幸福運ぶ奇跡の春風





    第4話


    再会と出会い





  「改めて――久しぶりだな、フェイト」

  「はい、お久しぶりです。祐一さん」


  フェイトの頭に手を乗せ、撫でる。
  フェイトも一瞬驚いた表情をするが、嫌ではないらしくそのままでいる。
  もっとも、それを生暖かい眼差しで見られている事には気付いていないが。


  「はやても、久しぶりだ」

  「お久しぶりです。だいたい…二ヶ月振り、ですかね?」


  フェイトを撫でる手を止めずに、はやてへと視線を向ける。
  はやてもそれに笑顔で返し、久しぶりの再会に喜ぶ。
  顔見知りへの挨拶もそこそこに、祐一は初対面である二人へ視線を向ける。


  「えっと…高町なのは三等空尉と、シグナム空准尉、かな?
   初めまして。時空管理局所属、相沢祐一執務官だ。一応、階級は一等空尉になる」

  「初めまして、高町なのは三等空尉です。えっと…祐一さん、でいいですか?」

  「シグナム空准尉です。よろしくお願いします、相沢執務官」


  二人の紹介に笑顔で答える祐一。
  最後にポン、とフェイトの頭に軽く手を置き、後ろで見ていた三人の傍へと行く。


  「お久しぶりです、リンディ提督。クロノとエイミィも」

  「久しぶりねぇ、祐一くん。半年近くも会わない間に随分と逞しくなっちゃって」

  「リンディ提督、今は世間話をしている場合ではないと思いますが」


  爽やかに返したリンディも、祐一の鋭い視線で表情を引き締める。
  そのままクロノとエイミィへ視線を向け、それを受けた二人はモニターを出す。
  無数の、目の虚ろな人々が映ったモニターを。
  祐一達は、モニター正面のソファへと行き、それぞれ座る。


  「これ――」

  「ああ、さっきのとは違う。別の世界で起きた、恐らく同一事件の映像だ」


  それに、なのは達は愕然とする。
  あんな目の当てられない様な事件が、以前にも起きていた事に。
  しかし、それを目の当たりにしても、動じない者もいた。


  「――クロノ、これは何時の記録だ?」

  「ちょうど二ヶ月前だ。
   死者は極少数で、生き残った人達は局で保護している。
   ただ――症状を見る限り、恐らく間違いはない。…祐一の持っていた情報とも、合致する所がある」


  祐一とクロノの会話に違和感を覚えたのか、皆の視線が二人へ向く。
  それに気付いたクロノは祐一に視線で問いかけ、祐一はそれに頷く。


  「六年前に起こった遺失物事件、ロストウイルス事件。
   第一級捜索指定遺失物、ロストを元に作られたウイルスが散乱した事件なんだが…。
   恐らく――というよりも十中八九、その時の事件が今回の事件に関与している」

  「そのロストウイルス事件を管轄した部隊に、祐一くんが所属してたんだよ」


  クロノとエイミィの説明で、祐一へ視線が集中する。
  そこには話を聞きながらリンディの淹れた紅茶を飲む祐一。
  恐らく、ここにいる誰もが想像しなかったであろう事なのだから無理もないだろう。


  「…祐一さん、本当なんですか?」

  「ん〜?ああ、本当だぞ。俺が12歳の時だったかな?
   …まぁ、その遺失物専門の機動部隊も、今はもう無いけどな」


  自嘲しているかの様な物言い。
  懐かしみ、悔やみ、悲しんでいる口調。
  が、表情には出さず、仮面を付けてそれを隠す。
  それが、危うさを増しているとも気付かずに。


  「あのウイルスに対する抗体はあるが…僕は効くとは思えないな。
   実際、保護したウイルス感染者には、局で保管していた抗体は効かなかったらしい」

  「そりゃそうだろ。対策のされてるモノをそのまま使うはずないしな。
   色々と改良やら何やら加えてるだろうさ。相手があのマッドドクターだしな。
   何とか治そうと思うなら、あのマッドドクター捕まえて抗体を手に入れるか、自力で作るしかない」

  「…祐一さん、今回の犯人に心当たりあるんですか?」


  はやての言葉に一瞬考え込む祐一。
  しかし、すぐに手元にあった機材を使い、モニターを出す。
  そこには、白衣を着た一人の男性が映し出されていた。


  「高槻直樹。生命操作や生体改造に通じてる科学者で、
   遺失物関連の事件以外にも数多くの事件に関与している事から、広域指名手配されている次元犯罪者だ」

  「生命、操作…」


  祐一の説明を聞いていたフェイトが、その表情を強張らせる。
  フェイトの出生を考えれば当然のことでもあるが。
  それを解っている祐一は特には触れず、モニターへと視線を戻す。


  「俺も以前の部隊に所属していた頃から色々と調べててな。
   単身の執務官として動くようになってから本格的に追ってる犯罪者の一人だ。
   今回こっちに来たのも、高槻の手掛かりを手に入れたから本局と連絡を取るってのが理由の一つだな」

  「まあ、それがいきなり事件に巻き込んでしまったわけだがな。
   フェイト達でも大丈夫とは思ったんだが、嫌な予感がしたし、経験者がいた方が色々といいしな」

  「いや、さすがに今回は危なかったです。
   初見の相手とはいえ、テスタロッサが翻弄されましたから」


  考え事をしていたのか、突然名前を出されて驚くフェイト。
  無論、注目を集めているのは自分なわけで。
  訳が分からず渇いた笑みを浮かべていると、不意に祐一が立ち上がる。
  祐一は無言でフェイトの前へと行き、片膝を付いてその頬に手を添える。


  「え…?え?」

  「――フェイト。忘れてた事があったんだが…」


  一見すれば色々と誤解を招きそうな場面。
  が、フェイトは色々な意味で頭が真っ白になっており、祐一にもその気は毛頭ない。
  意識していないか、と訊かれればノーと即答出来るだろうが、それよりも優先することがあった。


  「お前は…何故に初見の相手とはいえ、自分よりスピードの遅いやつに翻弄されるかっ。
   いつものフェイトなら、怪我はすれども致命傷負わない程度には対処出来たはずだろ」

  「ふ、ふういひひゃん。い、いらいれふ」


  頬を指で摘み、横へと引っ張る。
  無論、言う程痛くはしていないが、気分の問題だろう。
  フェイトは逃れようと顔を動かすが、祐一は巧みに手を動かし、続ける。


  「まったく。…一度、徹底的に戦闘技術叩き込んでやろうか。骨の髄までみっちりと」

  「うぅ、遠慮させてください」


  手を放してもらい、若干涙目になりながらも答えるフェイト。
  周りの面々も、厳しかった表情を緩め、微笑ましそうに見ている。
  祐一はそれに、内心安堵の息を吐く。
  やはり、重い空気は好かない、と。


  「あー、クロノ。後で今回の事件の資料を根こそぎコピーしてくれ。
   知り合い関係にはあらかた教えておかないと。特に母さん辺りはうるさそうだ」

  「ああ、分かった。後で纏めたやつを渡す」


  祐一の頼みを、クロノは快く承諾する。
  知り合い関係といっても、昔から築いた人脈は広過ぎといっても過言ではない。
  故に、ここでの知り合いというのは、特に付き合いのある人物に限られる。


  「まぁ、それはいいんだけどね〜。…祐一くん、一つ大事な事忘れてない?」


  リンディの言葉に周りの面々は首を傾げる。
  それは祐一も例外ではなく、怪訝そうな表情をしている。
  それにリンディは楽しそうに笑いながら、告げる。


  「祐一くん、海鳴に滞在する間、何処に泊まるの?」

  『……あ』


  一瞬にして、しん…と静まりかえるリビング。
  無論、皆の視線は問われた祐一へと向いている。
  予期しなかった質問に祐一はうろたえながら、渇いた笑みを浮かべる。


  「えっと――どっかホテルにでも…」

  「ダメ」


  最後まで言わぬ内に、言葉を遮られる。
  駄目だしされ、若干非難を混ぜた視線をリンディに向ける。
  しかし、リンディはそんなものは気にせず、逆に眩しい程の笑みを浮かべる。
  もっとも、祐一としては厄介事を持ち込まれそうで怖いのだが。


  「夏樹の息子をホテルなんかに一人泊まらせるわけにはいかないわよ〜」

  「…じゃあ、何処に泊まれと?」


  んふふ〜、と笑みを浮かべるリンディ。
  悪戯を思いついたような、楽しそうな笑み。
  リンディに勝ったことなど数える程しかない祐一は、あはは〜、と渇いた笑みを浮かべる。
  そして――。


  「祐一くん、うちにお泊り決定ね♪」


  色んな意味で問題のある発言を落とした。





  To Be Continued.....


Shadow Moonより

諸事情により、すみませんが感想は後日……


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