幸福運ぶ奇跡の春風
プロローグ
別れの日
何も置かれていない、ただ広いだけの部屋。
大の大人が百人寝そべっても、まだ余裕はあるだろう広さの部屋。
そこに、一人の少女と、数人の少年少女が対峙していた。
茶色の長髪を靡かせ、一振りの剣を携えた少年と。
「お願い…します。早く、行ってください。じゃないと…」
悲しみに染まった表情で、少年達を見る少年。
剣は誰かを斬ったのか、その刃は血で染まっていた。
それに少年らは悔しそうな表情をし、少女達は悲しそうな表情をする。
「祐くん、よく聞きなさい」
唯一、この中で十代後半に見える少女が言う。
それに無造作に伸ばした茶色の髪を持つ少年が、少女の方を見る。
「ここは私が引き受ける。だから、祐くんは皆を連れて、奥へ行きなさい」
「まこ姉っ!?」
「真琴さんっ!!」
少女の言葉に少年は驚くが、そばにいた少女が叫ぶ。
少女は表情を歪めながらも、剣を携える少年を見る。
その腕から、赤い血を床に落としながら。
「このままだと、数え切れない程の人が死ぬ。
それを止められるのは、今ここにいる私達だけ。
…大丈夫、一弥一人で行かせるつもりはないから」
少女の言葉に、その場にいる全員が目を見開く。
無論、剣を携え対峙する少年も。
少女は傷を押さえながらも、その少年の前へと歩み出る。
「私が居ないと、皆を纏められるの、祐くんしかいないのよ。
これが私の最後のお願い。一弥は私がずっと一緒にいるから。
だから…祐くん、皆と一緒に生きて。今みたいな理不尽を、出来るだけ少なくするために」
「まこ姉…」
「真琴、さん…」
少女の言葉に、少年らは呟く。
それをどう捉えたかは、本人にしか解らない。
しかし、これが別れの時だという事は、ここにいる誰もが分かった事なのだ。
「行きなさいっ!これ以上、被害を広げたらダメよ!」
『…っ!』
少女の言葉に、全員が息を呑む。
そして、その内の一人の少年が奥へと走る。
それに応じて、数人の少年少女達もそれを追う。
ただ、拳を強く握り締め俯いた少女と、何人かの少年少女達を残して。
「…できない。それで、納得なんて出来ませんっ!」
「…納得は、しなくていいわ。結果がどうであれ、私が一弥を殺す事に変わりはない。
だから、私を憎んでくれても構わない。けど、アイツみたいな行動は、止めなさい。
その時には、理不尽を嫌う佐祐理の仲間たちが、あなたを止める事になるかもしれないんだから」
悲痛な表情で叫ぶ少女に、少女は淡々と言い放つ。
少女はそれに眼を鋭くし、先に行った四人を追う。
残った子供たちも少年を追うが、先に進もうという所で残った二人に振り返り、頭を下げる。
それを見た少女は苦笑し、目の前の少年へと視線を戻す。
「まったく、最後まで手のかかる事。ねぇ、そうは思わない?一弥」
「あ、ああぁ…」
少女は声をかけるが、その少年はもう言葉を話さない。
腕は力を抜いて垂らし、それでも剣を放さない。
瞳は焦点が合っておらず、何処か虚ろそうに見える。
口からは唾液を垂れ流し、足を引き摺る様に少女へと歩み寄ろうとする。
それを見た少女は、悲しそうな表情をする。
「…そっか。もう、戻れない所まで来ちゃったか。
でも…不味いのは、私も一緒ね。腕、斬られちゃったし。下手すれば…」
腕の傷を押さえながら、呟く少女。
それでもその瞳は光を失わず、歩み寄る少年を見つめる。
少女は何かを言おうとしたが、それを途中で止める。
どの道、今言ったところで意味がないのだから。
「さて、と。それじゃあ…行こっか。
それで、一緒にあの子達を見守ろう。道を違えても、最後は一緒になりますように…って」
言葉が終わると同時に、少女の目が鋭くなる。
それと同じくして、この部屋を中心に大規模な魔力爆発が起こった。
そしてその半月後、少女を中心とした部隊は解散し、皆は別々の道を歩み始めた。
その中心にいるのは一人の少年。
少女の意志を継ぎ、理不尽と戦うと誓った少年。
袂を別った仲間たち。
意志を継いだ少年と出会う魔導師の少女達。
今はまだ、この先に起こる事を予想した者など、誰もいないのだから。
To Be Continued.....
Shadow Moonより
諸事情により、すみませんが感想は後日……
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