幸福運ぶ奇跡の春風





    第3話


    少女との邂逅





  呆然とする一同。
  敵も味方も関係なく、ただ一人の人物に視線が向けられていた。
  突如現れた、相沢祐一という少年に。


  「時空管理局執務官、相沢祐一だ。
   遺失物事件の重要参考人として、ご同行願おうか」


  何も持たずに佇む少年に、フェイトを圧倒した少女は動かない。
  正確には持っていないわけでない、と察しているのだろう。
  祐一の右手は何かを持つかの様に握られ、その手の先には歪んで見える空間。
  その空間を肉眼で確認するのは難しいが、魔力の流れで多少は分かる。
  大きさから考え、それは恐らく刀剣の類。


  「ゆ、ういち…さん?」

  「――久しぶりだな、フェイト。
   ただ…どんな状況であれ、諦めるのは良くないな」


  呆然と呟くフェイトに、笑みを浮かべる祐一。
  呆然としていたが、その祐一に対応に笑みを浮かべ、バルディッシュを構えなおす。


  「相沢、祐一…。――なるほど、耳にタコが出来るくらい聞かされた甲斐はあったわね」

  「へぇ、俺の事知ってるのか。ま、誰に聞いたかは大体想像が付くけど」


  知り合いというわけでもないのに、相手は祐一のことを知っていた。
  フェイトはそれに驚きの表情を見せるが、それに動じない祐一に対しても同じ感情を抱く。
  様々なことを考えるフェイトの傍に、なのはとシグナムが到着する。


  「さて、話は後だ。現場指揮官は?」

  【あたしです、祐一さん。お久しぶりです】


  祐一の言葉に、通信で答えるはやて。
  祐一は少女から目を離さないが、その声に笑みを浮かべる。


  「こっちは引き受けるから、周りの処理を頼めるか?
   やり方はさっきまでやってたので間違ってはないから」

  【了解です。
   シグナムはあたしと合流、なのはちゃんとフェイトちゃんはそこから西と東に別れて迎撃や】

  『了解』


  はやての指示に従い、それぞれが動き出す。
  フェイトは未だ話し足りない表情をしていたが、それも一瞬で、すぐになのはとは逆方向に飛び去る。
  そこに残ったのは、祐一と藍色の髪を靡かせる少女だけ。
  しかし、余裕そうに佇む少女に、祐一は怪訝そうな表情をする。


  「――随分と余裕だな。
   あいつらを見逃したのに、わけでもあるのか?」

  「別に、理由なんか無いわ。あなたと戦った方が楽しそうだっただけよ。
   以前、本局直属の遺失物専門機動部隊で部隊長補佐まで務めた“被験者”と、ね」


  瞬間、辺り一帯の空気が変わる。
  穏やかだった風は所々で渦を巻き、暴れる。
  歪ながらも暖かだった気候も、徐々に気温が下がって行く。


  「――よく言った、被験体。ヤツと関わった事、後悔させてやる」


  余裕に構えていた少女の表情が一瞬強張る。
  が、手に持った両刃剣を構え、祐一から微塵も視線を逸らさない。
  逸らした瞬間、それが終わりの時だと察したから。


  「ああ、俺のリミッターは外せないから、警戒の必要はない。
   別にそっちは解除してもいいし、このまま逃げるのも止めない。
   ――どっちにしろ、話す事は話してから消えてもらうけどな」

  「――冗談。やるからには命ギリギリのトコまでやるわよ」


  祐一は強大な魔力を抑えるため、能力限定を受けている。
  そして、今の祐一の魔導師ランクは、1.5ランクダウンのAAA。
  まともにやりあっても、少女より若干上に位置するくらいだろう。
  あくまでも、資料の上での話ならば。


  「――で?見たところクロスレンジが主流みたいだけど、自分の得物を隠したままやるのかしら?」

  「ああ。別に卑怯者と罵ってくれても構わないぞ?
   もっとも、そんな暇があればと、お前に罵る権利があるなら、な」


  罵る権利があれば――。
  そんなもの、自分に無いことは解っていたことだ。
  戦いだけに限らず、過程には何の意味もなく、常に結果が求められる。
  それが全ての世界に共通する概念の一つだろう。


  「そうね。それじゃあ――始めましょうか?」


  瞬間、二人の姿が掻き消える。
  高速移動魔法。
  クロスレンジが主流の者にとっては、必須といっても過言ではないモノ。
  覚えていない者もいるが、それは覚えるまでもないか、補えるだけの何かがある者に限る。
  重装甲の攻撃防御に重点を置いた者か、高速機動の、技とスピードに重点を置いた者か。
  言葉として表せば、たったそれだけの事。
  そして、自身に合ったのがどちらか、見極めるのが最も難しいものの一つ――。


  「セフィ、足を止めろ」

  【OK、マイスター】


  瞬間、少女の姿が肉眼で捉えられるようになる。
  少女は目を見開き、次の瞬間には祐一を睨み付ける。
  その表情は何処か苦しげで、胸元を剣を持たない手で押さえている。


  「何…したのよ?アンタ…っ」

  「何だ、名前は聞いてても他の事は知らなかったのか。
   俺のデバイス、凍てつく風ヴェルセフィアは、大気に魔力を混ぜて操る。
   俺の適正能力も関係してるが、大気を操れれば敵の動きを把握するのは簡単だ。
   ま、今回はちと急ぎなんでな。悪いけど、この周囲の気圧を少しばかり上げさせてもらった。
   じっとしてれば体が慣れて支障はほぼ無いに等しいが、急な気圧変化で体が運動を拒否してるんだよ。
   実際はやるのに時間が掛かり過ぎて実戦向けじゃないけど、無駄話しててくれたからな。その間にちょいと」

  「――化け物、ね。あたし以上の」


  まず普通の魔術師には出来ない芸当。
  いや、出来ない事もないだろうが、出来る者はほんの一握りだろう。
  大気を操ろうという発想は、魔術師や研究者としては珍しくはないだろう。
  が、それをするには先天的な適正能力など、様々な資質が必要になるのだ。


  「まぁ、自分が人間離れしてるのなんか、当の昔に気付いてたけどな。
   さて、どうする?どうやら向こうももうすぐ終わるみたいだし。
   これ以上続けてもお前の負けは見えてる。大人しく情報の一つや二つ置いて行った方が穏便で良くないか?」

  「――あんた、本当に管理局の人間?」


  あまりに大雑把な物言いに、少女は呆れた表情を見せる。
  が、祐一は気にした様子も見せず、飄々としている。


  「昔の功績でな。若干ではあるけど、俺の自由意志で物事を進められるんだよ。
   さて、早期解決は願ったり叶ったりだ。捕まえて何か情報吐いてくれるならこのまま続けるぞ?」


  祐一の言葉に、拒否の姿勢をとる少女。
  それが分かっていたのか、祐一は提案の応諾を促す。
  現状を把握するならば、現在は少女の方が圧倒的に不利。
  少女は息を吐き、持っていた両刃剣を消す。


  「さて、聞きたい事は二つ。
   あんたの名前と、後ろにいるであろう科学者についてだ」

  「――後者については、察しがついてると思うけどね?
   生命研究…特に能力開発やら能力や肉体の強化とか、戦闘に特化した魔導師育成に力を入れてるマッドドクター」

  「…高槻」


  祐一の呟いた名前に、少女は顔を顰める。
  どうやら、少女もその科学者に好意を持っているわけではないらしい。
  少女は言うことは言ったといった感じで、祐一に背を向ける。


  「あ、ちょいまち。前者の方は答えてもらってないぞ」

  「――天沢郁未よ。じゃ、機会があれば最後までやりましょ。今度は互いに、本気でね」


  瞬間、転送魔法で姿を消す少女。
  祐一はまだ訊き足りない表情をしていたが、
  息を吐いて未だ膨大な魔力が放出されている方へと向かう。
  その瞳に、揺ぎ無い強い光を秘めて。





  To Be Continued.....


Shadow Moonより

諸事情により、すみませんが感想は後日……


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