを落として進んでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
が、祐一の心配は、行方不明の少女よりもギンガに向いていた。
妹を必死に探そうという気持ちは解るが、さすがに無茶をし過ぎている。
森の足元の悪さと、連続しての戦闘。
さすがに、ギンガほどの歳の子供には厳しいだろう。
「…ギンガ、その拓けた場所に行ったら少し休憩しよう。妹さんが居る居ないに関係なくだ」
「でもっ!」
「駄目だ、休ませる」
反論しようとするギンガに、有無を言わせぬ口調で言い放つ祐一。
それにギンガは息を呑み、祐一はきつく言い過ぎたかと内心思う。
しかし、それを表情に出すことはしない。
「ギンガ、君の妹はギンガが無茶をして倒れて、それで喜ぶような子か?
そんなはずはない。そんな子だったなら、ギンガがそこまで必死にはならないだろう」
「そ、れは…」
「優しい子なんだろ?ギンガみたいに。なら、出来る限り心配はさせちゃ駄目だ。
魔導師を目指してるのも、守りたい人が、物があるからなんだろ?だったら、ギンガが助けてあげよう。な?」
「―――」
ギンガは、祐一の目を見る。
それはギンガを言い聞かすだけでなく、自分が出来なかったことを成し遂げてくれと。
まるで、自分と同じようにはなるなと言っているようで。
「…どした?」
「あ、いえ。何でも、ないです」
話しかけられ、つい目を逸らす。
祐一はそのギンガの反応に、不思議そうな表情をする。
「…少し、顔赤いな。疲れが来たか?」
「だ、大丈夫です。…あの子は好奇心旺盛ですから、早く行きましょう」
「…?」
先を急ぐギンガに、首を傾げる。
が、それも少しの間だけで、すぐにギンガの後を追う。
数分歩くと、少しずつ周りの木が減って行き、すぐに拓けた場所へと出た。
「ここは?」
「ここだけ木が生えてないんです。
陽の光を遮らないように、所々こういう所があるらしいです」
「ああ、木の生長か」
頷くギンガ。
確かに、木々が生い茂るのも大事ではあるが、
あまりそれが固まっていても、その中心にある木々が生長しなくなってしまう。
だから所々にこういった場所を設け、木々の生長を邪魔しないようにしているのだ。
「――っ!?スバルっ!」
祐一が辺りを見渡していると、ギンガが走り出す。
その先を見ると、一人の子供が芝の上で眠っていた。
ギンガはその子供の傍へ着き、揺する。
「寝てる…のか?」
「…みたいです」
寝息を立てて眠る子供――スバル・ナカジマ。
しかし、その平和的な姿に、ギンガは安堵の息を吐く。
瞬間、祐一は二人を抱えて後ろへと跳ぶ。
ギンガは驚いていたが、すぐにその目を見開く。
今まで三人が居た場所が、炎によって焼けているのを見て。
「誰だ!?」
「――誰だとは随分ですね、祐一さん。忘れてしまいましたか?」
祐一は、声のした方へと振り向く。
そこには、癖のある髪型をした少女と、髪の両端をゴムで纏めた少女。
その二人は祐一のよく知る二人で、祐一は目を見開く。
「――美汐?真琴…?」
「はい」
「あう…祐一、久しぶり」
To Be Continued.....
Shadow Moonより
諸事情により、すみませんが感想は後日……
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